4対1
「神速、悪魔狩り。有名人が釣れたしな。」
赤髪の男の呟きが終わる前に——
ラフィットが引き金を引いた。
銃声が根城の地下室に響く。
だが赤髪の男は動いていた。
音より先に、左腕一本で剣を払い弾丸を弾く。
「ん〜……速いな。」
「フウカ!」
「わかってる!」
フウカは床を蹴り、赤髪の男の側面へ回る。
気の奔流を掌に集め、叩き込む。
ヴォルカは半歩だけ横に体を逸らした。
フウカの掌底が肩を掠める。
「ん、痛。」
全力の一撃を「ん、痛。」と言う男。
「……化け物か。」フウカが歯を食いしばる。
「褒め言葉。ありがとね」
赤髪の男が剣を薙ぐ。
横一文字、たった一振り。
それだけでフウカが吹き飛んだ。
壁に激突し、床に落ちる。
「フウカ!」
ラフィットが連射する。
7発。全弾。
赤髪の男は剣で3発を弾き、2発を体で受け、2発を踏み込みで距離を潰してかわした。
「……ラフィット。こいつ、等級がおかしい。」
起き上がりながらフウカが言う。
「わかってる。」
「倒す必要はない。時間を稼げ。」
「そうは言うけどな……」
赤髪の男が剣を立て、フウカを見た。
「まじめに来いよ。手応えないぜお前ら。」
フウカの眉がつり上がる。
「……言うじゃないか、クソ。」
2人は顔を見合わせた。
一瞬だけ。
ラフィットは懐から、小さな注射器を取り出した。
「……やるか。」
「仕方ない。」フウカが頷く。「起こす。」
====================
精神世界。
ミロクはベルゼブブと並んで、フユの試練を眺めていた。
「あいつ、だいぶ粘るやんけ。」ミロクが呟く。
ベルゼブブは何も言わなかった。
だが深紅の目が、少しだけ細まっていた。
フユが悪魔に吹き飛ばされ、地面を転がる。
それでも立ち上がる。
「あと少しや。」ミロクが小さく言う。
その時——
ミロクの胸に鋭い痛みが走った。
「……ん?」
物理的な痛みではない。
現実側から引っ張られる感覚。
強制覚醒。
「……嘘やろ。」
もう一度、さらに強く引っ張られる。
「お前こら、ラフィット……最悪なタイミングやんけ……!」
ミロクは舌打ちし、ベルゼブブを見る。
「見といてくれ。あいつが名前を引き出す瞬間。」
ベルゼブブが低く唸った。
次の瞬間——ミロクの姿が、精神世界から消えた。
白い空間でも、同じことが起きた。
セゴウが崩れゆく世界の中心に立っていた。
シリアが光の球を守り、全身に汗をかきながら集中している。
その瞬間——セゴウの気配が薄れた。
「……えっ。」
シリアが顔を上げると、セゴウが静止していた。
「少し待て。」セゴウが静かに言う。「外だ。」
次の瞬間——セゴウの姿が消えた。
シリアは一人、崩れゆく白い世界に取り残された。
光の球だけが、かすかに明滅している。
「……セゴウ?」
返事はない。
シリアは光の球を抱えるように両腕で囲った。
「……一人でやるしかないか。」
====================
根城の地下室。
ミロクが跳ね起きた。
「……っ、クソが。」
続いてセゴウが静かに目を開ける。
2人は一瞬で室内の状況を見渡した。
壁に背をつけ立つフウカ。
弾を込め直すラフィット。
そして——剣一本で2人を追い詰めた赤髪の男。
ミロクは無言のまま眉間に皺を寄せた。
セゴウが口を開く。
「……フラットの器化、タルタロスが動くタイミング、この根城の場所。」
赤髪の男を見る。
「全部、この男の手のひらの上だったということか。」
ミロクは床に唾を吐く。
「なんか胸騒ぎはしとったんや……」
赤髪の男は2人が起き上がるのを見て、目を細めた。
「……起こしちゃうのかよ。めんどくせぇなぁ。」
左腕だけで、剣を肩に担ぎ直す。
「多人数相手はあんまり好きじゃないんだよ、俺は。」
嘆息するように言って——口の端が緩んだ。
「まあ、いいか。」
金色の目がミロクを、次にセゴウを捉える。
「傭兵ミロク、大僧セゴウ。」
「まとめてこいよ。」
ミロクは刀を抜いた。
セゴウは手を合わせた。
フウカは拳を構えた。
ラフィットは銃口を向けた。
4対1。
「……殺したろか。」
ミロクが低く言う。
「ん〜、できるもんならね。」
地下室に、闘気が満ちた。
====================
精神世界では——
フユがまた悪魔に吹き飛ばされていた。
右腕が凍りついている。
左腕は焦げている。
全身が悲鳴を上げていた。
それでも——立つ。
「……まだだ。」
悪魔が静かにフユを見下ろす。
金色の眼。氷と炎の息吹。
フユは両手を見た。
「俺が……怖かったのはこいつじゃない。」
呟く。
「俺が怖かったのは……こいつを制御できない俺自身だ。」
悪魔が、わずかに動いた。
一方、白い世界でシリアは一人立っていた。
崩れる床。迫る亀裂。
セゴウはいない。
それでも——光の球はまだある。
シリアはバーサーカーを纏い直した。
爆発させるのではなく、灯すように。
「消えさせない。」
光の球の明滅が——少しだけ強くなった。




