古の森の傭兵
「よおっさん久しぶりやんけ」
銀髪の男がエリックに声をかけた。
「お前…あん時の…‼︎」
「誰ですか?この人は」
フユは尋ねる。
「あーあー、別に気にせんでええよ。
俺はこいつに用があるだけや。のぉ、オッサン」
男はエリックの肩を刀の柄で叩いた。
シリアが戦闘体制に入る。
「コイツはミロク…傭兵軍団サベージの傭兵で、以前内地戦争のときに戦ったことがあるんだ…」
「おっ、覚えててくれたんかい、嬉しいなぁ。
君あれやろ、狂戦士の…まあええわ。
久しぶりに会いにきたわけちゃうねん。オッサン。
お前の子供…俺に渡せや…?な?」
エリックの子供……フラット⁉︎
フユも戦闘体制に入る。
「お前は何を言ってるんだ…?」
エリックの立つ地面から地響きが起こった。
これがレジスタンス隊長格の力……
フユは気圧されてしまう。
シリアもバーサーカーになっていた。
「おー、怖。ほんま堪忍やで。戦いに来たつもりちゃうんやけどな…まあ断るっちゅーても力尽くでも連れていくで?」
ニヤニヤとした顔面を一変させ、ミロクは鞘から刀を抜く。
「あんま……舐めんなや?」
ミロクの闘気が解放された。
禍々しい黒色の闘気だった。
対してエリックの闘気は赤く光っている。
フユは立つことすらできなかった。
「グラン……」
「昇天……」
『コロッサス‼︎‼︎‼︎冥匣‼︎‼︎‼︎』
赤と黒の闘気が混じり合い、天高く打ち上がった。
あたりにはたちまち砂埃が舞い、シリアもフユも起こった事象に追いつけていない。
「エリック隊長‼︎」
シリアが叫ぶ。
砂埃が晴れた。
膝をついていたのはエリックだった。
ミロクは首を鳴らし、口から流れる血を拭う。
「あー、いてて。だから戦いとうないねん…おっさん強いねんからさ…」
刀を肩に叩きながらミロクは言う。
エリックは吐血する。
「はぁ…はぁ…なんて野郎だ…あの時は全然本気じゃなかった…」
「あほゆーなやオッサン。後0.2秒遅かったらこっちがそうなっとるわ。戦線離脱した平和ボケにしてはえげつない能力やわクソが」
イテテ……と言いながらもミロクは称賛する。
「ま、そゆことやわ……おいそこのクソガキ共、あんま見られんの好きやないんやわ。死んで忘れろ」
ミロクはシリアとフユを見る。
「構えろ!フユ!」
シリアはフユの前に庇うように立った。
「お前の強さはよぉ知っとるからな。悪いけど本気やで」
ミロクがスピードを上げる。
「状態合成魔獣‼︎‼︎‼︎」
バーサーカーに変化したシリアはミロクの一太刀を防ぐ。
「けったくそ悪いなぁ……忌み嫌われた、失われた力」
「弥勒千靭」
ミロクの太刀筋は合成魔獣になったシリアを両断した。
「逃げろ…フユ…」
シリアは倒れる。
「無駄に動かしやがって……ほなさいなら。」
自身の師であるエリック、兄弟子であるシリアが倒された。
フユの精神状態は異常をきたしていた。
ミロクは速度を上げフユに斬りかかる。
寸前のところで刀が止まる。
「お出ましかい。」
フユの姿はほとんどなく、見た目はまさに悪魔。
意識を手放したフユは、氷を扱う悪魔になっていた。
「ウガアアアア‼︎」
鋭い爪でミロクの体に傷をつける。
「ぐっ……このハゲタコが!」
ミロクは切り込みのスピードを上げる。
フユはそれを全て捌き、ミロクの腹に爆発を打ち込んだ。
ミロクは間一髪、腹に術を込めていた。
「危ないねん……コラ……」
その間もフユは叫びながら攻撃を続ける。
ミロクはそれを全て避ける。
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『あれ……ここはどこだ……』
水に浮かぶフユは気を取り戻す。
水平線の向こうに人影が見えた。
なぜかそこに向かわないといけない気がした。
『あのー、ここはどこですか……?』
フユは人影に声をかけた。
すると人影は煙になって消えてしまった。
『えっ……?』
人影から生まれた煙がフユを包む。
『FAZE2』
しゃがれた声がフユに話しかける。
『フェーズ……ツー……?』
その言葉を復唱した瞬間だった。
またフユの意識が飛んだ。
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「なんや、それ……」
ミロクは目の前の変化に驚きを隠せない。
フユの風貌は残しつつも、背中から氷でできた尻尾のようなものが5本生えていた。
「人間やないでそら……」
「ウガァアアアア‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
叫びながら攻撃を続けるフユ。
ミロクは受け流すことで精一杯の様子だった。
「お前こら、冗談じゃ済まへんやんけ」
えぐり取られた腹部を抑えながらミロクは言う。
「殺したるわ……天地霊導」
ミロクは渾身の一撃を繰り出す構えを取った。
刀身は黒く染まり、オーラをまとっている。
天を衝く、その一太刀。
そんなことはお構いなしに突っ込んでくるフユ。
「天で悔いろ。存在が罪じゃ」
ミロクが刀身を振り下ろそうとした——その時だった。
ドサッ!
剣が三本、地面に突き刺さった。
フードの男女3人が、暴走するフユを抑え込んでいた。
「遅いわ……死ぬど、ほんま」
ミロクは刀を収める。
「なにが"遅いわ"だよ、勝手に飛び出しやがって」
男が言う。
「お前やお前、ラフィット。お前はいつも遅いねん」
ラフィットと呼ばれた赤髪の男性がフードを外し、怒鳴る。
「あのなあ‼︎ 1番だからってなんでも言う通りになると思うなよ!いつも俺らがお前のケツを拭いてんだ‼︎‼︎」
「そうよ、話し合いをしに来たはずなのに、エリック元隊長もバーサーカーくんも倒してしまってるし」
黒髪の女性が言う。
「それは……あれやん、気になるやん。どんなもんか……」
「フウカの言う通りだ。これは穏便に話を聞いてくれやせんぞ」
体格のいい男性も続く。
「セゴウまでそんなん言うんか……ええよ……すまんかったやん」
そう話している間にもフユは暴れている。
「で、この子。見た感じフェーズ2まで開いてるみたいだけど……ミロク?」
「おん、開けさせた」
ゴチン‼︎‼︎
フウカのげんこつがミロクの頭をとらえた。
「何さらしとんねん!クソ銀髪‼︎‼︎ 大事な"器"やろが‼︎‼︎」
さっきまでとは打って変わった、気性の荒い口調だった。
セゴウは倒れているエリックとシリアを起こす。
「うちのものが申し訳ないことをした。大丈夫か。」
「大丈夫……ではあるが……お前らナニモンだ。」
満身創痍のエリックが問う。
「うちの者が先走ってしまい、余計なことを口にしたようだが、争うつもりは毛頭ない。どちらかというと協力してほしく、伺った次第だ。」
奥のほうで縮こまって正座していたミロクがやじを飛ばす。
「何が協力や!はっきり言えや!利用させてもらいますってな‼︎‼︎」
何か薬を打ち込まれ元に戻っていたフユとともに、ミロクは縛り付けられた。
「手荒な真似をして申し訳ございませんでした。
私たちは黒の救団タルタロスという者でして、今回お伺いしたのは——先程抑えた器、フユ少年と貴方の息子のフラット少年をお借りしたいためでして。
エリック元隊長。貴方なら器についてもお分かりですよね。」
フウカが話す。
「……そう言うことか。あんたらがタルタロス。噂には聞いてるよ。
だが聞くのはいい噂じゃない。協力はできない。セルドアも何を考えているんだ…」
エリックは突っぱねた。
「ほらみろ、お前のせいで警戒されてんじゃねえか」
ラフィットがミロクを叩く。
「どうしてもそうしたいのなら、俺を殺していけ。それが器の守護者の務め。」
「ちょ、エリック隊長!?」
大きくなりすぎる話についていけなかったシリアが突っ込む。
「うむ……手だてがそれしかないのなら仕方ない。」
「え?セゴウ?ちょっと待ちなさいよ……」
セゴウは手を合わせ、技を繰り出す。
「楽にゆけ。鳳凰三堂」
天空から黄金に輝く大きな手がエリックとシリアに襲い掛かる。
「ちょいちょいセゴウちゃん!それはやばいやん‼︎‼︎」
ミロクも焦っている。
だがセゴウは気にも留めず、技を止める気配もない。
まもなくエリック達に到達する——
その時だった。
ドッ。
到達ぎりぎりのところで、手が止まった。
一人の男が、刀で止めていた。
「ふっ、食えぬ漢よ」
刀一本で大技をはじき返したその男は、エリックに話しかける。
「あまり世話を焼かせるなよ。エリック」
「なんであんたがここに……?」
エリックは困惑している。
「……ソウジさん?」
意識を取り戻したフユが声をあげた。
「のぅフユよ。息災か?」
かつて鵺の侵攻を立った一太刀で切り伏せ、フユたちを守った男——ソウジ=オキタだった。
ソウジははじき返した大技を粉々に切り刻み、破裂させた。
「神刀 ソウジ=オキタ。名に恥じぬ太刀筋であった。」
セゴウが拍手する。
「うむ、セゴウもよき技であった。」
いつの間にかセゴウは組み合わせていた手を解き、腕組みをしている。
「お前、ソウジが止めるのわかっててやったな?」
呆れ顔のミロク、ほっと溜息をつくラフィットとフウカ。
エリックとシリアは状況が読めずにいた。
「で……なぜソウジさんがタルタロスと面識が……?」
エリックが尋ねる。
「それは此奴らを束ねておるのが儂じゃからかの。」
「ソウジ様がタルタロスのリーダー?」
困惑するシリアを横目にソウジは続ける。
「左様。まあ荒くれ者じゃった此奴らにしっかりと作法を叩き込んだまでよ」
はっはっはと笑うソウジに、セゴウ以外の3人は苦い顔で俯いた。
何か思い出したくない過去があるのかもしれない。
「で、ミロクが先走って其方らを傷つけてしまい申し訳ない。シリア、エリック、そしてフユよ。其方ら3人には切っても切れぬ話をする」
「まず、シリア。貴殿の持つバーサーカーという能力はロストマジックといい、古代からある能力であることを存じておるな?」
内地戦争の時代——シリアの上司でもあったミゲルロッドファールに告げられたことがあった。
「……はい、それが何か……。」
「エリック、君ならわかるじゃろうが、この能力は悪魔の使う技にそっくりであるな?」
「そう……ですね。だからリチャード隊長がお前を請け負ってたんだ。その力を使いこなすようになるために」
シリアはなぜ自分がナイツバード所属だったのかを、初めて知った。
「では悪魔の力ということですか……?」
「いや、そうではない。あくまでも模したものであることを理解すべきじゃ。
そしてフユよ。貴公の持つ力こそ悪魔の力であることは存じておるな?」
「はい……まだ使えたことは殆どないですが……」
「貴公の持つ悪魔の力とシリアの持つ力は相反するものであることがわかった。両極で話すならフユが闇でシリアが光じゃ。
ただ。ここからが本題での……」
そこまで話すと、セゴウがソウジに代わり口を開いた。
「我々タルタロスは悪魔を冥界に送り返すのが目的で活動している。この世には器と呼ばれる、悪魔と共存しないと生命活動を維持できない人間たちもいる。それが君やフラット君だ。」
フユを指差し、セゴウは続ける。
「我々タルタロスでも、このミロクとラフィットがそうだが——悪魔の持つ力は強大でな。先程FAZE2と聞こえただろう?
それが悪魔に身を委ねる、いわば一方的な契約の合図なのだ。」
「あそこまで顕現するのは初めてやけどなぁ。」
「フユ君、フラット君たち2名は——フユ君は先天的に、フラット君は後天的ではあるが——それぞれ冥域の器を持つ。それを我らの元で鍛え、悪魔を従え、冥域の悪魔たちを浄化する手助けをしてほしいと思っている。」
ここまで黙っていたエリックが口を開いた。
「フラットは……フラットは俺のせいで器になったんだ……あいつが悪魔に敗北する姿なぞ見れない……だとすれば俺が……」
「話は最後まで聞くべきじゃぞ、エリック。
そこでシリアなのじゃ。先刻も言うたとおり、シリアの力は光じゃ。FAZEを抑える力を持つ。そこで君たち3人とフラットには、儂たちの根城にて悪魔との再契約に望んでほしいと思うとる。」




