帰還
「間に合わなかったか!」
ライオットヴァルドの声が廃墟に響いた。
北区チームを連れて駆けつけてきた。
森の奥から禍々しい気配が東へ流れてきた。それを感じ取り、急いだ。
カミルがひょいと廃墟を覗き込む。
「なーんだ、終わってんじゃないですか。」
残念そうに言った。
バンとリザはその声を聞いた瞬間、無意識に一歩後退していた。
さっきまでの記憶がある。
あの目。あの一撃。あの「なんでなんだろうね」という言葉。
カミルはこちらを振り向いてにこっと笑った。
「あ、東区の皆さん大丈夫でしたか?」
バンは何も言わなかった。
リザも何も言わなかった。
2人だけが知っていた。
あの笑顔の意味を。
フユはボロボロのまま壁に背を預けていた。
フラットが隣で座り込んでいる。レイは床に手をついて立ち上がろうとしていた。
ライオットヴァルドが廃墟の中に入り、3人の状態を確認した。
「重傷はないか。」
「……ないです。」フユが答えた。「ボロボロだけど。」
「よかった。禍々しい気配を感じ急いできたが——」
ライオットヴァルドの目が、廃墟の中央に立つ老人を捉えた。
止まった。
「……。」
ライオットヴァルドが、後退した。
大噴火の英雄と呼ばれる男が、一歩引いた。
「ソウジ殿……あなたが!!」
老人——ソウジ・オキタはライオットヴァルドを見て、穏やかに目を細めた。
「そう臆するでない、ライオットヴァルド。」
ソウジは足元の、霧になりかけた鵺の残骸を指した。
「ワシはこいつをおっとったんじゃ。それだけのことよ。」
ライオットヴァルドはしばらくソウジを見ていた。
それから深く息をつき、頷いた。
「そうでしたか……であれば新人たちのことも安心です。」
目を廃墟全体に向ける。
砕けた床。崩れた壁。鵺との戦闘の痕跡が残っている。
「このようなものが出張るとは……本部に報告せねばなりません。リンドウェル近郊で特級が出た。これは只事ではない。」
ソウジはうんうんと頷いた。
「それがよいよの。」
穏やかな声だった。
「因子たちの動きが、あまり良いとは言えぬからな、最近は。儂からもセルドアへ伝えておこう。」
「……よろしくお願いします。」
ライオットヴァルドが頭を下げた。
新人たちは誰も声を出せなかった。
カミルを除いて。
ライオットヴァルドが頭を下げる。
大噴火の英雄が、臆して後退する。
この老人は何者なんだ。
フラットが小さく口を開きかけた。
フユも聞こうとした。
だが体が動かなかった。疲れきっていた。声が出なかった。
ソウジはもう一度だけフユを見た。
何も言わなかった。
ただ、穏やかに頷いた。
それだけで、廃墟の入口から外へ出ていった。
小柄な背中が朝の光の中に消えていく。
誰も引き止めなかった。引き止められなかった。
「……行くぞ。」
ライオットヴァルドが静かに言った。
「各自、自団の基地へ帰還しろ。報告は後だ。今は休め。」
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廃墟の外に出た。
朝の光が眩しかった。
フユは空を見上げ、目を細めた。
体中が痛かった。
特級の一撃を受けた腕はまだ痺れている。
隣でフラットが息をついた。
「……生きてるね、僕たち。」
「ギリギリだったけどな。」フユが返す。
レイは黙って歩いていた。
フユはその横顔を見た。
任務を通じて、レイとの間にあった気まずさが——どこかまだある。
だがこの場で確かめる気力はもうなかった。
後でいい。後で話す。
「フユ。」
レイが先に口を開いた。
振り返らないまま、歩きながら言った。
「……生きてよかった。」
それだけだった。
フユは少し目を見張った。
「……ああ。」
短く返した。
それだけで十分だった。
フラットが2人の顔を交互に見て、にこりとした。何も言わなかった。
カミルは集団の後ろをふらふらと歩きながら、また東の空を見ていた。
バンとリザはカミルから少し距離を取って歩いていた。
2人の間にあるものを、他の誰も知らなかった。
それぞれが疲れた体を引きずり、リンドウェルへの道を歩いた。
朝の光の中を、新人たちが帰っていく。




