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STAR RAIN  作者: bagswife
19/30

帰還

「間に合わなかったか!」


ライオットヴァルドの声が廃墟に響いた。


北区チームを連れて駆けつけてきた。

森の奥から禍々しい気配が東へ流れてきた。それを感じ取り、急いだ。


カミルがひょいと廃墟を覗き込む。


「なーんだ、終わってんじゃないですか。」


残念そうに言った。


バンとリザはその声を聞いた瞬間、無意識に一歩後退していた。

さっきまでの記憶がある。

あの目。あの一撃。あの「なんでなんだろうね」という言葉。


カミルはこちらを振り向いてにこっと笑った。


「あ、東区の皆さん大丈夫でしたか?」


バンは何も言わなかった。

リザも何も言わなかった。


2人だけが知っていた。

あの笑顔の意味を。


フユはボロボロのまま壁に背を預けていた。

フラットが隣で座り込んでいる。レイは床に手をついて立ち上がろうとしていた。


ライオットヴァルドが廃墟の中に入り、3人の状態を確認した。

「重傷はないか。」

「……ないです。」フユが答えた。「ボロボロだけど。」


「よかった。禍々しい気配を感じ急いできたが——」


ライオットヴァルドの目が、廃墟の中央に立つ老人を捉えた。


止まった。


「……。」


ライオットヴァルドが、後退した。


大噴火の英雄と呼ばれる男が、一歩引いた。


「ソウジ殿……あなたが!!」


老人——ソウジ・オキタはライオットヴァルドを見て、穏やかに目を細めた。


「そう臆するでない、ライオットヴァルド。」


ソウジは足元の、霧になりかけた鵺の残骸を指した。


「ワシはこいつをおっとったんじゃ。それだけのことよ。」


ライオットヴァルドはしばらくソウジを見ていた。

それから深く息をつき、頷いた。


「そうでしたか……であれば新人たちのことも安心です。」


目を廃墟全体に向ける。

砕けた床。崩れた壁。鵺との戦闘の痕跡が残っている。


「このようなものが出張るとは……本部に報告せねばなりません。リンドウェル近郊で特級が出た。これは只事ではない。」


ソウジはうんうんと頷いた。


「それがよいよの。」


穏やかな声だった。


「因子たちの動きが、あまり良いとは言えぬからな、最近は。儂からもセルドアへ伝えておこう。」


「……よろしくお願いします。」


ライオットヴァルドが頭を下げた。


新人たちは誰も声を出せなかった。

カミルを除いて。


ライオットヴァルドが頭を下げる。

大噴火の英雄が、臆して後退する。


この老人は何者なんだ。


フラットが小さく口を開きかけた。

フユも聞こうとした。


だが体が動かなかった。疲れきっていた。声が出なかった。


ソウジはもう一度だけフユを見た。


何も言わなかった。

ただ、穏やかに頷いた。


それだけで、廃墟の入口から外へ出ていった。


小柄な背中が朝の光の中に消えていく。


誰も引き止めなかった。引き止められなかった。


「……行くぞ。」


ライオットヴァルドが静かに言った。

「各自、自団の基地へ帰還しろ。報告は後だ。今は休め。」


====================


廃墟の外に出た。


朝の光が眩しかった。

フユは空を見上げ、目を細めた。


体中が痛かった。

特級の一撃を受けた腕はまだ痺れている。


隣でフラットが息をついた。

「……生きてるね、僕たち。」

「ギリギリだったけどな。」フユが返す。


レイは黙って歩いていた。


フユはその横顔を見た。

任務を通じて、レイとの間にあった気まずさが——どこかまだある。

だがこの場で確かめる気力はもうなかった。


後でいい。後で話す。


「フユ。」


レイが先に口を開いた。

振り返らないまま、歩きながら言った。


「……生きてよかった。」


それだけだった。


フユは少し目を見張った。


「……ああ。」


短く返した。


それだけで十分だった。


フラットが2人の顔を交互に見て、にこりとした。何も言わなかった。


カミルは集団の後ろをふらふらと歩きながら、また東の空を見ていた。

バンとリザはカミルから少し距離を取って歩いていた。


2人の間にあるものを、他の誰も知らなかった。


それぞれが疲れた体を引きずり、リンドウェルへの道を歩いた。


朝の光の中を、新人たちが帰っていく。



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