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STAR RAIN  作者: bagswife
18/30

デズノールを3体倒した。


「あと何体いるの。」フラットが息を整えながら言う。

「わからない。でも——」


フユは廃墟の奥を見た。

胸の共鳴がまだ続いている。いや、さっきより強くなっている。


「まだいる。」


「どこだ。」レイが水を引き寄せながら問う。


「奥じゃない。」フユは天井を見上げた。「上だ。」


その瞬間、廃墟の天井が抜けた。


====================


降ってくる瓦礫と砂埃の中、3人は散開した。


煙が晴れた時——それがいた。


頭はサルのものだった。

丸く、黒く、目が4つある。


胴体はタヌキのように膨れた大きな体躯。

だが手足はトラのもので、一歩踏み出すたびに床の石が砕けた。


尾はヘビだった。

長く、太く、それだけで壁を叩き壊すほどの力がある。


「……なんだ、あれ。」フラットが呟く。


声が震えていた。フユも同じだった。

これはノールでもデズノールでもない。


別の何かだ。

圧倒的に格が違う。


「聞いたことある....この身なり…鵺だ…」フラットは絶望交じりに言う


「逃げよう!」フラットが言う。

『こんな覇気のやつから逃げ切れるのか。』レイが考える。


鵺の4つの目が3人を見ていた。

全てを捉えているような目だ。どこへ逃げても見えている。


「——行くしかない。」


フユは剣を構えた。


「フユ!!」フラットが叫ぶ。


遅かった。


鵺のトラの手が薙ぎ払った。


フユは吹き飛んだ。壁に叩きつけられ、床に落ちた。


「っ——!!」


立ち上がろうとする。腕に力が入らない。


レイが水槍を射出した。

鵺に向かって5本同時に——全て、ヘビの尾が弾いた。

弾いた勢いのまま尾が薙ぎ払い、レイが吹き飛ぶ。


「レイ!!」


フラットが炎を纏わせた剣で飛び込む。

デズノールに有効だった炎。鵺の体表を焦がした。


だが鵺は止まらなかった。


サルの顔がフラットを見た。

口が開く。鳴き声のような、しかし何か別の——低い、響く音が出た。


フラットの足が止まった。

炎が消えた。剣が下がる。


「……体が、動かない。」


鵺の声に、動きを封じる力があった。


3人がほぼ同時に床に膝をついた。


ボロボロだった。

まともに一撃も通っていない。


鵺がゆっくりと歩いてくる。

急がない。もう終わりだとわかっているような歩き方だ。


フユは歯を食いしばった。


立て。立て。


立てない。


胸の奥で——ざわめきが大きくなった。


さっきまでと違う。

共鳴ではなく、何かが押し上げてくる感覚だ。

熱くも冷たくもない。ただ、黒い。


漏れ出そうとしている。


キャブラ戦の時のあれが——もっと大きな形で、今にも溢れ出そうとしていた。


やられる。そう思った瞬間に、もう止めなくていいと思い始めている自分がいた。


出せ。出せば終わる。


「——出さなくて良いぞ。」


声がした。


老人の声だった。


フユは顔を上げた。


廃墟の入口に、白髪の老人が立っていた。

小柄だった。杖もない。武器らしいものは腰の一本の刀だけだ。


鵺がその老人を見た。


4つの目が、初めて——何かを警戒する動きをした。


老人はゆっくりと歩いてきた。

フユの前を通り過ぎ、鵺の前に立った。


静かだった。


刀を抜いた。


一太刀。


鵺が、真っ二つに割れた。

霧になって消えた。


静寂。


フラットが口を開けたまま固まっていた。

レイも動かなかった。

フユも言葉が出なかった。


老人は刀を鞘に収め、3人を振り返った。


皺の深い顔。穏やかな目。

強さの気配が——どこにもなかった。今この瞬間まで、ずっとそこにいたのに誰も気配を感じなかった。


「大丈夫かの。」


老人が言った。


フラットが先に口を開いた。


「あ、あの——あなたは。」


老人は少し目を細め、穏やかに答えた。


「儂はソウジ・オキタと申す。」


フユはその名前を知らなかった。

レイもフラットも、知らなかった。


だが——


胸の奥の闇が、静かになっていた。

老人がフユに手を翳した瞬間、あの押し上げてくる感覚が、すうっと引いていた。


「お前の中にあるものは、今は出さなくていい。」


ソウジはフユだけを見て、静かに言った。


「まだその時ではない。」


フユは答えられなかった。

ただ、その目を見た。


何かを全部知っているような——そういう目だった。



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