廃墟の底
東区の外れ。
廃墟が見えてきた時、3人は自然と足を止めた。
かつて何かの工場だったらしい。骨組みだけが残った建物が複数並び、
その奥に、より大きな廃屋がある。
「……感じるね。」フラットが呟く。
「ああ。」フユが答える。
空気が違う。
ノールの時とも違う。あれより重い。淀んでいる。
建物の影から、見えない圧力が滲み出てくるような感覚だ。
「行くぞ。」レイが先に歩いた。
====================
廃墟の内部は薄暗かった。
天井の一部が抜け、差し込む光が帯のように床を照らしている。
足元にはかつての機材の残骸。
錆びた鉄。砕けた石。
3人は散開しながら進んだ。
最初の気配は——上からだった。
天井の梁の上で何かが動く。
黒い。でかい。
ノールよりひと回り大きく、体の亀裂から漏れる紫の光が鋭い。
「デズノール。」
レイが即座に水を展開した。
廃墟の壁の染み、床の溜まり水——引き寄せ、硬質化させ、槍の形に成形する。
3本の水槍が宙に浮いた。
「行く。」
水槍がデズノールに向かって飛ぶ。
直撃した。
だが——デズノールは怯まなかった。
命中箇所が瞬時に再生していく。黒い体表が盛り上がり、ひびが塞がる。
『…再生速度が速い。』レイが眉を寄せる。
「リザが言ってた。核が深部にある。表面を削っても無駄だよ。」フラットが言う。
「わかってる。だが核の位置が見えない。」
デズノールが梁から飛び降りた。
着地の衝撃だけで床が陥没する。
「でかっ……!!」フラットが後退する。
デズノールの腕が横に薙ぎ払われる。
フユは跳んでかわした。フラットも転がった。
レイだけが動かなかった。
「——レイ!!」
水の盾を展開して受けた。
硬質化した水の壁。衝撃が走り、レイの足が後ずさる。
「……っ。重い。」
レイは等級で言えばレイはデズノールより上だ。
聖上級。デズノールは中級。
数字の上では圧倒できるはずだった。
だが実戦は違う。
セナがかつて言っていた言葉をフユは思い出した。
——剣筋は悪くない。当て方が全部力任せなだけで。
等級は力の大きさだ。使い方じゃない。
「レイ、無理に受けるな!!」
「わかってる……」
デズノールが再び腕を振り上げる。
「フラット!!」
フユが叫んだ。
フラットが両手を前に出した。
剣に炎を纏わせ、横から斬り込む。
炎の斬撃がデズノールの体表を焦がした。
「あ——焦げた箇所が再生しない!!」
黒い体表に焼け跡が残っている。
「火が有効か。」レイが素早く状況を読む。
「フラット、動きを止めろ。俺が核を探す。」
「わかった!!」
フラットが剣を連続で振るい、デズノールの注意を引き付ける。
炎の軌跡がデズノールの体に次々と焦げを作っていく。
その間、レイは目を細めた。
体表が焦げて薄くなった箇所から、内部の光が透けて見える。
ノールの時と同じ——紫の因子の集中部位。
「——胸の中央、少し左。」
「フラット、退け!!」
フラットが横に飛ぶ。
レイの水槍が4本同時に射出された。
今度は表面ではなく、焦げで薄くなった箇所を狙って角度を作った1本が——深く、刺さった。
デズノールが初めて動きを止めた。
「今だ!!」
フユが走った。
剣を構え、水槍が刺さった箇所へ真っ直ぐ踏み込む。
力任せではなく、正確に——核の位置へ向けて。
剣が深く入った。
デズノールが崩れた。黒い霧が散っていく。
3人が荒い息を整えた。
「……倒した。」フラットが膝に手を当てながら言う。
「ああ。」フユが答えた。
レイは何も言わなかった。
自分の水槍を見ていた。
等格下の相手にここまで手こずった事実を、静かに受け止めているようだった。
「レイ。」フユが声をかけた。
「……わかってる。実戦が足りない。」
先に言われた。フユは黙った。
「でも最後の水槍、角度よかったよ。」フラットが言う。
「そうか。」レイは短く答えた。
3人が息を整えながら廃墟の出口へ向かおうとした——
その時。
「……気配が消えてない。」
フユが立ち止まった。
胸の奥のざわめきがある。
ノールの時と同じ。あの、引き寄せられるような共鳴が。
1体じゃなかった。
廃墟の奥、暗がりの中で複数の紫の光が揺れている。
「……何体いる。」フラットが声を落とす。
フユは目を凝らした。
1つ、2つ、3つ——
「三体いる。」
沈黙が落ちた。
レイが水を再び引き寄せ始めた。
フラットが剣を構え直した。
「さっきの方法が通じるなら、やれる。」フユが言った。
「やるしかないよね。」フラットが苦笑いした。
レイは何も言わなかった。
ただ前を向いた。
暗がりから、紫の光が3つ、ゆっくりと近づいてきた。




