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STAR RAIN  作者: bagswife
12/30

凍てつく夜明け

踏み込んだ瞬間から、フユは押されていた。


キャブラの鎖が空気を裂く。

フユは横に跳び、壁を蹴り、角度を変えながら間合いを詰めようとする。

だが詰めるたびに鎖が先回りする。


「さっきより速い。」キャブラが言う。感心しているような声だった。

「余裕そうだな!」フユが返す。

「余裕だよ。お前はまだ俺の懐に入れていない。」


レイは右腕を封印されたまま、壁際で状況を見ていた。

左手で工場内の水分を引き寄せようとするが、能力が使えない。闘気を感じないのだ

手が出せない。


なら俺ができることはー


「フユ。鎖の振り方に規則性がある。」レイが静かに言う。

「三振り目が右に流れる。」

「その間に——」

「入れない!入ろうとするとすでに四振り目が来る!」


2人の会話を聞きながら、キャブラは少し目を細めた。


「いい連携だ。だがそれを分かっても俺には届かない。なぜかわかるか。」


フユは答えなかった。前に出た。


三振り目。鎖が右へ流れる。

フユは踏み込んだ。今度こそ——


四振り目ではなかった。

キャブラは鎖を使わなかった。


自らの足でフユの前に出て、首元を掴んだ。


「——読まれていた。」


「お前が俺の動きを読んでいるように、俺もお前の動きを読んでいる。同じことだ。経験値が違う。」


そのまま持ち上げ、床に叩きつける。


「ぐ——っ……!!」


フユが起き上がろうとする。腕に力が入らない。

キャブラが鎖を手繰り寄せ、フユの体に巻き付けた。


じゃらりと重い音がした。


「終わりだ。」


封印の鎖——イグナイトチェーン。

使い手の闘気そのものを封じ込める能力。

闘気が封じられれば能力は使えない。動けなくなる。


鎖がフユの体を締め付けた。


「……!!」


封印が——始まらなかった。


キャブラの眉がかすかに動く。


「なんだ……?」


鎖が闘気を感じていない。能力が発動しない。

むしろ、逆だった。


フユの体から何かが滲み出てくる。


黒い。

煙のような、霧のような。

しかしそれは確かな熱量を持っていた。いや——熱ではない。冷気だ。


「……っ。」キャブラが思わず鎖を引いた。

鎖が熱を持ったように——正確には、逆に冷えた。


フユの闘気の中に混じった冥級の悪魔の因子。

人では計れない格の気配。

封印の鎖がそれを閉じ込めようとして——弾かれた。


むしろ、少し漏れ出た。


フユは気づいていなかった。

ただ、鎖の重さが急に消えたことに気づいた。

体を走る冷気が自分の内側から来ていることに気づいた。


「な……に、これ。」


声が出た。自分の声だ。意識はある。

だが体が——動かない。


動かないのではなく、動かす必要がなかった。


フユの周囲に、黒い霧が広がっていった。


ゆっくりと。

だが確実に。


接触した床の泥が固まった。

壁の水気が結晶になった。

空気が白く煙った。


凍てつく。


工場の最奥が、見る見るうちに白に染まっていく。


「なんだこれは……!!」


キャブラが後退する。鎖を構えなおそうとする。

鎖が凍っていた。関節が動かない。

足元の床が氷になっていた。


「……ッ——」


キャブラの体が動かなくなった。

足から。腰から。胸から。


全身が氷に閉じ込められていく。


「……これは。」


凍りつきながら、キャブラは笑っていた。


「お前、悪魔——」


言い終わる前に、表情ごと凍った。


====================


部屋が静寂に包まれた。


白い霧が漂っている。

床、壁、天井——全てが薄く氷に覆われていた。


氷の中心に、フユがいた。

立ったまま、目を閉じて、意識を失っていた。


ゆっくりと崩れるように倒れる。


レイだけが見ていた。


右腕を封印されたまま、壁際に立ったまま、ただそれを見ていた。


「……なんだ、それは。」


声は出なかった。心の中でだけ、そう呟いた。


凍りついたキャブラ。

氷の床に倒れたフユ。

白く染まった部屋。


これは能力だ。

だが何の能力だ。

フユはそんな力を持っていると言っていたか。


——悪魔因子。


ノールが引き寄せられると、ムサシが言っていた。

フユ自身も、胸の奥のざわめきのことを話していた。


「……お前は何者なんだ。」


レイは封印された右腕を見た。

それからフユを見た。


朝の光が工場の隙間から差し込み始めていた。

白く染まった部屋に、橙の光が滑り込んでくる。


氷が少しずつ溶け始めた。


キャブラはまだ凍っている。

フユはまだ目を開かない。


レイは左腕だけで、フユの体を引き寄せた。

冷たかった。


「……生きてるな。」


呼吸はある。脈もある。


「馬鹿め。」


静かにそう言って、レイはフユの頭を床から持ち上げ、自分の膝の上に置いた。


援護が来るまで、ここを動かない。

それだけを決めた。


溶けていく氷の音が、静かに響いていた。



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