18話 絶望の先
僕は花束を持っていた。
花屋さんで見繕って貰ったのだ。
燐火の病室の前で、僕は立ち止まる。
そう、落ち着くのだ。そして、笑顔を絶やさない為に。
コンコン。
「奏介だよ!燐火!今大丈夫?」
「ちょっと待って!」
僕はしばらく待った。
と、いっても5分もかかってはいない。
「いいよ!どうぞ!」
「お邪魔します!」
燐火はかなり頬が痩けていた。
帽子を深く被り、手でしきりに直している。
燐火の髪の毛はかなり抜けた。
抗がん剤の副作用でだ。副作用は髪の毛だけではない。目眩や痛み、吐き気、その他、色々な症状を引き起こす。
癌細胞だけを殺す薬は無い。
抗がん剤が正常な細胞も蝕むのだ。
注射の投与は2回された。
効果があるのか、まだ不明である。
「これを」
「うわぁ!ありがとう!」
燐火のお母さんが花瓶に飾ってくれた。
花の香りを嗅ぐ。燐火は外に出られないから、こういうのは嬉しいのではないだろうか?
男の僕にはよく解らないけど。
僕は毎日、燐火の見舞いに来ている。
でも、付き合ってはいない。
死ぬかもしれない。だから、付き合えない。
燐火に僕はフラれたのだ。
遅くまで居ると、燐火のお母さんに追い出される。仕方なく僕は退散するのだ。
家に帰ると、毎日ボーッとしている事が多くなった。やる気も出ない。何もしたくないのだ。
僕は何時から、こんな無気力な人間になってしまったのだろうか?毎日が楽しくて、隣には燐火が居た。いや、居てくれた。
そういえば、燐火とゲームやっていたな。
実況パワフル風呂野郎の起動をした。寺師羽根のデータが残っていたのだ。続きを選択し、僕はゲームを進める。
やけに能力が高い。
ああ、そうか。ダイジョーブ伯爵で成功したからか。試合にも勝ち、甲子園を優勝した。
ああ、強いキャラが作れたわ。
僕はそう思って、ボタンを押したら、2月4週で止まった。
あれ?バグが?
そう思っていたら、ダイジョーブ伯爵が現れたのだ!!うそ!?このタイミングで出現するのかよ!こんな事、聞いた事が無い!
『なぁ、賭けようぜ』
僕の心の中に、悪魔の声が響いた。
な!?僕は驚いた!
『あの女を助けたいのだろ?なぁ、賭けようぜ』
何を賭ければ・・・。
『お前の全てだ』
僕は悩んだ。
悪魔の賭けに勝てば、燐火を救える。が、負ければ僕は消えるだろう。
勝負は、何にするんだ?
『そいつの成功か、失敗か、だ。今回は俺が決めさせて貰う』
な!!
『俺は失敗するに賭けるぜ』
圧倒的に不利だ。
成功確率は30%。10回に約3回の成功となる。
その条件はこっちには不利じゃないか!
『文句を言われる筋合いはねぇな』
それだけの対価が必要って訳か。
『お?分かったか。なら、話は早い。賭けようぜ』
もし………。
『ん?』
もし、失敗しても、燐火には手を出さないと約束してくれないか?
『そんなに大事か?』
僕にとって、そういう存在だと気が付いた。
賭けよう!ダイジョーブ伯爵は手術を成功させると!
『いいぜ!楽しくなってきた!』
僕は付いていくを選択し、ボタンを押した。




