16話 抱いて下さい
この話は短いです。
銭湯から帰ると、燐火が玄関に立っていた。
暗いので、表情が分からない。暑いから、僕の部屋で待ってればいいのにと思った。
「燐火、どうし───」
燐火に抱き締められた!
あまりに突然だったので、僕は何も出来なかったのだ。燐火の良い匂いがする。あ、と思ったけど、僕はお風呂上がりなので、汗臭くはない。ホッとした。
「……………奏介_……………あたしを抱いて」
「え!?…………今、抱き締めてる、けど?」
燐火が僕の顔を見た。
上目遣いで、涙を流す。一体何があったというのだ!?僕は不安になった。そういえば体調が悪いとか言ってたよな?
「そうじゃない!…………あたしと………エッチ………………しよ?」
あまりの衝撃に僕は動揺した!
燐火を女と見ていなかったのだ。そりゃあ、やましい気持ちはある。僕も男の子だからね。
心の上に蓋を閉めていた。
燐火とはそういう関係になってはならない。
「燐火、何があったんだ?」
「………言いたく……ない」
「なら、燐火のお母さんに聞く」
「それは…………」
「燐火!何があった!?」
「う、う、うわあああんんんん!!!!!!」
燐火は泣いた。
泣きじゃくり、鼻水も唾液も、構わずに。
どれ程の時間が過ぎたか分からない。
燐火が落ち着くまで、僕は頭を撫でた。シャツはビショビショで、しかも汗を沢山かいている。弱ったな。また風呂に入らなくてはならない。僕はそう思った。
「奏介、ごめん」
「いいよ。僕の部屋に行こうか」
「………うん」
燐火はか細い声で、そう答えた。
何かあると困るので、妹の岬を呼んだ。
岬は今年13になる。中学1年生だ。
「燐火お姉ちゃん、お久しぶり」
「………うん。岬ちゃんも」
岬は中学で部活に入っている。
休みの日でも、練習で忙しいのだ。毎週燐火が来ていても、月に1度顔を会わすか、会わさないかである。
「奏介、あのね───」
燐火は重い口を開く。
癌になった。僕は驚きを隠せないでいた!右膝が痛くて我慢していたらしい。そして、昨日、精密検査を受けたのだ。すると、右膝に癌の腫瘍が見つかった。悪性だとの事。
だが、それだけではなかったのだ。皮膚癌に犯されていた。全身に。幸い、臓器には転移しておらず、そこだけが救いだった。
明日から入院生活が始まる。
だから、最後に僕に抱いて欲しいと燐火は願った。
「燐火、治療はするんだろ?」
「………5%」
「え?」
「お薬が効いて、生存確率が、ね」
「おい!嘘だろ!?」
「レベル3なんだって。もうレベル4に移行してもおかしくない、らしいよ。あはははは」
慌ててネットで調べる。
しかし、僕にはよく分からなかった。でも、ステージが0~4で、4はもう助かる確率は0に等しい。だから、3だという事は、かなりヤバいのだ。
「大丈夫、燐火、大丈夫だから」
僕は燐火にそう言い聞かせた。
いや、自分にそう言い聞かせたかっただけだ。
燐火を家に送り、僕は辺りを見回す。
あの電柱が。僕は怖くなり、遠回りして家路を急いだ。




