2
交代の時間が来たので申し送りをした後、持ち場を離れる。午後からはトレーニングの時間だ。その前に腹ごしらえをしようと食堂へと向かった。
兵に割り当てられた所定の出口へと行くには、途中廻廊を通らなくてはならない。その長い廊下で囲まれた中庭を見るともなしに眺めながら歩いていると、花々の色とはまた違う一際鮮やかなドレスが目に入った。
遠目から見えるその姿がありし日の彼女と重なる。
今でも鮮やかに蘇るあの時の立ち姿。
時間と空間がまるで支配されたかのようなあの瞬間。部屋に佇んだあの人は、まるで人ではない何か、超越した存在か何かのようで。
重苦しく痛む胸を思わず押さえ、目を閉じたが、瞼の裏にはその時の彼女がちらつく。
彼女は独自の雰囲気を作り出すのが上手い。男の時は男、女の時は女、回りに気づかせずその場に溶け込んでしまう。さながらカメレオンのように。現に彼女の性別に気付いている者は極僅かだ。彼女の技術は並外れている。一体あの経歴の中でどれだけの苦労をしたのだろうか。
とにもかくにも誰にも憚る必要がなかったあの時の姿こそ、彼女本来の姿だったのだと今改めて思う。
薄ピンクをした部屋に佇みこちらを見て微笑む、インディゴブルーを身に纏った彼女のその浮世離れしたような姿に我を忘れた。
今日はやたらと彼女の事がよぎるな。きっと寝不足のせいなのだろう。トレーニングは早めに切り上げた方が良さそうだ。
中庭の女性から目を離し、食堂へと向かう。確か今日の昼の料理担当はイグプリームさんだったはずだ。ナリアッテの情報によれば、最近料理研究に余念がないと言っていたので軽食とはいえ期待していいはずだ。
よし、気持ちを切り替えよう。