魂の悪魔
クレアのお気に入りという料理店ではハープのような音色がどこからか流れ、龍人族の料理が野蛮だと思うほど綺麗に盛りつけられた肉や野菜の味ときたら未だかつて食べたことはなく口では表現できない頬も落ちる味だ。それに龍人族の料理は手づかみだが妖精族はしっかりと道具を使う。道具と言っても現実世界のナイフとフォークとそう変わったものではなくただナイフが鋭利すぎるのは誤って落とした時に足に刺さった場合の事を考えているのかと思う。
料理自体、テレビでたまに見るフランスあたりの料理のようで無駄に面積の広いお皿にちょこんと乗っている食材はお皿の大きさと同じように期待させられる。
「どうですか?美味しいですか?」
クレアはナイフとフォークをお皿に置き、二人の感想を待っていた。煌牙は口に入っていたなんの動物かも分からない肉を飲み込み言った。
「美味しいは美味しいけど俺は龍人族の料理みたいにガッツリ食べてる方が食べてる感じがしていいな」
一馬はそれを聞きやっぱり煌牙は自分と同類なのだとハッキリ分かった。一馬もどちらかというとチマチマ食べるよりガッツリ食べるほうが好きなのだ。
「そうなんですか、実は私龍人族の料理を食べたことがなくて」
「じゃあ、ずっと妖精族の料理しか食べてないの?」
「ええ、どうしても他種族の食文化が好きになれなくて」
「まぁなんとなく分かるけど案外いけるよ?」
「そうなんですか?でもやっぱりあんな気色の悪い食べ物受けつけないなぁ」
クレアは苦笑まじりに他種族の食べ物なんて食べたくないと言っているようだった。確かに現実世界にもタランチュラを揚げて食べたり、孵化直前の鳥のひなを食べたり羊の脳を食べたり牛の睾丸を食べたりと思わず吐き気がするような珍味が存在するのは確かだ。がしかし食べてみると見た目とは裏腹に美味しいのだ。
食べず嫌いが不特定だがたくさんいるのはなんともったいないだろうか。話が脱線するが食べず嫌いとは見た目でこれはうまい。これはマズイと判断していると思う。それはアニメオタクを毛嫌いする人達のように◯◯オタクキモいなど批判する者は大体ろくに観たこともないのにキモいやらウザいやらと言いたい放題だ。なのに自分の趣味を批判されたら機嫌を悪くするのは自己中心的だとは思わないだろうか?まずは食ってから観てから批判をして欲しい。
話が脱線したが一馬も煌牙もクレアにはぜひ龍人族の料理を食べて欲しいと思った。だがクレアの拒絶の仕方はおそらく断固拒否の現れなのだろう。
煌牙は美味な食事を済まし背もたれに身を預けていたが重要なことを思い出しガッと立ち上がった。
一馬とクレアは煌牙の行動をただ見ていたが煌牙が一馬を見ながら言う。
「一馬、俺はここでひと時を過ごす気なんてなかったのにクレアにまんまとのせられたじゃねーか!」
「まぁ、座れよ。」一馬は肉をフォークで刺したまま煌牙に落ち着けと促す。
再び席に座った煌牙はフーと息を吐きクレアのオススメの妖精族特製野菜ジュースを飲み干す。
「煌牙の言いたいことは分かるがそんなに焦る必要もないだろ。」
「一馬にしてはのんきな事を言うな。俺の知るお前はいつもせっかちなんだがな」
「そりゃどうも」
「褒めてねーよ。」
一馬と煌牙の睨み合いにクレアは動揺し、野菜ジュースの入ったグラスを倒してしまい机に紫色の液体が広がる。それを眺めていた煌牙はやれやれという顔で一馬に手伝ってやれよと目線で合図する。
「あっ、すいません」
一馬はお手拭きでこぼれた液体を丁寧に拭き取り綺麗に畳んで机の隅に置いた。それから暫く沈黙の時間が流れ店内には楽器の音だけが聴こえていた。
クレアはこの空気をどうにかしようと思い、話だそうとした瞬間店の入り口のドアが勢いよく開き三人は何があったのか気になりその方向を向いた。
「大変だ!悪魔達が村に侵入して来たぞ!」
ドアを開いた妖精族の一人が店内にある他の妖精達にそう告げた。
すると店内にいた妖精達はパニックになり皆一目散に店を出ていこうとしてかえって入り口がつっかえてしまい余計に混乱状態になる。
一馬と煌牙とクレアは冷静に判断し、椅子に座ったまま動こうとはしなかった。
混沌が収まり煌牙が最初に椅子から立ち上がった後にクレアと一馬も同時に立ち上がる。
三人は店内を出ると辺り一面が騒然としており叫び声、泣き声や何かが割れる音などが地下街で鳴り響いていた。
悪魔にはこの群生を恐怖を与えるだけの力が果たしてあるのだろうか、ただ妖精族の焦りからして悪魔は一匹や二匹だけではなく一個隊以上で来た可能性は高い。ならばどうするか、一馬と煌牙はお互いの顔を見ながらこれからどうするか表情だけで会話していた。この芸当は親友である二人だから成せる技でありそこらあたりにいる輩達では到底不可能な意思疎通方法である。
二人は暫くの間顔を見合わせながら止まっていると一馬と煌牙は同時に動きだした。
「どこ行くんですか⁉︎」クレアは二人がわざわざ混沌の場に行く事を察知し、引きとめようとする。
「なぁ〜に、ちょっと悪魔達にあいさつをね」煌牙は余裕シャクシャクなトーンで返答しクレアは何も言えず差し伸べようとしていた手を引っ込めた。
「おい、煌牙あいさつに行くのはいいがどうやって行く?」
一馬がそう言うのも地下街に入ってきたエレベーターはどうやら動いておらず地上に出ようとしていた妖精達はエレベーター前で群がっていた。
「そうだな、エレベーターごとぶっ壊して地上に出るか?」
「それじゃ壊した後にどうやってあいつら地上に出るんだよ?」
煌牙は首を少し傾け肩を上げながら、さぁ?みたいな表情をする。
「でもエレベーターの天井だけ壊して地上に出るのはいけるかもしれない」
「んじゃその案を採用するか」
一馬と煌牙は歩きだし群れた混沌のエリアに消えていった。
クレアも自分に何かできるかもしれないと思い村長のいる屋敷まで走り出す。
一方、一馬と煌牙は群衆を掻き分けながらエレベーターの近くまで来た。しかし妖精達の数が尋常ではなくとてもエレベーターまで辿り着けそうになかった。
仕方なく煌牙は膝を上げ思いっきり地面を足裏で叩く。すると煌牙中心に地震が起き周りにいた妖精達は尻餅をつきながら倒れる。その中で一馬と煌牙は立っており妖精達は人間といういまだかつて見たことのない種族に唖然とし尻餅をついたまま誰も動こうとはしなかった。
「あんたらはここで待ってろよ」
煌牙は周りに聞こえるぐらいの声で群衆を落ち着かせる。二人はそのままエレベーターに入り天井を破壊する。破壊した天井の穴から二人は出て上を見上げる。
このエレベーター、ワイヤーのような物はなく上にいったり下にいったりしていたようだ。
二人はほんの少し力を入れジャンプし壁を蹴り反対の壁をまた蹴りながらどんどん上に昇っていく。
壁を蹴り昇っていくとついに行き止まりになり樹のドアを蹴破った。
地上に出た二人が見たのは無残にも破壊された家の瓦礫や畑に悪魔に殺され血を流しながら倒れている妖精達だった。残酷な景色に二人はこの世界が生易しい世界ではないのを改めて思い知らされた瞬間でもあった。
「こりゃ・・・いただけないな」
煌牙は無残に殺された妖精を見ながら拳を握っていた。一馬も同様に怒りや憎悪を露わにしてこれをやった首謀者を生きては帰さないと心中で叫んだ。
二人が怒りに狂っていると瓦礫の向こうから一人の黒マントが現れた。
それを発見した二人は雷速で首謀者と思わしき黒マントまで一気に距離を詰める。
煌牙が右拳に力を入れ黒マントの顔面をぶっ飛ばそうと構え雷速のまま振りかぶった。しかし黒マントはヒョイッとパンチをかわし煌牙の後ろで準備していた一馬の飛び蹴りをも身体をかがめ華麗に避けた。
ガガガガガッと地面をえぐりながら二人は雷速のスピードを無理やり止める。
「お前、覚悟はできてるんだろうな?」一馬は背中を向けている黒マントに一言告げる。すると黒マントが体を反転させ、マントのフードで隠れていた顔をさらけ出した。
「久方ぶりにお前ら人間を拝めたな」
フードをとった悪魔の頭には屈曲しながら上に伸びる禍々しい角があった。しかし何より二人を驚愕させたのは悪魔の顔が人間の容姿だったのだ。身長も一馬と煌牙とそう変わっていなかったが少し老けていたようだった。
一馬は悪魔をまじまじと見ていると右手からポタポタと滴り落ちる紅い血が見え妖精達を殺めたのはこの悪魔だと悟った。
「久方ぶりだと?どうゆうことだ?」
煌牙は悪魔の第一声で出てきた久方ぶりという言葉に反応しそれは以前にも人間の会っている事を示していた。
「お前達人間は以前この世界にいた。だが突然いなくなってな、もうあれから1000年以上経つのか」
二人は悪魔が言った言葉に衝撃が走った。
「人間がこの世界にいた?どうゆうことだ」煌牙の眉間にシワが寄り形相が険しくなる。
「言葉どうりだ。遥か1000年も前に人間は他の種族同様この世界で生きていた。消えた理由は分からんが忽然と人間は姿を消した。」
「それがホントか嘘かは今はいい。だが殺された妖精に関しては容認はできない。」一馬は煌牙の前に出て力いっぱい握りしめた右拳を悪魔に向けて言う。
「なら、どうする?」悪魔の白々しい言い方からしてかなりの自信と余裕があるように見えた。そして一馬は悪魔が言い終えた瞬間に体の残像だけを残し悪魔に一直線に接近する。
黒髪の青年の尋常ではないスピードに悪魔は反応し、地面を蹴り上空に逃げたが追尾するように一馬も雷速のまま地面を蹴り一気に悪魔に追いつく。その人間とは思えない身体能力に悪魔はほんの少しだが動揺してしまい空中でバランスを崩してしまう。それをチャンスと思った一馬は体を捻り胴回し回転蹴りで悪魔の腹部を狙おうとした。
そして悪魔は一馬の殺気を感知し自分の腹部をかばうように両手でガードするが一馬の蹴りの衝撃力はもちろん人間の比でなく、しいて言うなら闘牛、いや車それも大型トラックに猛スピードで追突されたような衝撃がある。さらにトラックの重さに速さが加算される。大体人のキックのスピードはどんなに速くても残像が残るほどのスピードは出せない。それは人体が限界を超え筋肉はちぎれ足の関節は外れまくり速すぎる蹴りに耐えれないからだ。だが一馬と煌牙はもう人の形をした化け物で肉体の限界など皆無であり二人のパンチそれにキックは影さえない。それを無影脚と言い古来中国から伝わった秘伝の技である。だが実際にそれを行える人間などはいなくただの妄想の技でしかなかったが今この瞬間、無影脚はひとつの技として成った。
悪魔の腹部に胴回し回転蹴りの無影脚が直撃し地面に叩きつけられ周りに砂ぼこりが舞、視界が悪くなる。
右足から着地した一馬は砂ぼこりの向こうにいる悪魔に注意して集中力を持続させいつでも反応できるように待機する。だがその集中を絶ったのは煌牙だった。煌牙は一馬に近づきおもむろに闘いを実況し始めた。
「さぁ、悪魔対人間。勝利の女神が微笑むのは果たしてどちらなのか」
「何言ってる煌牙、この世界に勝利の女神なんて神は存在しないだろ」
「まぁ大体このフレーズ使えばそれっぽく聞こえるだろ?」
二人は闘いの最中にたいして重要じゃないこと事をやりとりしていた。
「そうだ。この世界に勝利の女神など存在しない。」
本来なら砂ぼこりの向こうで倒れているはずの悪魔が二人の背後に突然姿を現し煌牙のセリフを否定した。
「なっ!お前!」
一馬が体を反転させながら再び地面を蹴り悪魔に追撃をしかける。しかし悪魔は雷速を身軽にかわし背中に隠していた黒く不吉な形をした翼を広げ空中でホバリングをし腕組みをする。
「人間よ、この世界に再び来たことを祝おう。しかし我ら悪魔に手を出せば冥界で二度目の祝いの言葉を聞かされる羽目になるぞ。その事を頭の真ん中でしっかり憶えておけ。」
悪魔がそう言うとバタバタとしていた翼を広げ大きく翼をバタつかせて飛び立とうとしていた。一馬は行こうとする悪魔を引き止めるように追求する。
「おい!悪魔お前は・・・」
悪魔は一馬が言い終わる前に察し自ら名乗った。
「私は魂の悪魔ヤボラだ。だが人間よ普通自分から名乗るのが常套ではないのか?」
悪魔から言われた正論に一馬は悪魔もある程度の常識はあるようだ。と思った。
「ふっ、悪かったな。俺は神道寺 一馬だ」
一馬の発言に便乗し煌牙も名乗る。
「俺は、天童 煌牙だ。」
「ではまた会おう人間、いや一馬、煌牙」
「「ああ」」二人は言葉を揃え飛び立つ悪魔をただ見ていた。
それから暫くして村長ガンタイルと妖精族の部隊が応援に駆けつけたがもう既に事の終始はついていた。




