出会い
カンカンカン!!
耳に、廊下に響き渡る金属音に少々イラつきながらも龍人専用の特大ベットで寝ていた一馬と煌牙はゆらっと上半身を起こす。
聞いたことのある金属音と一気にお腹を空かせる匂いとで二人は朝食の合図だと悟った。なかなかどうしてリッシュコズモの朝食の匂いときたら魔法でもかけられているのだろうか?ヨダレが出そうなほど宿全体に漂う匂い、それは獣の肉を焼いた香ばしい匂いと甘美だと匂いだけでわかるほどの果実の香り、さらに小麦なのかおそらくパンの匂いが寝起きそうそう腹を鳴らす。
「ふぁ〜、匂いが良すぎて起きちまった」
「いや、音で目覚めたんだろ煌牙?」
「それもあるが大体を占めるのが匂いだよ、匂い」
「確かにこの匂いは食欲を向上させるな」
「この匂いは肉だな、肉」
「肉、とパンの匂いもするな」
「はぁ〜我慢できん、一馬アッシュの所に行く前にまずは美味なる食事をしようじゃないか」
「そのつもりだ」
ベットから降り高い階段をゆっくり一段一段降り、匂いのする方向に正確に進む。さらに宿に泊まっていた龍人達の陽気な声に東京をふと一馬は思いだし、たった一日しか経っていないのにはやくも故郷が懐かしく感じている。
龍人達が四人座れる丸い大きな机に座る五組の龍人族が一斉に二人を睨みつける。巨大な図体と黄色い妖しい眼に言葉が詰まるが冷静を装いひとつ空いていたテーブルのイスにジャンプし座る。しばらくすると宿主だろう女性龍人がまたまた特大の皿に豚のような家畜を丸々一頭丸焼きにしたものをテーブルにドンッと置く、さらにここで働いているのだろうコックらしき龍人がロブスターのような甲殻類の何かとパンと黄金色のスープを持ってきた。
「うぉっ、こりゃすごいな」
「一馬、俺こんな料理見たことないぜ」
「そりゃ同意だ」
他の龍人達を見てみると皆、手でむしり取ったりして乱暴かつ野蛮な食事方法をしている。郷に入れば郷に従えのことわざを採用し、一馬も煌牙も龍人達を真似て丸焼きになっている豚のような獣の足をむしり取ったり、甲殻類のロブスターの頭をむしり取ったりして食べ始めた。案外、いや断然お箸やフォークなど使って食べるより手で直接食べた方がうまいことが判明し次々に料理を平らげていく。さらに判明したのはどの料理もギガバイトとよく似た味だったということだ。豚の丸焼きも皮の部分には甘い醤油のようなタレがまんべんなくかけられ、ロブスターの味も伊勢海老のような風味でありパンにいたっては見た目味ともにあっちの世界のパンと一緒なのだ。裏世界とは言うが基本的な衣食住はあっちの世界とは大差がないのかもしれない。
一馬と煌牙は一通り食事を済ませるとコックが奇妙な色をしている果実らしきものを半分に切った状態でテーブルにふたつ置いた。縦から真っ二つにされている果実の中身は赤くドロッとしていてとても食べ物とは思えない程の気味悪さを醸し出していた。一馬と煌牙はともに顔を見合わせこれは食べれる代物ではないと二人は首を横に振った、がしかし龍人族の一人が一馬の後ろに立つなり二人に言う。
「一馬に煌牙よ食べないのか?」声の主は後で会いに行く予定だったアッシュだった。
「おぉ、アッシュいいとこに来てくれた」
「何かあったのか?」
「んまぁ、とりあえずこの気色悪いの食べてくれないか?」
「いらないのか?」
「とてもじゃないが食べようとは思わない」
「一馬も食べないのか?」
「あ、そ、そうだな。よければ食ってくれ」
「そうか、ならいただこう」
アッシュは果実の中身を指でえぐり口に運ぶ。
「後もう一つあるんだ」一馬が言うと口に入っていた果実を飲み込みなんでもこいという顔をする。
「実はだな、俺ら二人は種族総合闘技大会に出場することになってな、獣人族はドドルガムが言うには一直線な攻撃って言ってたから対処できると思うが妖精族の魔法の対処法は直接見た方が良いと考えたんだ、そこで今日妖精族の村に行こうと思ってアッシュに道案内をしてもらおうと」言い終えるとアッシュは冷静に応えた。
「一馬と煌牙は確かに強い、それは闘った私だから分かる。しかしだ獣人族が一直線というのも大体がそうであって中には変則的な奴だっている。獣人族も甘く考えない方がいい。妖精族の所に偵察に行くのは賢い選択だが妖精族はそう簡単に他種族を村に入れたりはしないのだ。実は私もまだ妖精族の村に入ったことはない。それぐらい妖精族は用心深く警戒心の強い種族だ。村までの道のりなら案内できるがそこからは私でも無理だ。」
「でも俺たち二人をこの世界に連れて来てくれたのは妖精族じゃないのか?」
「そうだ。彼女は妖精族の一員だ。だが今回はリッシュコズモ様の命令だったからな、仕方なしというものだろうな。」
「あの妖精族には会えないのか?」
「それは分からぬ、さっきも言っただろう?妖精族の村に入ったことさえないのだ。彼女の居場所など知るはずもない」
「そうなのか・・・」
「・・・だがドドルガム様なら入れる。ドドルガム様は昔若かった頃悪魔の残党に襲わられていた妖精族を助けそれ以来妖精族との親交も深く付き合っている。ドドルガム様に相談してみてはどうだ?」
「いや、入らしてくれないなら丁度いい」突然煌牙がニヤッとしながら頬杖をついて言う。煌牙の言った真意が分からぬまま一馬もアッシュも煌牙の次の発言を待つ。
「入らしてくれないなら、無理やりに入る。ついでに俺たちの事も宣伝してやる。」
「ちょ、お前それはなぁ」
「無礼かなんだか知らないが俺たちはこの世界の住人じゃない、郷に入れば郷に従えってのはあくまで勝手が分からない場合だ。」
「それでも煌牙、この世界にはこの世界なりの式たりや秩序があるだろ、俺たちも守るべきじゃないのか?」
「だから言ったろ?俺たちはこの世界の住人じゃない、そんな事気にするなんて女々しい、そもそも俺たちはこの世界で遊ぶために来たわけじゃないだろ?俺たちは夢を叶えに来たんだ」
「待てよ、そんな事して魔法を見せてもらえると思うのか?」
「俺たちを敵だと認識すればおのずと魔法を行使して阻止するだろう。本気で村を護ろうとするなら本気の魔法も使うだろうし中途半端な威力の魔法じゃ勉強にならん」
アッシュは顎に手を置き考えこむ、一馬も煌牙の策略は確かに効率の良い上等な考えだと思った。しかしわざわざ敵を増やさなくてももっと賢く友好的な策略は無いのかと同時に思った。
「とりあえず俺たちは絶対に攻撃をしないことにしよう。俺たちはただ妖精族の魔法を知りたいだけだからな、危害を加える必要はないだろ」
「あぁ、俺もそのつもりだ」
ここでアッシュが釘を刺す。
「我々、龍人族、妖精族、機械族は同盟だ。妖精族が危ないと分かれば同盟族は動く、我々龍人族も一馬と煌牙の敵になる可能性は十分にある。」
「だから危害は加えないって」
「それでも他種族の違法なテリトリー侵入は処罰の対象だ。機を待つ方が賢明だと思うぞ」
「俺たちに時間はないんだ。無理やりにでも確かめる必要がある。」
「我々は一馬と煌牙の敵にはなりたくない、考え直してはくれないか?」
「なら、この話は聞かなかったことにしてくれ、俺たちは行く。それでも止めるなら容赦しない」
アッシュはガタッと勢いよく立ち上り宿を後にした。一馬と煌牙は妖精族の村に向かうべく同じく宿を出た。
時間は少し流れ現在は空を飛んでいた。
一回のジャンプで500mは飛び、飛翔した体に空気の圧が押しよせ、ろくに会話など出来ず髪は逆毛になり衣類はバタバタとうるさい。人間誰しも空を自由に飛びたいと思うのは昔も今も変わらぬ夢であり、本当の意味で自由に空を飛ぶことなど不可能なのに叶わぬ夢を追い続け、ライト兄弟はライトフライヤーを作り日本はゼロ戦を作り、世界中では旅客機すなわち飛行機を作り上げた。だがそれでも本当の意味で飛翔したことにはならないと思う。なぜならツバメや鷲、カラスにカモメは自分の体を使い空を飛ぶのに対し人間は道具を使わないと飛翔することは出来ないのだから。一馬と煌牙は人間の夢をほんの少し達成し、あながち飛翔しているとは言い難いが飛んでいることは間違いないだろう。それは漫画やSF映画のように超人的な輩の成せる妙技でありアッシュの怪鳥と同等の速さで空を飛ぶ姿は勇敢的で野蛮的で美しくもある。
「おい!一馬!妖精族の村ってどこなんだよ!」
「あ⁉︎俺が知るかよ!大体お前はいつも行き当たりバッタリ過ぎるんだよ!」
「間違いないな!とりあえず次飛んだら地上を散策してみるか!」
「そうだな!」
一馬と煌牙は飛ぶのをやめ地上を歩き誰かに聞こうと考えた。
地上に着地した一馬と煌牙は東西南北が分からないから飛んでいた方向と同じ方向に進む事にした。
「なぁ、この世界ってどんぐらい広いんだろうな?」
「なんだよ突然」
「いや、もし俺と一馬が迷子になったらどうしようかなと思ってな」
「はぁ〜煌牙は勢いは良いけど勢いなくしたら臆病になるよな」
「なっ、臆病だと?俺がか?」
「お前以外誰がいるんだよ?」
「笑わせてくれるじゃないか一馬、いやはや笑わせてくれる」
「笑ってねーじゃねーか」
「言葉の綾だよ、それにいつも通りだろ?」
「まっ、確かにな、もう慣れてるしな今更って感じだな」
歩きながら無駄話をしていると突然静かだった森のどこからか叫び声が聞こえた。それを聞いた二人は発信源の居所を探すべく煌牙は真上に飛び一馬は地上を雷速で走り回り捜索する。
「いたっ!!」煌牙が上空から地上を見渡し木の生えていないとこに妖精族らしき者が一人とそれを囲むように黒いマントの三人が妖精族を包囲していたのが見え一馬に叫ぶ。
「一馬!そこから少し向こうに妖精族がいる!!」それを聞いた一馬は猛スピードで煌牙が言った場所に走った。
「や、やめて・・・」
「くへへへ、いい味がしそうな妖精だな」
「兄貴、俺から食べたらいけないか?」
「ズルいぞお前は三男のくせに生意気いってんじゃないぞ」
黒いマントの三人は妖精を囲み今まさに手にかけようとしていた。
「い、いやっ、助けて・・・」
「グヘヘェ〜、誰も来るわけないだろお前は今から俺たちに食べられるんだ、大人しくしてろよ、グヘヘ」
「んじゃ長男の俺から頭から頂こう」
「あっ、ズルいぞ兄貴!」
「いっただきまーす・・・」黒いマントの一人が大きく口を開け他二人は妖精族が逃げないように手と足を持つ。
「い、いや!いやぁぁぁぁ!!!」
黒いマントの一人が頭を食べようとした瞬間横に吹っ飛んだ。
その場に居た黒いマントの二人は事態が理科出来ずに固まっていた。すると足を抑えていたもう一人が吹っ飛び次は自分だと思ったもう一人は妖精族の手を離しその場から逃げようとした。
「ひ、ひぇぁぁ!!」
「おいおい何逃げてんだよ」
走って逃げる黒いマントの顔の横で一馬は囁き黒いマントは横を走りながらバッと振り向いたがそこには誰もいなく余計に焦り死に物狂いに逃げるが顔を真っ直ぐに直したら目の前に横にクルクル回る何かが一瞬だけ見え頭を吹っ飛ばされ首なしの体は地面にバタッと倒れる。
「大丈夫か?」目を必死に瞑り死を覚悟していた耳がとんがっている妖精族に声をかける。言われた妖精は目をゆっくり開け中腰になっている一馬と目が合う。
「だ、だれ⁉︎」見たこともない種族に驚き再び目を閉じた。
「あ、えーと人間って言って昨日この世界に来たんだ。あんたに危害を加える気はないよ」目をゆっくり開け一馬の体全体を眺める
「立てるか?」
「う、うん大丈夫」立ち上がったが恐怖で腰が抜けており地面に尻餅をついた。
「あいつらなんなんだ?」
「あれは悪魔よ」ヘナヘナになっている妖精が一馬に応える。
「悪魔?地上には滅多に姿を現さないんじゃないのか?」
「滅多によ、滅多に、今日はたまたま居合わせたの」
「そうなのか、とりあえず何もなくて良かった」
「あ、ありがとう・・・」
ダンッ!と一馬の後ろで聞こえ振り返ると煌牙が上空から降りてきたようだった。
「おい、一馬何があったんだ?」
「彼女が襲われていたんだ。あと少しで食べられるとこだったんだぜ?」
「で、襲った奴はあの首なし野郎ってか?」
「あぁ、どうやら悪魔らしいんだ」
「滅多に姿現さないんじゃなかったのか?」
「滅多だから絶対出ないわけじゃないらしい」
「そうなのか、まぁ助かってよかったな」
「あ、あの二人は、人間っていう種族なの?」
「そうだよ、俺たちは人間だよ」
「そうなの!人間なのね!」
「え?知ってたの?」
「ええ、噂は聞いていたわ、なんでもかなり強いって」
「まぁ、俺たち強いな」一馬は得意げな顔で胸をはる。
「なんで、その人間がここに?」
「ちょっと妖精族に挨拶に行こうと思ってね」
「妖精族に?妖精族の村はあっちよ?」妖精が指さした方向は進んでいた方向とは真逆で龍人族の村までまた帰らないといけない。
「ほら、見てみろ煌牙反対じゃないか!」
「はぁ?お前もこっちって言ったじゃねーか!」
「言ってねーよそんなこと!」
「いいや言ったね!」口論をしていると妖精が立ち上がり何かブツブツと言う。すると突然雪が降り始め一馬と煌牙の頭に冷たい雪が乗っかる。二人は頭上にハテナマークを浮かべこの世界ならではの自然現象なのかと思ったが雪を降らしたのは彼女だと直ぐに分かった。
「落ち着いて下さい、また引き返したらいいだけじゃないですか、お二人が喧嘩する必要なんてないよ」
雪は心を落ち着かせてくれる良い物だとは知っていたがこの世界の雪も真っ白で冷たい。
「全く、煌牙にはいつも参る」
「はっ、いつも通りだろ?」
「まぁな」
二人はクスクスと笑いながらお互いに怒りを鎮めた。
「妖精族の村まで案内しますよ?」
「ホント?」
「ええ、私も今ちょうど帰るとこでしたから」
「それは助かる。いこうぜ煌牙」
「おう」
「そういえば自己紹介してなかったな、俺は神道寺 一馬。こっちは天童 煌牙。」
「私はクレアです。」
「よろしくな、クレア」
こうして完全に逆方向に進んでいた二人は来た道を引き返し三人は妖精族の村に向かい始めた。




