第7話:リンクと運営
シルバー・フェイスはバイコーンから降りた。黒い毛並みを持ち、脚の筋肉がくっきりと浮き出た恐るべき獣だ。彼は天幕の中へと足を踏み入れ、ムーンソングから三歩の距離に近づいたところで片膝をついた。臣従の礼をとる彼の動きに合わせ、プレニルニウム製の鎧の関節がチャリ、と音を立てる。長い銀髪をなびかせた、まだ二百五十歳に過ぎない極めて美貌のダークエルフは、侵攻状況の概要を報告し始めた。ムーンソングはシルバー・フェイスに冷ややかな視線を向け、ブラッド・アンド・ガッツはいつもの軽い笑みを浮かべている。
「三つの城壁のうち、二つが陥落しました。人間どもの軍勢は壊滅状態にあり、追い詰められております。逃亡を図る人間を一人残らず捕らえるため、王国の周囲に巡찰部隊を配置いたしました。この措置により、我が愛しき方よ、奴隷捕獲のラインはすでに完全稼働していると保証いたします。アンダーダークへ移送する準備が整った奴隷は、すでに三百人を超えております」
「城はどうなっているの?」
ムーンソングは自分が関心のある本題へと単刀直入に切り込んだ。
シルバー・フェイスは自信に満ちた笑みを浮かべたが、彼の鎧がかすかに震えて音を立てたのを、二人の女エルフは見逃さなかった。
「人間どもは、我々の予想以上に頑固でしぶとい抵抗を見せております。ですが、あと一時間もあれば確実に城を落としてみせましょう」とシルバー・フェイスは言った。
「一時間……?」
シルバー・フェイスが頷く。
ムーンソングは目を閉じ、丸々一分間、瞑想するかのように沈黙を保った。そして再び目を開けた瞬間、ムーンソングの手が残像を描くほどの速さで動き、曲刀が抜かれた。刃が空を切り裂いて風を鳴らし、大地に鮮血を撒き散らす。シルバー・フェイスの首が落ちて転がり、直後にその胴体がドサリと崩れ落ちた。
「私の周りには無能しかいないのね」
ムーンソングは歯噛みしながら吐き捨てた。曲刀を鞘に収め、玉座から立ち上がる。
「そうやって旦那を殺し続けてたら、そのうち誰もあんたと喜んで結婚しようとしなくなるわよ」
ブラッド・アンド・ガッツは笑顔を崩さずに言った。
ムーンソングは護衛のからかうような言葉を無視し、シルバー・フェイスの死体を跨いで天幕の外へと歩み出た。
「何かをきちんと成し遂げたいなら、自分自身でやるしかないわ」
ダークエルフはそう呟くと、バイコーンの手綱を掴んだ。前の乗り手が死んだことなど、その獣は気にも留めていない様子だった。ムーンソングは一跳びで鞍に跨がると、馬首を王国の方角へと向けた。手綱を振るうと、種馬は矢のように駆け出した。
「お土産に一番隊長の首を持って帰ってきてちょうだいね!」
ブラッド・アンド・ガッツが背後から大声で叫ぶ。
ムーンソングは答えなかった。任務を果たすことに神経を集中させていたからだ。取り決められた期限が切れる前に、王を殺さなければならない。
***
インプは竪穴の縁へと歩み寄り、つま先立ちになって可能な限り腕を伸ばしたが、それでも水晶の表面には届かなかった。アラクスが苛立たしげに唸り、先ほどの女弟子にインプを持ち上げるよう命じる。女弟子は頷くと、急いでインプの腰を抱えて持ち上げた。小柄で栄養失調の生き物相手であれば、造作もない作業だ。
インプの指先が水晶に触れると、電気のようなピリピリとした感覚が彼女の全身を駆け巡った。
ジンボの青い空間の中に、赤い文字で新たなメッセージが浮かび上がる。
『接続ポイントが見つかりました。外部リンクを確立しますか?』
驚きと興奮でジムは数秒間フリーズしたが、やがてそのエーテル状の顔に、サメのように獰猛で大きな笑みが形作られた。
«あったりまえだ、イエスだ!»
魔法陣の円が回転を始める。
『リンクを確立中……
25%……
50%……
80%……
100%。
リンク完了』
新たな光の線が別の円を描き出し、さらなる情報――名もなきインプに関するデータ――を表示した。だが、その情報は未知の感覚によってすぐにかき消された。青い霧が左右に割れ、ジンボの意識が外へと飛び出していく。水晶から抜け出し、壁の松明と自分自身の青い水晶の輝きによって照らされた、暗くも確かな手応えのある空間にふわりと浮かんだのだ。
ジムは誰にも気づかれず、感知されることもなく、ほぼあらゆる方向へ自由に動くことができた。まるでコアから目に見えない触手を伸ばしているかのような感覚だ。振り返って自分自身を見た彼は、宙に浮く巨大な水晶のようなものにエーテルの境界線で縛り付けられている自分の姿に呆然とした。だが、向きを変えて人間たちの姿を目の当たりにした時、彼はそれ以上に驚愕した。
一人の王と、その家族と思しき者たち。
長い黒髪の男と、フードを被った者たち。
鎧を纏った女と、彼女と同じような兵士たち。
そして、フードの女の腕の中で震えている一匹のインプ。
誰一人として、そこにいることを喜んでいるようには見えない。もし人間の体があれば「本物の中世ファンタジーの住人に会えた!」と興奮で武者震いしていたであろうジンボとは対照的だった。
«よお、こんにちは!»
ジンボは話しかけようとしたが、彼の言葉は電子音のようなピピッという音と、水晶の表面を走る光の反射へと変換されてしまった。
「意思疎通を図っているぞ!」
アラクスが震える笑みを浮かべつつ、警戒の色を強めながら叫んだ。魔術師としては、王が同席していない、もっと落ち着いた状況で儀式を行いたかったというのが本音だった。
「インプ、急げ! 我々に通訳しろ!」
女弟子がインプを床に下ろした。小さな悪魔は口を開くべきか迷ったが、下手に黙っていればどんな罰を受けるか分からないため、協力することにした。その声はひどく掠れている。
「これ……なんて言うんだっけ……? あんたたちがよくやるやつ……挨拶?」
「誰にだ? 私に挨拶しているのか? 私を自らの主、そして創造主として認めているのだな?」
アラクスは血走った目で問い詰め、魔法陣から飛び出してインプの両肩を揺さぶりたい衝動を必死に抑え込んだ。
«誰だこのイカれた野郎は?»
インプは自分の身を守るため、今の言葉をそのまま通訳しない程度の知恵は持っていた。
「さあ……みんなに挨拶してるみたい」
部屋にいる全員が、じっと水晶を見つめた。誰もがそれぞれの疑念や警戒心を抱く中、マルク王が一歩前に出てインプの隣に立った。ヒルダが王を止めて守ろうとしたが、王は手で制して彼女を下がらせた。
「ダンジョンコアよ。礼儀をわきまえるだけの知性があるのなら、我々の置かれた立場を理解する知性もあるはずだな」
君主は威厳ある声で語りかけた。
「お前は我々に仕え、役立てるために、我が王宮魔術師アラクスによって創り出された……我が領土を混沌と死で満たそうと企む、闇より出でし軍勢を撃退するため、お前の力を貸してほしい」
ついさっきまで部屋中をふわふわと飛び回って気を散らしていたジンボだったが、状況の深刻さを理解し、ゆっくりと王へ注意を向けた。
«王国を防衛しろって……? 普通、最初はチュートリアル期間があって、そういう展開は2巻か3巻あたりまで起きないもんだろ。やれやれ、厄介なことになったぞ»
再びピピッという音が響く。一同の視線がインプへと集まったが、彼女は首を横に振り、ダンジョンコアが何を言っているのか分からないと答えるにとどめた。
「十中八九、意味のない戯言でしょう」とアラクスが推測する。「生まれたばかりの個体です。その知能は、この世界の言語をようやく理解できる程度に違いありません。私の被造物には寛容になってやるとしましょう」
«お前、だんだんムカついてきたぞ»
またしてもインプは、自分の健康を害する恐れのある危険な言葉を通訳するのを控えた。
ジンボは自分が今いる新しい世界について浴びせたい質問の山をぐっと堪え、代わりに自分を閉じ込めている壁の向こう側へと意識を伸ばしてみることにした。扉を通り抜けて研究室へと出ると、その先にある牢獄へと辿り着く。そこでは悲しげで諦めきった表情の囚人たちが、隅っこで身を寄せ合ってうずくまっていた。ジメジメとした湿気と小便の悪臭が漂っており、ジムはエーテルでできた顔をしかめる。
«孤児院を思い出すな……»
記憶がマイナス面を増幅させているのかもしれないが、当時、彼の国がひどい不況に見舞われていたのは事実だった。雨が降るたびに今にも崩れ落ちそうだった施設の寮は、スペース不足と寒さをしのぐために一枚のマットレスを子供三人で共有するような、まさに本物の監獄のような場所だったのだ。
«あの頃の俺には、どうすることもできなかった……。ようやく奨学金を勝ち取ってあそこを出た時は、全部忘れようとしたっけな»
城が大きく揺れ、天井からパラパラと砂埃が落ちてきた。ジムは上を見上げ、外の様子を見ようと上昇を試みたが、水晶と自分を繋ぐ見えない触手がピーンと張り詰め、彼を後ろへと引き戻した。彼にしか読めない警告ウィンドウが目の前に浮かび上がる。
・ジンボ・ザ・ダンジョンコア LV1
・エーテル:1/100
・外部接続:有効
・階層:1/1
ヒント:レベルを上げることで、より多くの階層を操作・探索できるようになります。
どうやら、今の彼はこの石造りの地下室に縛り付けられているらしい。
ジムがコアの部屋へと戻ると、兵士たちがインプに槍を突きつけて脅し、水晶を起動させろと迫っているところだった。鋭い穂先に怯え、インプは竪穴の縁まで後ずさっている。
«その子から離れろ、バカ野郎ども!»
ジムが怒りを覚えると、水晶から発せられる音が低く重々しいものへと変わった。兵士たちはビクッと肩を震わせ、指示を仰ぐように鎧の女へと視線を向ける。ヒルダは暗い表情のまま沈黙を保っていた。ダンジョンコアなどに頼らなければならない状況に、強い嫌悪感を抱いているのは明らかだった。
ジムはインプをじっと見つめ、彼女が人間ではないことに気づいた。最初は何か身体的な奇形を持った少女なのかと思っていたが、認識を改める。
«大丈夫か? お前、本当に悪魔なのか?»
彼女は答えない。人間たちの存在に怯えきって、それどころではないのだ。
「どうなのだ、ダンジョンコアよ? この暗黒の時代に、我々を助けてくれるのか?」
王がいっそう厳しい表情で問いかけた。
ジムはため息をついた。
«他に選択肢があるってのかよ……? ただ、自分に何がやれるのかまだ正確に把握できてないし、ここから遠くへ離れることもできないんだ»
これなら通訳しても問題ないだろうと判断したインプは、ダンジョンコアの届く範囲が限られていることを人間たちに説明した。すると一同の視線がアラクスへと集まり、魔術師は自分の設計ミスを疑われたことに苛立って舌打ちをした。
「なぜそんな浮かない顔をしているのです? 私の被造物に限界があることくらい最初から分かっていましたし、そのための対策もすでに用意してあります」
アラクスがそう言った途端、彼の全身からオーラのように魔力が噴き出した。フードを被った弟子たちからも同様に魔力が立ち昇る。床に描かれたルーン文字と魔法陣が眩い光を放ち、溢れ出したエーテルが上昇してダンジョンコアへと接続された。
猛烈な熱気がジンボの全身を駆け巡る。あまりにも強大なエネルギーが流れ込んできて、思考することすらままならない。新たなメッセージが次々と現れるが、その数と速度が凄まじすぎて、とても目と頭が追いつかない。魔術師たちの力がジムの力と融合し、彼の意識を押し上げていく。石造りの地下室を超え、玉座の間を抜け、王族の寝室を通り越し、ついには城の最も高い塔の頂上をも突き抜けた。
・ジンボ・ザ・ダンジョンコア LV1(+LV59)
カラスの群れが彼の左手を横切って飛び去っていく。剣がぶつかり合う金属音と男たちの咆哮が、一つの大きな喧騒となって耳に届いた。彼の視界には広大な空が広がり、その眼下には、獣たちと黒い鎧の軍勢によって包囲された広大な王国が一望できた。
驚きに染まっていたジムの見えない顔が、ゆっくりと、そして無意識のうちにニヤリと幅広い笑みへと変わっていく。なぜなら、あまりに高く離れすぎたせいで兵士たちがアリのように見えるその高い視点からは――
すべてが、運営シミュレーションゲームのように見えたからだ。




