第5話:ニューゲーム、ニューファンタジー
«ここはどこだ……?»
目を覚ましたジンボが最初に抱いた疑問はそれだった。記憶が混乱している。『カルダックス10,000(Kard10k)』のチャンピオンシップで勝利を収めようとしていたこと、そして直後にプラスチックが焼けるような悪臭を嗅いだことは覚えている。
煙。
火事。
窒息。
眠気。
そして、死。
自分は死んだのだ。
トンネルの先に光が見えたような気もするが、自分の置かれた状況に気づいた瞬間、その記憶は背景へと退いた。『Kard10k』最強のプレイヤー、『KingJ』としての彼の物語は終わったのだ。だが不思議と悲しみはなく、自分の中の何かが「まだすべてが終わったわけではない」と励ましてくれているような感覚があった。
«二度目のチャンス、か……?»
ジンボは周囲を見回した。青く霞んだ、エーテル状の空間に浮かんでいる。手を伸ばそうとしてみたが、手足がない。それどころか、肉体そのものが何もないのだ。しかし、周囲を取り巻く青い霧は彼の動き――というより、彼の意思に合わせて揺れ動き、形を変えていた。
«まるで、周りのこの空間そのものが俺自身か、俺の一部みたいだな»
霧の中から光の線が浮かび上がり、それらが結合して一つの円を描く。その内側には奇妙なルーン文字と、水晶のようなシンボルが収められており、そこから木の枝のように上へ向かって縞模様が伸びていた。
何が何だか分からず、ジンボは次第に苛立ち始める。
«さっぱり意味が分からんぞ!»
彼の文句に応じるかのように、円の表示が変化した。ルーン文字とシンボルが散り散りになり、数字と文字へと再構成されていく。
・ジンボ・ザ・ダンジョンコア LV1
・エーテル:0/100
・外部接続:なし
ヒント1:呼びかけを行い、リンクを確立して外部と接続してください。
ヒント2:アバターを作成して外部と接続してください。
もしジンボに眉毛があったなら、そのメッセージの性質に気づいて片眉を上げていたことだろう。それはビデオゲームの万国共通語だった。あまりにも馴染み深く安心感を覚えるものだったため、彼は一瞬、VRヘッドセットを外そうと頭へ手を持っていこうとしたほどだ。もっとも、手がないので何も起きはしなかったが。
«まだ疑問は山ほどあるが、少なくとも目の前に突きつけられてるものの意味は分かるようになったぞ。ようやく俺にも少しは慈悲が与えられたってわけか»
『外部接続』と書かれた行が何度も点滅している。これが緊急の項目であり、早急に解決すべき問題であることを示しているのだろう。ジンボがヒントに意識を集中させると、最初の円の下に、よりコンパクトな二つの新しい円が現れた。それぞれに選択肢と説明文が表示されている。
・スキル:ダンジョンコアの呼び声
条件:なし
消費:20エーテル
説明:魔力の波動を放ち、親和性のある存在を引き寄せる。
注意:高い魔力感受性を持つ、危険な存在や親和性のない存在も引き寄せてしまう可能性がある。
・スキル:アバター作成 No.1
条件:LV5
消費:500エーテル
説明:ゼロからアバターを作成する。
注意:アバターが死亡した場合、ダンジョンコアは5レベルを失い、さらにこのスキルも永久に失われる。
«運営シミュレーションゲームみたいじゃないか!»
選択肢が冒険者側ではなくダンジョン側の視点から提示されているため、最初は戸惑った。しかし熟練のゲーマーらしく、ジムはすぐにそのコンセプトを理解した。同時に、この理不尽な仕様に対する不満から、比喩的な意味で奥歯を噛み締める。
«親和性のない存在まで引き寄せるってどういうことだよ!? しかも、まだ選べもしない選択肢を提示してくるんじゃない! 俺はレベル1なんだぞ、ちくしょう! ゲームバランスが崩壊してるじゃないか!»
だが、少し先走りすぎているのかもしれない。すべてがゲームの選択肢のように表示されているのは、それが彼にとって最も扱いやすく、理解しやすい形式だからだ。これは神秘の言語からピクセルの言語への翻訳に過ぎず、今起きている現象そのものが魔法に由来しているという事実は変わらない。
«慎重になって、賢く行動を考えないとな。もう二度と死ぬわけにはいかない! 三度目のチャンスがある保証なんてどこにもないんだからな»
とはいえ、選択肢がここまで限られていることにはやはり不満が残る。
«せめて、どうやってレベルを上げるのかくらい教えてくれよ»
青い霧が歪み、新たなメッセージが表示された。
ヒント:レベルを上げるには、エーテルの最大値分を消費してください。
«じゃあ、どうやってエーテルを手に入れるんだ? この青い空間に閉じ込められたままじゃ、大したことはできそうにないぞ。せめて足のある何かに転生していればなあ»
ヒント:ダンジョンコアは結晶化したエーテルで構成されています。ダンジョンコア自身が使用できるエーテルを、自然に生成します。
«最高じゃないか! で、俺はどれくらい生成できるんだ? 1時間に100か? 200か? それとも1000か?»
ヒント:ダンジョンコアは1時間ごとに、自身のレベルと同じ数値のエーテルを生成します。
«ってことは、1時間に1エーテルしか生成できないってことかよ!? 少なすぎないか!?»
あまりの生産性の低さに、ジンボは呆然とした。つまり、魔力の波動を放つだけでも何もしないまま二十時間待つ必要があり、レベルを上げるには四日以上かかる計算になる。青い霧からそれ以上の返答がないことが、ジムの嫌な予感を裏付けていた。
***
青い水晶は回転し、輝き続けていた。だが数分が経過し、最初の驚きが収まってみると、それ以上は何も起こらなかった。マルク王は答えを求めて魔術師へと向き直る。
アラクスはコアが安定しているのを確認すると、一番近くにいた弟子へと鋭い視線を飛ばした。
「お前!」
「わ、私ですか?」
フードを被った少女が自分を指差す。その青白い顔は緊張に支配されていた。
「『検体』を連れてこい! 急げ!」
女弟子は頷き、魔法陣から出た。魔術師が一人抜けたことで儀式陣のアクアマリン色の輝きは弱まったが、それでも光り続けている。一分後、少女は四隅に車輪のついた重い檻を押しながらコアの部屋へと戻ってきた。かんぬきを外し、鉄格子を開ける。弟子が檻の奥を何度も叩くと、ようやく囚われていた存在が顔を覗かせた。
パッと見では人間の幼い少女と見間違えるかもしれないが、すぐにその異様さが明らかになる。
肌は赤みを帯びており、ピンク色の前髪の間からは折れた二本の角が突き出ていた。腕や脚には残酷な実験による傷跡が刻まれ、身に纏うボロ布の惨めさは、王の子供たちが着ている豪奢な衣服と比べることでいっそう際立っていた。その生き物は、虚ろな瞳で周囲の者たちを見つめている。ボロ布から突き出た二つの膨らみは、半分にちょん切られた黒く薄い膜のような翼だった。
「インプ(小悪魔)だと、アラクス? 本気か? まさか、私が考えているようなことを企んでいるのではないだろうな?」
ヒルダが眉をひそめて問い詰める。
「では、私の実験に人間を使えとでも言うのか? このために亜人を使う必要があったのは明白だろう!」
アラクスは苛立たしげな口調で言い返した。
「説明しろ、アラクス。余の忍耐をすり減らすな」
状況の流れが掴めず、王が厳命する。
「私からご説明いたします、陛下」
ヒルダが割って入り、兵士として、そして冒険者としての知識をもとに説明を始めた。
「ダンジョンコアは、その悪名にもかかわらず、極めて無防備な存在です。この世界に自らの影響力を広げ、身を守るためには、他の生き物の助けを必要とします。冒険者ギルドは、ダンジョンコアと結びついたそれらの存在にこう名付けました……『ボス』、そして『サブボス』と」
「認めるのは癪だが、騎士団長の言う通りだ」
アラクスが苦笑いを浮かべて言った。
「ただし付け加えさせてもらうなら、ダンジョンコアに知性があるかどうかは今も疑問視されている。十中八九、やつらは知能のない愚鈍な存在であり、コアを見つけた生き物がその力を利用しているに過ぎないのだろう。このコアを我々に従わせ、役に立たせるためには、この惨めな生き物にコアとのリンクを確立させる必要があるのだ」
「そのような重大な役目を、薄汚いインプなどに任せて問題はないのか?」と王が尋ねる。
「このメスインプは実によく調教されております」
アラクスは震えながら俯く小さな悪魔を横目で見て請け負った。
「翼も、角も、爪も切り落としてあります。万が一の時は、我らが勇敢なる騎士団長が一太刀で葬り去ってくれることでしょう」
「いっそのこと貴様自身と、その狂気と、コアと、残虐性をまとめて葬り去ってやろうか」
ヒルダが凄む。
「まさか、このような悪魔の眷属に同情しているとでも言うまいな」
「いいえ。ただ貴様という闇魔術師に対して、強烈な嫌悪感を抱いているだけよ」
「ハッ! お互い様だな、ゴリラ女め」
王は依然として納得していない様子だった。アラクスの額にじわりと汗が滲む。
「もし陛下がお望みであれば、私の弟子の一人に契約を行わせることもできますが」
その言葉を聞き、弟子たちがゴクリと唾を飲み込んだ。実験段階のコアとリンクを結んでどうなるかなど、誰にも分からないのだ。すべてが爆発してしまうのではないかと恐れている者すらいた。
「なぜ貴様自身がやらない、アラクス?」とヒルダが言う。
魔術師はギクリと肩を揺らし、危うく儀式陣の外へ踏み出しそうになった。
「私は儀式を統括する必要がある。すべてを一人でこなすことなどできん!」
彼はそう言うと、手でヒルダを指差した。
「そういう騎士団長こそ、接続役を買って出たらどうなのだ?」
「ええ、構わないわ……陛下のご命令とあらば」
「アラクス、ヒルダ、お前たちは余にとってかけがえのない臣下だ」
マルク王が二人を制した。
「この苦難の時に、万が一のことがあってお前たちを失うような危険は冒せん。そのインプにやらせろ。ただし、少しでも怪しい動きを見せたら……即座に殺せ」
アラクスとヒルダは頷いた。




