第4話:ダンジョンコア
さらに十回の失敗を重ね、チェルベラが書くための紙がなくなってしまうのではないかと心配を口にした頃、ジンボはより簡潔にまとめることに決め、こう書き記した。
『なりたいものになれるチャンスがたくさん欲しい』
そうすることで、ゴキブリとして生まれるのを確実に避け、英雄や皇帝になるといった自分の妄想のいくつかを実現できると期待したのだ。
チェルベラは羊皮紙の切れ端を丸め、空いている皿の上に置いた。
天秤が再び揺れ動く。ジムはデスクの端に手と顔を乗せてその過程を見守り、一瞬、天秤がまた紙を宙に弾き飛ばしそうになった時にはビクッと肩を震わせた。
しかし器具の動きは次第に落ち着き、天秤は均衡を保って静止した。
「釣り合ったわね、よし」と天使は言った。「先に進みましょう」
«やっとかよ!»
チェルベラはジンボを黄金の機械へと案内し、開いたバルブの中に入るよう指示した。その容器はまさに魂にぴったりのサイズだった。
ジムはファンタジー世界へ行けるという約束にすっかり魅了されたまま、迷うことなく機械の中へと入った。天使は蓋を押し、うめき声を上げながらかなりの労力をかけてそれを閉める。
«で、こいつが空を飛ぶのか、それとも何なんだ?»
ジムは周囲を囲む金属にくぐもった声で尋ねた。
「厳密には違うわ」
チェルベラはそう言いながら座席に座り、照準器を覗き込むと、椅子の両脇にあるレバーを操作し始めた。左のレバーは筒の水平軸を動かし、右のレバーは垂直軸を動かす仕組みになっている。
«動いてるぞ! これって普通なのか!?»とジムが叫ぶ。
「普通よ」
チェルベラは照準器から目を離さずに答えた。楽園の向こうには星団が広がっている。様々な形や大きさの銀河がある中で、『ファンタジア』はコンパクトながらも鮮やかな色彩を放ち、ドラゴンか翼のある獣のような形をしていた。
«いろいろありがとな、チェルベラ。ただ、一つ疑問があるんだが……»
「なあに?」
«転生者たちを、天国が存在することや前世で誰だったかの記憶を持ったまま送り出すのって、何か問題になったりしないのか?»
「覚えてなんていないわよ」
«えっ?»
「魂の洗浄機が記憶を消去して綺麗にするの。いくつか記憶が残ることもあるけれど、赤ん坊のうちか、最初の数年が過ぎる間に、潜在意識の中で少しずつ消えていくわ」
«そんなこと聞いてないぞ!»
「だって聞かれなかったもの」
«ま、待て! 要望に付け足したいことがあるんだ!»
「ジェロニモーーー!」
チェルベラが座席の下のペダルを踏み込むと、魂の洗浄機が作動した。
遠心分離機の中に入れられたかのように、ジムはぐるぐると激しく回転し始め、何も考えられないほど目が回っていく。チェルベラはお別れの合図としてラッパを吹き鳴らした。
「幸運を祈るわ。またあなたの担当になれるといいわね」
天使はそう言うと、もう一度ペダルを踏んだ。砲身から弾が発射され、後には霜の降りたような青い煙が残された。
光速を超える彗星のように、ジムは悲鳴を上げながら飛んでいく。
その周囲では、銀河や星雲がぼやけた光の筋となって次々と通り過ぎていった。彼は自分の記憶と人格を保とうと頭を抱えて顔をしかめるが、すでに記憶はかすみ始めていた。
――チェルベラ? 聖ペテロ? 誰だそれは?
«お前はジンボだ! お前はジンボだ! お前はジンボだ!»
『ファンタジア』の銀河へと真っ逆さまに落ちていく中、彼は絶えず自分に言い聞かせ続けた。星団に突入し、その軌道は恒星や小惑星帯、ガス惑星を次々と躱していき、やがて地質学的に惑星地球によく似た世界が目の前に立ちはだかった。
大気圏を突破し、雲の中へと突入する。
視界が開けると、森に囲まれた緑豊かな山の中に、静かで美しい小さな村が現れた。そこでは村人たちが、世界の誇大で騒々しい出来事からは遠く離れ、幸せに働いている。
しかし、ジンボがその小屋に辿り着く直前――どこからともなくアクアマリン色の鎖が現れ、彼の四肢に絡みついた。
«いったい何なんだこれは!?»
誰にも聞こえない新たな悲鳴を上げさせながら、ジンボは目がくらむような猛スピードで逆方向へと引きずられていく。
長閑な山の風景は一変し、戦場と化した平原へと変わる。ジムは投石機が放つ煙を引く放物線の間を引きずられ、三重の城壁を越え、城の石壁をそのまま突き抜けた。
人間の目には見えない形而上の領域で、魔法の鎖がジンボの魂を灰色の水晶へと叩きつけ、融合させる。
濃紺の波動がダンジョンコアを駆け巡って染め上げ、コアはゆっくりと回転し始めると、洞窟の壁に風がぶつかるような反響音を放ち始めた。
マルク王とその家族、ヒルダと彼女の兵士たち、そしてアラクスとその弟子たちの驚愕に染まった顔が、青い輝きによって照らし出される。
「信じられん……」
マルク王がそう呟く直前、その視界はヒルダの背中によって遮られた。彼女は抜刀した剣を構えて最前列に立ち、いかなる危険にも立ち向かう準備を整えていた。
「お気をつけください、陛下。ダンジョンコアは、自らの領域に属さないあらゆる存在に対して敵対的です」
「成功したのか?」
アラクスも他の者たちと同じように驚きながら呟いたが、すぐに我に返り、取り繕うように咳払いをして声を整えた。
「いやその……私の予想通りに成功しましたぞ。陛下、ご安心ください。すべて私の制御下にあります」
城が再び大きく揺れた。
敵が今もなお迫り続けているという事実を、突きつけるかのように。




