第10話:王国防衛戦・その3
フードを被った弟子の一人が、白目を剥いて口から泡を吹きながら床へと倒れ込んだ。直後に他の二人も同じ状態に陥り、意識を失って崩れ落ちる。アラクスは、ダンジョンコアが莫大な量のエーテルを凄まじい勢いで吸い上げていくのを感じ、ギリッと奥歯を噛み締めた。魔術師の意識が一瞬遠のきかけるが、純粋な精神力だけでどうにか意識と集中力を保ち続ける。
「お前、あいつらの代わりに入れ!」
アラクスは、先ほどインプの檻を開けた女弟子に向かって命じた。彼女は頷き、足取りや身振りのぎこちなさに緊張を滲ませながらも、倒れた仲間の一人を魔法陣から引きずり出し、代わりにその場所へと入った。自らのエーテルを発現させた途端、少女は水晶が自分の魔力を強烈な力で引っ張り出すのを感じ、危うく床に顔から突っ込みそうになった。
マルク王とその側近たちは、コアの部屋の高いドーム状の天井を見上げていたが、彼らの意識と想像力はそれよりもずっと上空――地上の戦場へと向いていた。誰もが先の見えない状況に張り詰めた緊張を強いられている。ヒルダは一瞬、様子を見に部下の兵士を一人地上へ送ろうかという誘惑に駆られたが、今ここで戦力を分散させるのは致命的な過ちになると考え、その考えを振り払った。
一方、城の外では、ライネルが顔を歪めて地面に膝をついていた。冷や汗を流し、左腕の残り――肘から下がちぎれて血を噴き出す断端を必死に押さえている。第三隊長の脚のすぐ近くには、切り落とされた腕がまだ握りしめたままの鋼の棍棒が転がっていた。内壁の入り口のアーチの下では、髪の半分を刈り上げた女のダークエルフが、長剣の切っ先を彼に向けながらサディスティックな笑みを浮かべている。
「あたし、年上の男って好きなのよね。降伏しなさいな、あたしのペットとして飼ってあげるから」と女エルフが持ちかける。
ライネルにとってその提案は侮辱以外の何物でもなかったが、彼は冷静な気性を保ち、石畳の脇へとペッと血唾を吐き捨てた。そして残された右手を地面につき、渾身の力を振り絞って立ち上がる。
「真の戦士というものはな……いつだって、立ったまま死ぬ機会を探しているものだ」
ライネルは痛みと疲労による荒い息の合間に、そう言い放った。
「腱を切って動けなくしてやろうかとも思ったけど……あたしたちへの命令は、迅速かつ残忍に蹂躙しろってことだからね」
女エルフはそう言うと一歩踏み出し、ライネルを一突きで串刺しにする構えをとった。
隊長の脚はもはやほとんど言うことを聞かず、残った片腕も同様だった。彼の肉体はすでに限界を遥かに超えている。ライネルは目を閉じ、最後の一撃を待った。心の中で、自分が十分に強くなかったことを連合王国に詫び、孫娘の成長を見届けてやれないことを謝る。そして、今も最後の一息まで戦い続けているであろう戦友たちにも許しを請うた。
戦いの中で死ぬ。それがせめてもの慰めだった。
「……ん?」
数秒が経過しても一向に刃が届かないことに疑問を覚え、ライネルは片目を開けた。すると、すぐ目の前の石壁から、青い腕と脚が突き出ているのが見えた。その四肢からすっと力が抜けてだらりと垂れ下がり、指先からプレニルニウムの長剣がカランと滑り落ちる。
ライネルは呆然と口を開けたまま、ゆっくりと視線を上へと向けた――だが、城壁のてっぺんがどこにも見当たらなかった。
アクアマリン色の輝き、続いて純白の光が、三重の城壁すべてを包み込んでいた。しばらくの間、城壁はまるで自在に形を変えるエネルギーの塊でできているかのようにうねり、変化し、そして巨大に成長していく。世界そのものと同じくらい古めかしい、荒々しく素朴な岩肌が、見張り塔や入り口のアーチを次々と飲み込んでいく。歴代の王たちの姿を彫り込んで歴史に敬意を表していた外壁の巨大なレリーフも例外ではなく、すべてが飾り気のない分厚い岩盤――まるで太古の断崖絶壁そのもののような姿へと置き換えられていった。
城壁は昼を夜に変えてしまうかのような巨大な影を落とすほど高くそびえ立ち、サイクロプスたちが投擲する巨岩ですらその高さを越えることはできず、かろうじて頂上付近をかすめるのが精一杯だった。
突撃してきていた騎兵たちの顔が、獰猛な愉悦から一転して驚愕と恐怖に引きつった。つい一秒前までぽっかりと開いていたはずの突破口が、今や山のように強固で鋭い漆黒の岩壁へと変わっていたのだ。先頭を走る者たちがバイコーンの手綱を必死に引いて止まろうとしたが、そのわずかな時間で獣たちの猛烈な突進の勢いを殺すことなど不可能だった。
バイコーンたちが次々と岩壁に激突する。あまりの衝撃に首の骨が折れるものや、頭部が破裂するものすらあった。騎乗していたダークエルフたちも同様の運命を辿り、プレニルニウムの鎧のおかげで最初の衝突をどうにか生き延びた十数騎も、直後に後ろから突っ込んできた味方の騎兵たちによって押し潰された。大地を揺らしていた蹄の轟音は、金属がひしゃげる音と肉が裂ける音、そして警告の叫びと絶望的な悲鳴へと変わった。やがてそこは、重傷者たちの呪詛とすすり泣きが支配する血の海と化した。
五十騎以上の騎兵が即死し、約七十騎が戦闘続行不可能なほどの重傷を負った。突撃の最後尾にいた者たちは、目の前で何が起きたのか理解できずにただ狼狽し、退却することを選んだ。
単眼鏡越しにその光景を見ていたムーンソングの美しい顔は、驚愕と戦慄に支配されていた。
そして遥か上空では、誰の目にも見えない観戦者が、誰の耳にも届かない勝利の高笑いを上げていたのだった。




