第9話 攻略対象達
サティーナは学園生活には慣れ、勉学を楽しんでいた。
だが、攻略対象の三人との遭遇は、最初と比べると増えていた。
それでも会話は最小限に抑えているつもりだ。
キジネスとは廊下や食堂で顔を合わせることが多いが、会話は挨拶程度だ。
だがやはり馴れ馴れしい。
ミシルトとは時々、図書室で顔を合わせる。
本の話をすることもある。
ソクネストとは挨拶をする程度だ。
ある午後、サティーナは一人で中庭の端を通った。
いつもは避けているが、その日は急いでいたので最短ルートを選んだ。
中庭の奥の方にソクネスト・カンゴドールの姿が見えた。
彼は膝をついて花壇の手入れをしていた。
(見なかったことにしましょう!)
そのまま通り過ぎようとした。
「シェズリス様」
ソクネストが気付いてしまった。
立ち上がりながら、穏やかに声をかけてきた。
(急いでるんですけど!)
「ごきげんよう。カンゴドール様」
「この花、見ていきませんか? 先週植えたものが咲いてきたんです」
ソクネストが指さす方を見ると、水色の小さな花が咲いていた。
綺麗だなとは思う。
「綺麗ですね。でも今、急いでいるので」
「そうですか、残念です。……シェズリス嬢は、花はお好きですか?」
「花は好きですよ」
「なら今度、お時間がある時に見に来て下さい。新しい品種が入る予定があるので、ぜひ見てほしいです。あ、呼び止めてしまってすみません」
「いえ、それでは」
サティーナは礼をして、その場を離れた。
ソクネストは今は好青年だが、ソクネストルートに進むとあの笑顔の奥に別の何かが芽生える。
それを思うと背中には冷たいものが走る。
(だからこそ、深入りしたくないわ!)
夜、寮の部屋でウィニーと紅茶を飲んでいると、ウィニーが口を開いた。
「サティーナ様は、やっぱり男性と距離を置きすぎている気がします」
「……そうね」
「何か他に理由があるんですか? 男性が嫌いとか?」
「そういう訳ではないのだけど……男性と近づき過ぎるのがあまり好きではないのよ。近づき過ぎて関りが多くなったら、それはそれで面倒と思ってしまうのよね」
「面倒ですか?」
「一度深くなると切りにくいでしょう? 前にも言ったけど今は勉強に集中したいもの」
「うーん、難しいですね……」
サティーナは困った顔をしつつ、別の話に切り替えて話を続けた。
翌日の朝、廊下を歩いていると、前方から三人の男子生徒が歩いてくるのが見えた。
よく見るとキジネス、ミシルト、ソクネストの三人だった。
(なぜ三人一緒にいるのよ!? あなた達、仲良かったの!? ゲームでも三人が一緒に登場する場面なんてなかったわよ!?)
サティーナは瞬時に後退したかった。
だが、キジネスと目が合ってしまった。
「サティーナ! 朝から奇遇だな!」
「……おはようございます。マストロク様」
「キジネスって呼べっていってるだろ」
「マストロク様でいいです」
ミシルトが少し前に出た。
「シェズリス嬢、おはよう」
「……おはようございます。キクシスト様」
ソクネストは、にこやかに挨拶をした。
「シェズリス様、おはようございます。昨日の花、今朝見てみら、更に開いてましたよ」
「それは、良かったですね……」
「朝食はもう食べたか?」
キジネスが聞いてきた。
「まだです」
「じゃあ、一緒にどうだ?」
「友人と食べる約束があります」
(この三人となんて無理! ウィニーとは約束していないけど、今すぐ約束を作るわ!)
「そっか、残念だな」
キジネスは口をとがらせた。
ミシルトは安定の無表情。
ソクネストは穏やかな笑みだ。
「では、失礼します」
サティーナは礼をして、その場を離れた。
急いで、ウィニーの部屋へ向かった。
(今から、ウィニーに食事の誘いをしないと! まったく、なんでこんなことになるのよ)
溜息をつきながら、サティーナは早歩きで廊下を歩いた。
自分が望んでいるのは平穏な学園生活だ。
三人の攻略対象に振り回される生活ではない。
(絶対に平穏に過ごして見せるわ!)
そう心に誓い、ウィニーの部屋の扉をノックした。
ウィニーが朝食に付き合ってくれたおかげで、食堂では和やかに会話を楽しめている。
ウィニーの明るさは心地よく感じる。
(こういうのを求めているのよ)
攻略対象に振り回されるのではなく、こういう何気ない友人との時間が積み重なったいく毎日が望ましい。
会話を楽しんでいると、食堂の入口方向からざわめきが起こった。
周囲の視線がそちらに集中していた。
サティーナは何気なく入口の方を見た。
そこには、カルシオン・ワナディール学園長が立っていた。
学園長が食堂に来ること自体は珍しかった。
いつもは副学園長か補佐官が同行しているが、今日は珍しく一人だった。
カルシオンは、さりげなく食堂を見渡した。
その視線がサティーナの方向で、一瞬止まったような気がした。
(……気のせいよね?)
サティーナは目を逸らした。
「学園長。今、サティーナの方を見ませんでしたか?」
ウィニーが小声で言ってきた。
「気のせいだと思うわ」
「での確かに――」
「気のせいよ」
サティーナは断言して、スープを飲んだ。
(どうか平穏に過ごせますように)
心の中でそっと祈りながら、サティーナは朝食を食べ終えた。
こうして、ウルバネル王立学園でのサティーナの日常は続いていく。
三人の攻略対象とは適切な距離を維持しながら、大切な友人と過ごす時間も大切にした。
学業には特に精を出していった。
何も起きない事を祈りながら。
しかしこの世界は、そう簡単にはサティーナを解放してはくれないのだった。




