第7話 授業
サティーナは平穏に学園生活を送っていた。
学業については勉強熱心だったため、クラスの中でも上位に位置している。
特に魔法理論にのめり込んだ。
この世界の魔法は火・水・風・土・光・闇ごとの系統がある。
才能と訓練を積み重ねることで、それは発現する。
たとえ才能がなくても基礎的な操作は訓練で身につけることが出来る。
サティーナは光属性に特に素質があった。
支援系や防壁系の魔法に向いているらしい。
ちなみに癒し魔法は特殊で、扱える者が限られている。
「サティーナ様。今日の魔力操作の訓練、うまくいってましたね!」
ウィニーが羨ましそうに声をかけてきた。
二人は実技訓練が終わった後に、訓練室から出てくるところだった。
「ありがとう。ウィニー様も上手になったんじゃない?」
「私はまだ全然です。……サティーナ様の光魔法は特に綺麗ですよね。先生も褒めてましたね。はぁ……うまくなりたいです」
「鍛錬をすれば、上手くなっていくわ」
サティーナは優しい笑顔でウィニーを慰めた。
ゲームヒロインの光魔法は、特別に清らかな光として描かれていた。
実演すると明らかに他の生徒より光の綺麗さが違った。
(あまり目立ちたくないけど、こればっかりはね……)
ウィニーが小声で囁いてきた。
「サティーナ様、またマストロク様がこっちを見てますよ」
「えっ?……どちらから……」
「あの窓からです」
ウィニーが指を差したところに視線を向けると、キジネスがこちらを見ていた。
目が合うと、キジネスは大きく手を振った。
サティーナは小さく礼をして目を逸らした。
「仲良しなんですね!」
「いえ、全然そんなことはないと思うわ」
「え? でも、よくあちらから声をかけてくるじゃないですか」
(なぜなのか、ほんとよく声かけてくるのよね!)
キジネスは避けようとしても、神出鬼没で現れることがある。
これはサティーナにも予測不可能だった。
(最小限の礼儀は守りながら、深入りはしないようにしときましょう!)
昼休みになり、サティーナとウィニーは食堂で昼食を取っていた。
「サティーナ様。そういえば、キクシスト様のことを知っていますか?」
ウィニーが突然そんなことを言った。
「何をかしら?」
「友人からの話なんですけど最近、サティーナ様の話をしているって聞きました」
「どんな話かしら?」
「なんでも勉強熱心で、成績も優秀だから気になっているとか」
(あー……そういえば、ゲームでも……)
ゲームのミシルトは、学業的な優秀さを評価するところがあった。
あるイベントでは、サティーナが問題を鮮やかに解いて見せる場面があった。
それはミシルトの好感度上昇にも関係する。
(成績優秀で目立つのは良くなかったのね。でも成績を落とすわけにもいかなし……ここは気にしても仕方ないわね)
「そうなのね。知らなかったわ」
「あれ? うれしくないですか? キクシスト様は学園でも首位の成績で有名ですし、そんな方に気にされてるんですよ」
ウィニーは不思議そうな顔をしている。
サティーナは笑顔でごまかして昼食を続けた。
(これが、嬉しくないのよね。好感度が上がったら管理対象にされるのは嫌だわ)
午後の授業は歴史だった。
歴史の教師は中年女性で、熱意あふれる教育の仕方だった。
魔法板に書き込みながら、この大陸の歴史を語る。
サティーナは授業を真剣に聞きながら、ノートを取っていった。
六百年前の建国の歴史や王朝の変遷。
大陸をまたぐ魔法戦争やその終結と現在の平和。
時代の背景を考えながら、サティーナはノートに写した。
授業が終わり廊下に出た。
夕方の光が窓から差し込んでいる。
「サティーナ様、今日はテラスに行きますか?」
ウィニーが聞いてきた。
「そうしましょうか」
移動しようとすると廊下の向こうから声が聞こえた。
「サティーナ!」
呼び捨てだ。
振り向くとキジネスが廊下を歩いてきた。
いつもの屈託のない笑顔で、大きな歩幅で近づいてくる。
「マストロク様、呼び捨てはやめて下さい」
「キジネスって言えよな」
「マ・ス・ト・ロ・ク様で十分です!」
「……相変わらず、硬いよなー」
キジネスが肩をすくめた。
「ところで、なんです?」
「あー、特に用はないけどさ。サティーナ、光魔法うまいらしいな」
「それは……まぁ」
「俺、光属性が苦手でさ。コツを聞きたいんだけど」
「ただ魔力を均一に広げる意識で――」
「んー……それだけ?」
「それだけです」
「じゃあさ、今度一緒に訓練してみてもいいか?」
「……私はウィニーと一緒に訓練しますので、別の方とお願いします」
「えっ? 私は別に――」
ウィニーが口を挟もうとしたが、サティーナはウィニーにアイコンタクトを送った。
余計なことを言わないでというサインだ。
ウィニーは察して口を閉じた。
「そっか……それじゃぁ、仕方ないか。じゃあ、またな」
キジネスは残念そうな顔をして歩き去った。
(ちょっとなんかワンコっぽくて、かわいいなと思ってしまったわ……)
「……あの、サティーナ様。少し、マストロク様に厳しくないですか?」
テラスに移動して、紅茶を飲んでいると向かいのウィニーがおずおずと言ってきた。
「……適切な感じだと思うのだけど?」
サティーナは目線を逸らし、すっとぼけた。
「うーん。……でも、マストロク様ってすごく良い人そうな感じがしますよ。一緒に訓練するくらいはいいじゃないかと思うんですが……」
「ウィニー様、私にはちゃんと理由があるのです」
「理由ですか?」
サティーナは考えた。
好感度が上がるのはよろしくないなどと、本当のことは言えない。
「……実は、ちょっと苦手なタイプなの」
「苦手ですか? でもマストロク様の見た感じは、かっこよくて爽やかそうですけど」
「見た目の話じゃなくてね。こう、真正面からぐいぐい来るタイプが少し……ね」
「あー、マストロク様って積極的ですもんね」
「ってことは、サティーナ様は落ち着いた雰囲気の人が好きなんですね!」
「そういうわけでも……」
(キクシスト様とカンゴドール様は落ち着いてるけど、裏がアレだし……)
「分かります! 好みは人それぞれですからね!」
ウィニーは独自の解釈で納得した。
サティーナは訂正するのも面倒なので、まぁいいかと思いながら紅茶を飲んだ。




