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転生したらヒロインでした。強制イベント発動?! えっ、お断りします!!  作者: 紫乃月 聖巴


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第6話 中庭

 ある日の午後、サティーナはついに中庭の近くを通らなければいけなくなった。

 礼儀作法の授業が学園の東棟で行われることになっていた。

 東棟に向かうには、通常なら中庭を通るルートが最短だ。

 サティーナはわざわざ大回りのルートを使ったが、大回りをしすぎて迷ってしまった。

 廊下を早歩きしながら、地図を確認していた時だった。


「あの、道に迷っていますか?」


 声をかけられた。

 振り向くと、男子生徒が立っていた。

 落ち着いた笑みを浮かべている。


(ひぃぃぃっ!!)


 心の中で絶叫した。

 それはソクネスト・カンゴドールだった。

 とうとう三人目と会ってしまった。

 回避しようとしたが無理だった。


「……はい、東棟への道が分からなくなってしまって」


 サティーナは声を落ち着かせながら答えた。


「ああ、それなら分かります。この廊下を真っ直ぐ行って、突き当りを右です」

「ありがとうございます」

「いえ、どういたまして。ところでお名前は? 私はソクネスト・カンゴドールと言います」

「……サティーナ・シェズリスです」

「素敵なお名前ですね」


 ソクネストはそう言い微笑んだ。

 サティーナは礼をして、急いで歩き去った。


 廊下を曲がってから、サティーナは胸を押さえた。

 ソクネストは親切な人だった。

 だが問題はソクネストのルートが進むにつれてそれは変わる。

 好感度が上がっていくと、監禁男になってしまう。


(絶対に好感度は上げないようにしないと! 今日は単なる道案内だから、問題ないはずよ!)


 サティーナは自分にそう言い聞かせた。



 その夜、サティーナは手帳にこれまでの状況をまとめた。


(三人とも予想外の遭遇はあったけど、あれはゲームのようなイベントではなかったはずよね……だから問題ないはずだわ)


 それなら、このまま距離を保ち続ければ問題ない。

 サティーナはペンを止めて考えた。

 はたしてあれが偶然なのか、それとも世界がシナリオへと誘導しているのか判断ができない。

 もし世界にシナリオを維持しようとする力があるなら、回避し続けることができるのだろうか。

 サティーナは手帳を閉じて眠りについた。



 授業の関係で、サティーナは普段使わない北棟の廊下を歩いていた。

 そこで、前方から歩いてきたキジネスと鉢合わせた。


「あっ、シェズリス嬢! また会ったな!」


 キジネスが元気よく手を振った。

 会ったのは二度目だが、なぜか旧知の仲の気安さがある。


「……ごきげんよう。マストロク様」

「キジネスでいいぞ。俺もサティーナって呼ぶ。それでいいよな?」

「……よくないです」

「えっ、なんでだ?」


 キジネスが不思議そうな顔をしている。



「知り合ったばかりですから……」

「俺、すぐ打ち解けるタイプだから気にしなくていいぞ!」

「私が気にします」

「硬いなー。まぁ、時間が経てば慣れるって!」


 そう軽く言って、キジネスは歩き去った。

 サティーナは廊下に一人残り、額に手を当てた。


(調子が狂うわ……)


 いきなり距離を詰めてくる男だ。


(今の好感度が低いうちはまだマシなんだろうけど、高くなったらあれなのよね……)


 サティーナは少し考えてから「はぁ」と息を吐き、その場を離れた。



 また、今度はミシルトに会ってしまった。

 昼食を終え食堂を出ようとしたサティーナの行く正面に、ミシルトが立っていた。

 向こうもどうやらサティーナに気づいたようだ。


「……また会ったな」


 ミシルトが静かに言った。


「まぁ、学園ですからね……」

「魔法理論の授業はどうだ?」


 なぜか会話を続けてくる。

 サティーナは内心焦ったが、できるだけ短く返答する。


「……興味深いです」

「分からない事があれば、俺に聞いてくれてもいい」


(いや、なんで!? そこまでの仲でもないでしょ!)


 サティーナは表情を崩さずに答えた。


「ありがとうございます。でも一人でも頑張ります」


(というか分からなければ、先生に聞けばいいのだし!)


「そうか」


 ミシルトはそう答えて、そのまま立ち去った。


(よし! 最短で会話は終わったわ! だけど、去り際に彼がほんの少し振り返ったように見えたのは気のせいよね……)



 そして今度はソクネストと中庭近くの廊下で会った。

 どうやら中庭から戻ってきたところに居合わせてしまったようだ。


「また、お会いしましたね。シェズリス様」


 ソクネストは穏やかに微笑んだ。


「……そうですね。カンゴドール様」

「お時間があれば少し、お話しませんか? 今、中庭の花がとても綺麗なんですよ」

「いいえ、授業の準備がありますので、失礼します」

「そうですか、残念です。では、また今度にでも」


 ソクネストは少し残念そうな顔をした。

 だが引き止めようとはしなかった。

 サティーナは素早くその場から立ち去った。



 その夜、手帳を見直しながらサティーナは溜息をついた。

 また三人と遭遇してしまったが、今のところはイベントらしい展開にはなっていない。

 キジネスは馴れ馴れしいが、まだ目立った行動はない。

 ミシルトは少し気に掛ける程度だ。

 ソクネストは親切心からくるものだろう。


(まだ、序盤だから当然よね。問題はこれが続くかどうかなんだけど……接触してしまったら、会話は最小限ね。一回の会話でなるべく早く切り上げることにこしたことはないわ。これだけ守れば、大丈夫のはず……よね?)


 サティーナはゆっくりと息を吐いて、手紙を閉じた。

 机には実家から手紙があった。


『サティーナへ

 学園生活はどうだ? 何か困ったことがあれば、遠慮なく知らせるように――

 父ロドビスより』


『サティーナへ

 学校生活は楽しく過ごしているかしら? 学園生活の恋もいいわよ。もし好きな人がいたら、お母様にだけはこっそり教えてね。その時は、協力してあげるわ。ところでロドビス様がね―― 母マリーンより』


『姉上へ

 姉上は元気ですか。僕は元気です。庭できれいな石を見つけました。多分、魔石です。あとで姉上に磨いてから差し上げますね! あと、学園の顔の良い男には注意です! 告白されても受けちゃだめですよ! ソルンより』


(ソルン、庭に魔石はないのよ。お父様やお母様達も誰もつっこまないから、まだ石を魔石と思ってるのね。……顔のいい男には注意は……まぁ、わからなくはないわね)


 サティーナは家族の手紙を見て温かさを感じて、笑みを浮かべた。

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