第12話 まさかの強制イベント?!
サティーナは、イベントが発生していないことに安堵していた。
攻略対象三名との接触は、最小限の範囲内に収まっている。
(このままのペースで行けば問題ないわね)
ウィニーとピネルという友人ができ、勉学も魔法の訓練も順調だ。
図書室のお気に入りの席も見つけた。
寮の部屋は自分の空間らしくなってきた。
なんとも平穏な学園生活だ。
だがまさかそれが崩れる事になるとはこの時、思ってもみなかった。
午後の授業の合間に、サティーナは一人で北棟の廊下を歩いていた。
次の授業は語学で、教室は東棟にある。
近道を通ろうとして、北棟を抜けるルートを選んだ。
少し景色を眺めながら歩いた。
「サティーナ!」
後方から、声が聞こえた。
体が反射的にその声の方向を見た。
キジネスだった。
どうやら先ほどまで剣術の訓練だったのか、少し軽い恰好だった。
「ごきげんよう、マストロク様」
「キジネスって呼べって言ってるだろ! まだ慣れないのか?」
(しつこいわね。いい加減あきらめなさいよ!)
「マストロク様で十分です。何かご用でしょうか?」
「あ、そうそう。実はさ……」
キジネスが軽い足取りで近づいてきて、距離が縮まる。
「来週、剣術の合同訓練があるんだけど、それを見に来ないか?」
(剣術の合同訓練……って、ゲームイベントの一つだわ!)
ゲームでは剣術の合同訓練をキジネスがサティーナに見せようとする場面。
(でもこんな場所で起こることじゃなかったわよ!)
この合同訓練を見に行くとキジネスの好感度が大幅に上昇する。
それではキジネスルートに入ってしまう可能性がある。
行ってはいけない。
断ろうとしたその時。
サティーナの視界に何かが映った。
目の前の空中にそれはある。
画面と文字が浮いている。
(……えっ!?)
文字は三つの選択肢が縦に並んでいる。
しかもこの選択肢は、どうやらサティーナしか見えていないようだ。
キジネスは何事もないかのように、こちらを見ている。
サティーナは固まった。
視界の中央に確かにあるのだ。
ゲームと一緒の選択コマンドだ。
まさかのゲームシステムが現実に現れた。
(はぁぁあああ?!)
ゲームのシステムが現実に現れるはずがない。
そんなものはないと思っていた。
(一旦、落ち着きましょう。サティーナ、落ち着くのよ……)
静かに深呼吸しながら、選択肢の内容を読んだ。
【選択してください】
①「ぜひ見学させて下さい! 楽しみにしてますね!」
②「興味はありますが……人が多いところは苦手なんです」
③「ごめんなさい。他の予定があります」
(……これは)
ゲームでは三つの選択肢はそれぞれ、特定の攻略対象の好感度に影響する。
選択した後は、〇の好感度が上がったと出る。
友人はなぜかここだけは親切な設定にしていた。
今回出た内容の場合――
①を選べば→キジネスの好感度が上昇。
②を選べば→ミシルトの好感度が上昇。
③を選べば→ソクネストの好感度が上昇。
つまり、どれを選んでも誰かの好感度が上がる。
(全部、選択できるわけないでしょ!!)
サティーナは絶望した。
そして、キジネスは待っている。
しかもサティーナは動こうとしても体が金縛りにあったように動けない。
言葉も他の事を言おうとすると口に出せない。
これは選ばなければいけないのではとサティーナの本能が告げる。
(でも、どれも選びたくないわ!)
「サティーナ、どうしたんだ? 少し顔が青いようだけど」
キジネスが心配そうに声をかけた。
(どうしたらいいの?)
「ぜ……」
(くっ……やっぱり、選択肢のを言おうとすると言葉は出せるのね……②……)
その時、カーソルが②に動いた。
(えっ? 今、心の中で呟いただけなのに、カーソルが動いたわね)
「おい、大丈夫か?」
(今、それどころじゃないのよ! むしろ、あなたがここから立ち去ればいい話なんですけど!)
サティーナは混乱していた。
ゲームでは選択肢を選ぶまでは次の場面には進めない仕組みだった。
(ということは……このまま?)
それはさすがにまずい。
どれかを選ばなければ、この状況から抜け出せないかもしれない。
思考がぐるぐると回る。
三択、絶対ダメ。
「サティーナ?」
キジネスの声が遠くから聞こえる声がした。
前世の記憶の中にゲームのコントローラーの感触がそのときなぜか浮かんだ。
ゲームをプレイしていた感覚。
選択肢が出た時に操作する感触。
コントローラーの移動キー。
下を押す感覚。
(……下?)
サティーナはその感覚に引きずられるように、下と念じた。
(下……下!下!!)
カーソルがプルプルしている。
「あの……サティーナ、本当に大丈夫か?」
キジネスが一歩踏み出した。
サティーナは必死に念じ続けた。
(下下下下下下下下下下下下下下――)
その時だった。
ピコンと音がした。
三択の下に新しい選択肢が出現した。
【選択してください】
①「ぜひ見学させて下さい! 楽しみにしてますね!」
②「興味はありますが……人が多いところは苦手なんです」
③「ごめんなさい。他の予定があります」
④「私、剣術の合同訓練日は別の予定が入っているのを思い出しました。またの機会にでも」
(ヨシキターーーーーーーーーー!!!)
サティーナは心の中でガッツポーズをした。
どうやら隠しコマンドのようだ。
「私、剣術の合同訓練日は別の予定が入っているのを思い出しました。またの機会にでも」
サティーナは迷わず④を選んだ。
するとゲームだと選択した後は〇の好感度が上がったと出たが、今回は星のエフェクトが出た。
(星?)
キジネスが少し困惑した顔をした。
「予定? それにさっき顔色が悪かったけど大丈夫なのか?」
「はい。その日、友人と出かける約束をしています。あと、さっきまでずっとお腹の調子が悪かったんですが、治りましたので気にしないでください」
サティーナは選択肢の画面が消えるのを確認した。
(消えた……よかったぁ。けど、あの星はなんか意味あるのかしら。まぁ、三択よりマシよね……)
「……そっか、それなら仕方ないな。じゃあ、また今度な」
「はい、またの機会で」
キジネスは残念そうな顔をして歩き去った。
サティーナは廊下の壁にもたれかかり、息を吐いた。
心臓の音が早く、両手が少し震えている。
自分の部屋に戻ってから、サティーナは今日の出来事を整理する。
この世界では特定の状況下で選択コマンドが発生。
それはサティーナにしか見えないようだ。
選択肢は通常三択あり、それぞれの三人の攻略対象の好感度に影響する。
しかし下と念じることで、四択目が出現した。
(これって、もしかして隠しルートだったりするのかしら? 隠しコマンドなんてないと思ったけど……でも、あの友人達が作ったものなのよね……)
分からない。
分かることといえば、①②③の通常選択はどれも選択してはいけない。
④の隠しコマンドはとりあえず、だれかの好感度が上がったとは出なかった。
(結果としては、良かったのかしら? あとは、今後もまた選択コマンドが発生する可能性があるのよね。ああ、頭痛いわ……)
ゲームイベントは相当数あったはずだ。
全部は覚えていない。
(序盤のイベントは一切なかったから、いけると思ったのに……まさか、こんなことが起きると思わないじゃない)
サティーナは額に手を当てた。
もしまた選択コマンドが発生したら、隠しコマンドを狙うしかない。
必ず出るかは分からないが……。
(いや、もう考えすぎてもしょうがないわね。次に選択コマンドが出たら、何が何でも念じるしかないわ)
サティーナは溜息をつきながら、ランプを消した。




