第11話 光魔法
今日の授業は光魔法の実践だった。
教師が魔法板に式を書き込んでいく。
「障壁魔法の基礎について説明する。まず、障壁の形成には――」
サティーナは集中してノートを取っている。
「では、実際に試してみよう。サティーナ・シェズリス嬢、前に出てくれ」
名前を呼ばれたので、サティーナは立ち上がって前に出た。
教師に簡単な指示をしてもらいながら、小さな障壁魔法を作る。
集中して魔力を集め、意識して展開をする。
淡い光が広がった。
教室がざわめいた。
「うむ、応用がきいている。基礎の理解ができている証拠だな。上出来だ、戻っていいぞ」
教師が満足そうに言った。
「ありがとうございます」
サティーナは席に戻り授業に集中した。
授業終わり、サティーナは教師に質問をした。
「先生、光魔法と闇魔法を組み合わせたら、光の粒子を空気中で分散させることができると本に書いてあったのですが」
「ほう、よく調べてるな。それは、情報伝達魔法に使われることがあるな」
「それで、粒子の色を変えることはできますか?」
「色か? 光魔法に色をつけるというのは、別の術式を込めることで変化は出せると思うが、それは何を目的としてるんだ?」
「いえ、その……ちょっとした遊び心で何かの催しに使えるかなと思いまして」
教師は少し驚きながらも腕を組んで、顎に手を当て少し考えた。
「まぁ、面白い発想だな。そういう使い方を考える生徒は珍しい。多くは実用的なものばかりだからな。だが魔法の発展には、そんな発想も必要かもしれんな」
教師は穏やかに笑みを浮かべた。
廊下を歩いているとソクネストが話しかけてきた。
「シェズリス様。授業で光魔法の繊細さが、すごかったと聞きました」
「いえ、そんなことは」
「私は土属性が主なのですが、繊細な魔法はあまり得意ではないんです。ですから羨ましいです」
「まぁ、向き不向きはありますよね」
「あ、それと――」
一見、彼は親切で穏やかな人だ。
だがゲームの攻略対象としてみると、そのルートの先に何があるか分かってしまう。
それが、サティーナをためらわせる。
「それでは、また」
「ええ、それでは」
(今のところは好感度は関係ないわよね?)
サティーナは自分にそう言い聞かせて、図書室へ向かった。
図書室では、一人で読書をした。
借りてきた本の続きだ。
魔法戦争を終結させた光の守護者は、歴史の中では名前が記されていなかった。
ただ、光魔法の使い手である女性として描かれる。
その人物が使った大魔法は戦場を覆うほどの闇魔法を一気に打ち払い、戦争の終わりをもたらしたとされる。
(……大魔法か)
ゲームでは、光魔法が特別な意味を持つ場面がいくつかあった。
サティーナ・シェズリスが学園での出来事を通じて、自分の力を目覚めさせていくという描写があった。
(シナリオを無視したとしても、サティーナとしての能力は磨いていきたいのよね。大魔法なんてものも使ってみたいわ)
図書室を出ると、廊下が夕暮れ時だった。
丁度、ウィニーが廊下を歩いていた。
「あっ、サティーナ様! 今日は夕食を一緒に食べましょうよ!」
「ええ、そうしましょう」
二人は並んで廊下を歩き始めた。
夕食後のテラスで、ウィニーと紅茶を飲んでいると、女子生徒が声をかけてきた。
「ご一緒してもいいですかー?」
話しかけてきたのは、同じクラスで子爵家のピネル・フォーンだった。
桃花色の髪と目の可愛らしい少女。
そして礼儀作法の授業では度々、先生を困らせることで有名だ。
「どうぞ」
「ありがとうございますー。同じクラスでしたけど、声をかけたる機会がなくてー」
ピネルは気さくで、話すことが好きな人みたいだった。
ウィニーとはすぐに打ち解けていた。
サティーナは温かい紅茶を飲みながら、ウィニーとピネルの会話を聞いていた。
そして自分も会話に加わる。
二人はよく笑う。
その笑い声がテラスに広がっていた。
翌日の朝、ウィニーと朝食を取っていると、ピネルが小走りしてきた。
「サティーナ様、ウィニー様! 大変ですよー!」
「どうしたの?」
「今日の魔法実技、担当の先生が急病でお休みになって、代わりになんと……学園長が教えてくれるそうなんですー」
(他の代理はいなかったのかしら?)
「学園長がですか……」
「他の教師は予定があるらしくて、学園長が今日だけ変わりにってことでした!」
ウィニーもピネルも目を輝かせている。
今日の魔法実技の授業は大きな訓練場に集まり、それぞれの主の属性別にわかれての訓練だった。
カルシオンが訓練場で周囲を見渡す。
「今日は私が代理で担当する。基礎的な実技と各自の強みを把握するための時間にしたい。順番に動いてもらう」
生徒達が次々と訓練を始める。
多くの女子生徒がまたカルシオンを見て、うっとりしている。
(この授業、大丈夫なのかしら……)
サティーナは光魔法の訓練を始めた。
できるだけ目立たないように、小さめの魔法にしようと思っていた。
しかし手加減しようにも力を操作しようとすると、光は自然と大きく輝やきそうになる。
(どうすれば、もっとこの光を抑えることができるのかしら……)
悩んでいると、ふと気配がした。
カルシオンがサティーナの近くに立っていた。
(いつのまに!?)
「……そのまま続けてくれ」
「はい……」
サティーナは内心動揺しながらも、障壁魔法を展開した。
淡い光の幕が広がる。
カルシオンがその形を観察している。
(周囲の視線がすごいんですけど!)
「制御が完璧だな」
「……ありがとうございます」
「光魔法をその年齢でここまで制御できるのは少ない。もっと強く展開することはできるか?」
「……はい」
「やってみなさい」
サティーナは少し迷ってから、魔力を強めに送り込んだ。
光が強くなり、障壁の範囲が広がった。
周囲の視線が集まる。
(ひぃぃー、すごく目立ってるんですけどー!)
「よし、そこまででいい」
カルシオンが落ち着いた声で言った。
「光魔法の能力が高いな。磨けば相当な魔法使いになるだろう」
「……学業に集中したいと思っておりますので」
「魔法の能力上げも学業の一部だ」
言い返せなかった。
混乱していたが、確かにそうだった。
授業が終わった後、サティーナは早々と訓練場を出ようと思った。
「シェズリス嬢」
呼ばれた。
振り返ると、カルシオンが手を挙げている。
(えぇ……またぁ?……)
生徒達が出ていく中で一人残った。
女子生徒は羨ましそうに出ていった。
(変わってあげたい!)
カルシオンが近づいてくる。
「先ほどの件だが」
「何でしょうか」
「光魔法の特殊な応用について、もし興味があれば資料を貸すことができる。学園長室にある文献で、一般的には出回ってないものだ」
(うそ、すごく見たい! で、でもねぇ……)
サティーナは悩んだ。
「そんな貴重なものをなぜ私に?」
「光魔法の才能を持つ者は少ない。放置するのは勿体ないというだけだ」
カルシオンは淡々と述べている。
「……ありがとうございます。でも今は基礎をしっかりと固めたいと思います」
「それは正しい考えだ。では基礎が固まったときにでも来なさい」
「……はい」
なし崩し的にまた来てもいいという形になってしまった気がする。
とりあえず今はこれでいい。
(まぁ、行かなければいいだけだしね。でも見たいのよね……くっ、悩ましいわ!)
サティーナはお辞儀をして、訓練場から出た。
外ではウィニーとピネルが待っていた。
「サティーナ様、また学園長に話しかけられてましたね!」
ウィニーはちょっと興奮している。
「光魔法の話をしていただけよ」
「でもなんか、二人でいる時間が長くなかったですか? あれって特別な感じではー」
ピネルはなんだか楽しそうだ。
「教師と生徒だから特別じゃないわ」
サティーナはきっぱりと言ったが、ウィニーとピネルは何か含みのある顔で見た。
「……何かしら」
「いえ、別にー」
ピネルが目を逸らした。
「なんでもないですよ」
ウィニーは笑っている
(この二人、絶対何か思っているでしょう……)
その夜、寮の自分の部屋で光の粒子を空気中に散らす練習をしてみた。
指先に魔力を集め、闇属性も使ってみた。
ふかりと淡い光の粒子が舞った。
(やったわ、できた! ソルンの誕生日に、これをやってあげたら喜ぶかしら!)
サティーナは喜びを噛みしめながら、ランプを消して眠りについた。




