第78話『ジャックの復活』
臨神族はワールド情報を拾い集める目的でのみ活用可能だった。
「それでジュゲム? ジュゲムでいいよね?」
「カシーさん?」
空中に浮遊する水晶に語りかける私は殊更滑稽に映ったらしい。ずっとオープンだったけど今まで小声で話しかけていた。
『――――――――』
「返答なし。ジュゲムじゃないんだよ」
『――――!!』
そう言うと、抗議するように水晶が強く光った。やっぱりジュゲムだよね? この問答を先ほどから繰り返している。
マップを呼び起こすように言ってもうんともすんとも言わない。しかしワールド情報と直接の繋がりがあって、些細だけど重要な情報にアクセス出来る。アカシックレコードの存在まで露見したほどだ。
「それよりボス部屋です!」
「ミノタウロスを倒しましょう!」
「分かったよ」
10層のボス部屋で待ち構えるミノタウロスと対峙する。
3人で討伐するのは初めてだ。ジャンヌがいるので実質4人。ジャックが抜けた穴は大きい。
「グオオオオオオオオオッ!!!」
「戦闘開始!!」
ミノタウロスが跳躍して襲ってくると私たちは散開した。
ミノタウロスはレベル120。
陽龍の迷宮最序盤のフロアボスでパーティーメンバーが3人だと少し重たい敵だ。サーチベリーは十分戦えるものの、ハイビィは魔女として未成熟なのでジャンヌの防御力が頼りとなる。
「ハイビィは近付き過ぎないでね!」
「遠距離から攻撃します!」
「いざとなれば私が援護に回りますよ!」
「サーチベリーは攻撃に集中!」
そう言っておかないとハイビィとジャンヌが成長しないからね! 回復アイテムは整えたのでアタッカー二人のサポート2人でやっていこう!
ミノタウロスを討伐して私たちは11層に進んだ。
「あっ。プレイヤーがかなりいますね」
「ん~。引き返してもいいけど」
「攻略したいです! 私の順位、200位なんですから!」
「LVPは多分取れないよ~」
プレイ時間で考察すると一番短いハイビィが取る確率が高い。順位を伸ばしたいハイビィはお餅のライバルだ。
11層から出現する火炎罠を潜り抜けてグリルスパイダーのいる20層に降りた。この辺りまでプレイヤーが飽和状態で、ボス部屋には複数のパーティーが並んでいた。
「レイドパーティーを組まない?」
「レイド?」
全員をレイドパーティーに誘ってフロアボスのワルドスパイダーを始苔化する。始まりの苔を使った対象を始苔化と呼ぶのだ。
ワルドスパイダー・スノー。
雪だるまに八本の足を生やした蜘蛛型のモンスターが現れて、眷属のリトルスパイダー・スノーを20人のプレイヤーで倒す。
どのフロアボスも共通して、始苔化すると取り巻きの眷属が出現する。イベント仕様のレイドモンスターがその場に召喚されるようなものだ。始まりの苔があるとイベント期間を楽しく過ごせる。
「ドロップに【アイスゴーレム】の魔導書だ!」
「ゴーレム召喚!?」
「ああ! 魔法革命が来たな! もう一周しようぜ!」
「賛成だよ!」
立て続けにワルドスパイダー・スノーを討伐して、討伐時間の調整とパーティー再編まで行うとクランに招待した。
そうしてジュゲム攻略団は小規模ギルドから中規模ギルドになった。
25人のクラン。
イベント期間を楽しむ共通認識でまとまった。
ウララたちは極竜討伐で上位ランクを維持していた。
廃人勢のほか貂とポたんに合わせていると結構大変な目に遭う。リアルで寝不足だと訴えてくるお餅に同情してしまった。
「クエスト大漁! 感謝するよ!」
「ジャックの又貸しは本来厳禁なので」
「クランの鉄則にしよう」
ジャックの探し物で締めくくりたいとクランメンバーに打診したところ、3人のプレイヤーがジャックを貸してくれた。渋々ながら貸してくれた1人には後で謝っておこう。
『極夜石道イベントが終了しました』
『イベントクエスト「仙獲必勝ビンゴ」をクリアしました』
『アイテム「仙獲結晶」を獲得しました』
『イベントクエスト「ジャックの探し物」をクリアしました』
『アイテム「ジャック・ザ・コイン」を獲得しました』
『イベントクエスト「ジャックの探し物」をクリアしました』
『アイテム「ジャック・ザ・ポーチ」を獲得しました』
『イベントクエスト「ジャックの探し物」をクリアしました』
『アイテム「ジャック・ザ・ナイフ』を獲得しました』
『個体名「ハディース・ノヴァ」……死獲の魔王にして四大魔王の一人。イクシードと■■■■■の認めた4人目の魔王であり、その行動原理は唯一の存在を追うことにある。
魔王とは最強の種族か? 次なる戦火で試される――――』
個体名として出てきたノヴァ。私のことすらシステム上の存在とした変化をどう捉えるべきなのかは正直悩んでいる。
「ジャック・ザ・ナイフは上げるよ」
「結晶では無かったですか」
「残念ながら違ったよ~。ジャックを借りてごめんね」
クラメンに武器を譲り渡して、半数は願いの大地に引っ込む。私やウララ、お餅は願いの大地で草を食んでいるタイプなのだ。
「3連続でLVP」
「おめでとう!」
お餅は三連続でLVPを獲得。プレイ時間を絞りに絞ってのLVPで、一応の検証は終えたことになる。
LVPは伝説級部門。
MVPは好感度部門。
GVPは貢献度部門。
私がMVPを取った時はNPCの好感度が異様に高かった。イベントガチ勢のランカー勢はその仕様に気付いたことだろう。
GVPは単なる消去法。
ほか貂が獲得したSVPが討伐数部門と分かり、街の貢献度かもしれないと判断した。ウララはイベント期間中に結構なアイテムを放出している。
「次は討伐数を取りに行こう!」
「私は3連続LVPでおしまい。『サ学』をやってる」
「買うの?」
「買う。そんなに面白いなら遊んでみなければ」
「分かったよ~! 私も別ゲーで遊ぼうっと」
「ちょっと待ってください!!」
ジャック・ザ・ナイフを渡したクラメンの一人が遮ってくる。
「どうかしたの?」
「いえ! その~、良ければジャンヌとジャックを交換していただければなと」
「ジャンヌとジャックを?」
ジャックスキーだと思ったけど実はジャンヌスキーだった?
「いいよ。このジャンヌで良ければ」
「ありがとうございます! 100レベルを超えるとジャンヌでもいいんじゃないかと思えてきて」
「気持ちは分からなくないよ」
私たちのジャンヌはレベルが高いからね。そういう意味でも交換はありだ。しかしジャックが戻ってくるとは!!
「よろしく、ジャック!」
「よろしくねー! って、カシーのことは覚えてるよ!!」
そうなの?




