第76話『80層のボス部屋』
陽龍の迷宮80層。
50層以降から「合計レベル1000はないと死ぬ火炎罠」が追加される陽龍の迷宮で、ジャックの禁断魔法、【灼熱地獄衆】を使おうかと本気で悩んでいた。
「ジュゲム。お前とはいい友達になれそうなんだよ」
『――――』
擦り切れたような音が水晶から聞こえてくる。
もうすぐだ。もうすぐだと言っている予感がするんだ。私の予感は当てになるというのにウララたちは信じてくれない。
『寿限無寿限無五劫の擦り切れ』
『海砂利水魚の水来末、雲来末、風来末』
『食う寝るところに住むところ』
いつもと同じパターンを繰り返すのでゲームだというのに眠くなってくる。ジュゲムは邪道じゃないかと光のジャックを視界に入れる。目に入れても痛くないのはジャックだよ。
攻略速度は日増しに落ちていて、百層へと到達する頃にはイベント真っ盛り。お餅予想によると、この迷宮でLVPは確実に獲れるという。
お餅の3連覇がかかったランキング戦が始まった。
3日かけて検証した結果、80層のボス部屋で始まりの苔を使った方がいいと判明した。
フロアボスの名前はフレイムトリオン・ロード。八十層に生息するフレイムトリオンの親玉である。
フレイムトリオン・ロードは始まりの苔を用いると頭にとんがり帽子が生える。取り巻きのフレイムトリオンも出てきてレイド化するのが確認された。
序盤から終盤までフレイムトリオン狩りでいいと思っている私たちの元に悪い報せが届いた。
「ほか貂の狩り場がまた狙われたって!」
「こっちに来るつもりですか?」
「そうみたい! 良い報せではないよね~」
E魔人の行うランカー潰しで真っ先に被害を受けたほか貂は私たちの狩り場を聞いてきた。迷宮であろうことは推測出来る。
初日から狙われるとはツイてないと、同じく始まりの苔を使う私たちも警戒する。ランカー潰しを目的としている連中には覚えがある。
「ほか貂が狙われると私たちにも飛び火する」
「そうなんだよ。ほか貂は安全な場所でやっていきたいだろうけど」
私たちはランカー潰しのせいでE魔人に配慮しなければならなくなった。始まりの苔を使用した狩り場を取られると大赤字だ。
「ほか貂とポたんがこっちに避難してくるよ。深夜帯に使うかな?」
「仮設のイベントフィールドですが明日まで使えそうにないですか」
「うーん。どうだろうね」
期待薄だけど占ってみる?という雰囲気ではない。始まりの苔はここぞという時に使わないとね。
フレイムトリオン・ロードを倒しまくっていると、翌日の夕方にはほか貂たちが80層に現れた。
「俺たちをクランに入れてくれ」
「本気で?」
ジュゲム攻略団は廃人勢の集まりじゃないので正気を疑う。ランキング戦にのめり込んではいるけどほどほどにやっている小規模クランだ。
「穴場を見つけるのは上手いだろう?」
「E魔人のことは何一つ知らないよ。狙われやすいのはお互い様」
「厄除けになってないか心配でな」
それでクランに入りたがるか。クラメン募集はしているけど、今日1日はフレイムトリオン・ロードと決めている。厄除け? 何のことかな?
E魔人は気まぐれで動いたりしない。理知で動く獣だ。今はトップであり続けるために何だってする覚悟だろう。
「まあ無駄足にはさせないよ。最初はパーティーでいい?」
「ああ。ランカー潰しはまともじゃない」
「プレイヤー同士で争うのが原初のルールだよ。私たちは前回の反省を活かしてランカー潰しに狙われないようにやってる」
「ウララは3位だろう? 上位2人はランカー潰しの仲間だ」
「マヤ卍ヤマが仲間なの?」
「ああ。確実にE魔人と結託している」
それはそれは。E魔人って味方を作るのが上手いね。
E魔人がランカー潰しの筆頭でこそないけど、協調路線を歩んでいるため各方から恨まれている。ノヴァの一件もあるからね。
戦いになったら逃げの一手だ。E魔人とは争わない方がいい。
「索敵網が無駄に広いし罠を仕掛けてくるんです。E魔人には気を付けた方がいいですからね!」
「十分気を付けるよ」
何処か抜けているところのある2人をパーティーに組み込んで、フレイムトリオン・ロード討伐を再開する。
見慣れた炎の巨人とその眷属だ。クルヘエーグと戦った経験が大きいので、陽龍の迷宮を狩り場にする廃人勢が一定数いる。
炎無効の槍無効という厄介な性質を持ったフレイムトリオンの親玉は、本来レイドパーティーで挑まなくては勝てない大物だ。
武器の質でゴリ押ししている感じはあるし、ランカー潰しに狙われていないのは奇跡だ。客観的に見ると、私たちはいいポジションにいる。
「魔法は水系と氷系しか効かないから気を付けて!」
「極振りじゃないと火力不足か……!」
「その通り! ハイビィは攻撃を続けてね!」
「はい! 【アイスアロー】!! 【スパイラルウォーター】!!」
知力極振りのハイビィには魔導書を積んでMPを底上げさせた。大自然族はHPよりもMP優先!
私はポイズンルーラーの効果でMPが枯渇するとHPが削れるからどっちもどっちだ。垂界物は大自然族とちょっと違うかな?
魔法同士は干渉して威力が減衰してしまう。なので水魔法と氷魔法に絞っておいた。お餅もやきもきしながら戦っている。
ほか貂たちも一度は倒したことのある敵。フレイムトリオン・ロードと戦って余裕が出てくるとジュゲムのことを話し始めた。
「ジュゲムに出会うとユニークイベントクエストを受けられる。俺はこの迷宮で垂界物になったからな」
「キュアアッ!!」
「ドラゴンだ!? テイム出来るんだね!」
ほか貂は魔法の世界箱からプラチナのドラゴンを召喚した。
体長は3メートル以上。
私のサイクロンとは似て非なる豪奢なドラゴンだった。垂界物だと使い魔がいても不思議はなかったよね!
「使い魔がいるとジャックは不要となるわけだが」
「そんなことないよ~」
「いいや。ジャックは不要だろう」
パーティーメンバーとして意見を言ってくるほか貂に私はいやいやと否定する。ジャックは不要という意見は受け付けないよ?
ジャンヌ被りでほか貂たちを含めると十人パーティー。
この上使い魔を使っているので経験値の入りはどうしても悪くなる。ほか貂が言いたいのは経験値配分のことだ。
それから20分かけてフレイムトリオン・ロードを調理した。時折召喚してくる眷属のフレイムトリオンも美味しいモンスターだ。
「私たちは下階層に行きます」
「頑張ってね~。クランのことはじっくり考えて!」
「考えるのはそちらだ」
マイペースに80層を突破したほか貂たちを見送る。ほか貂たちがクランに加わるのは一向に構わないよねと皆で意見を一致させた。




