第72話『王都センクシム』
私たちの根城は願いの大地に佇む3階建てのレイキーア工房だ。クランハウスとして重用するのに申し分ない装飾がなされている。
「シャフトシャフトパンチでやっていこう!」
「クラン名は迷いますね」
「野菜ジャックの空箱がいいと思う」
「間を取ってジュゲム攻略団でもあり!」
「ジュゲム攻略団だと人が集まりそうですね」
友達の攻略を手伝うサーチベリーを連れてハオーラの邸宅に戻ってきた。
邸宅を拠点化しないのも他のプレイヤーがいるから。食堂は空いていたので自由に使わせて貰う。始まりの街から願いの大地まで若干距離があるからね。
「クランは難しいです。だけど入っておくべきですか」
「武器とかアイテムを融通するよ~」
「それは助かります! ジュゲム攻略団なら加盟します!」
サーチベリーの一票は馬鹿にならない! ハイビィも序盤は厳しい大自然族なので賛成のようだ。
「あくどいクランになりそうだよ」
「カシーがリーダーだとそうなります。リーダーはお餅にしますか」
「カシーでいいよ。巨人族を従えたMVP獲得者はカシーだから」
「私がリーダーをやるよ! 任せて!!」
心配そうなウララはしばらく悩んだ挙句にクラン結成の段取りを教えてくれた。クランメンバーの最低人数は5人なんだ!
「連盟の如雨露を作って世界樹に水をやっておしまいと」
「連盟の如雨露はここにあります」
「もうウララがリーダーをやればいいじゃん!」
「そんなことを言っても私は全体を見る立場にありません!」
「兵士か!!」
このウララ、『JCO』をプレイする前は別のMMOで兵士ジョブに就いていたらしく、突撃姿勢やたまに見せる強かな言葉遣いから強キャラ感を醸し出す天才なんだ。
リアルでは抜群のリーダーシップを発揮する。軍曹キャラは私のことだよ!
「ウララがリーダーでいいよ!」
「うん。ウララがリーダーだと私たちは安心する」
「分かりました」
ウララがリーダーになってくれるので、私は気楽にクラメン勧誘が出来る。クラン名はジュゲム攻略団で決まりかな?
連盟の如雨露はウララが作って願いの大地で使っていた。
世界樹は最前線の街にあるけど、クラン結成の場は王都センクシムから進めるエルフの森。
荒地に育つ世界樹ではなく水清らかな大地に根付いた神々しい世界樹の前でクラン結成を行える。
「王都方面に行くよね?」
「1度は行きたかったですね。エルフの森でクラン結成です」
「王道だよね! 丁度五人いて良かった!」
「トップランカーのクラン結成はビッグニュースです」
サーチベリーは茶化すことなく真剣に考えていた。
年下感があると思ったけど2つ下の中学2年生だった。高校生?って聞くと中学生って返ってきたんだよ。
始まりの街から王都センクシムを経由してエルフの森に向かう。5人でパーティーを組んでいるけど実質8人だ。ジャンヌ被りで賑わうパーティーがややあってジャンヌ騎士団を結成した。
「ジュゲム攻略団にするなら先に迷宮都市に行くべき?」
「どっちがいいかな~」
「どちらでも構いません」
移動に難のあるハイビィと鈍足のお餅はサイクロンに積んで、駆け足でフィールドを突っ切ること2日。
王都センクシムに到着して街の規模に度肝を抜かれた。
「広い! 王イベで主戦場だっただけはあるね!」
「ノヴァとE魔人が原因で不気味さを醸す場所です。王イベからすっかり街の雰囲気が変わりました」
「王イベ以前の王都を知らないんだよね」
センクシムの街並みは襲撃者によって部分的に崩壊していた。街の規模を考えると小規模だけど廃墟が目立つ。
「王都に拠点を構えるクランは増えてきそうです。私は願いの大地でも構いませんけど、王都の方が利便性は高そうですね」
「じゃあ王都でいいよ。レイキーア工房は私たちのマイホーム」
大自然族のために装備を作ってあげるレイキーアは大裁縫師から優麗匠にジョブチェンジした。私たちもそろそろジョブチェンジしないとね。
王都には何でも揃っている。
アイテムもクエストもないものなんて存在しない。
「魔女ギルドは何処にあるかな~」
「先に調べますか。森林族との繋がりもありそうです」
「エルフの里に行くのが私たちの使命だよ」
「魔女ギルドと言えばトレジェリスって気がするけど」
お餅の言わんとすることは分かる。死獲の魔女が揃い踏みするイクシード城にはまた遊びに行かなくてはならない。
そのためにも転移アイテムが欲しかったけど、【広域転移】のマジックアイテムは品薄状態。
【広域転移】の魔導書は秘宝中の秘宝のようだ。【翔雷転移】を合成させ続ければ【広域転移】に出来なくないけど私は高速移動手段を失う。
1日探し回って、お餅が【広域転移】のマジックアイテムを発見した。魔女ギルドはセンクシムに存在した。
「始まりの広場を出発点に魔女の道を通ると行けるよ」
「お餅凄い! 羊飼いを辿って行けたんだ!」
羊飼いNPCから魔女の道を調べ尽くして法則性を導いた。羊飼いNPCが鍵となるのは隠し職業の魔女が上位職の筆頭だから。
羊飼いは最古の隠密ジョブ。
魔女が意味するのは同じく最古の隠密ジョブだろう。付け加えるならメレンゲ解かな? ワールド情報にもたまに出てくる。
情報アドバンテージのあった私は縁起物の水晶に頼り過ぎるあまり下町のNPCをうっかり見落としていた。水晶の力で行けると思った私は悪くないはずだ。
5人で魔女ギルドにやってくると、魔女狩りの一味が勢揃いしていた。第6聖騎士団を名乗る連中だ。
「このギルドは我々が利用しているのだが」
「めっちゃ上から目線だった」
不機嫌そうな聖騎士の素顔に私たちは困惑した。
「ゴンザのことは残念だったね。復活したからピリピリしてるの?」
「復活などするものか」
「ジィーク案件だと思うけどね~」
発生条件は不明だけど、NPCは形を変えて復活する。トゥルーエンドを迎えられるならジィークの呪いは解除されて本復活となるはずだ。ガリトーはそこまで行けなかった。
「それでギルドの利用って?」
「教えると思うか? こちらの邪魔だからギルドを出て行け」
面倒事は嫌なのですごすごと引き下がる。魔女ギルドは聖騎士団に乗っ取られてしまったよ。皆して垂界物になる気かな?
「さて! 気を取り直してギルド結成に行こう!」
「さりげなく水晶を取り出さない」
「いいでしょ! 私のマイ水晶なんだから!」
「カシーは内心不貞腐れていますね」
あんな風に邪険に扱われるとメンタルにひびが入るというか。ジィーク情報を対価に美味しいクエストを聞きたかっただけなのに。
センクシムからエルフの森までは一直線。世界樹周辺は王イベでの最前線であり、淡河大喰域に進むほど強敵が現れた。世界樹を守ることで上位種族に至ったプレイヤーもいるだろう。
「カシーさんは占い師にジョブチェンジしたんですか?」
「違うよ。私はただの水晶マニア」
縁起物の水晶に頬ずりしながらその場その場のワールド情報を聞く。
『死なずの大地に一人の影――――』
『死獲の魔女は必ず復活を遂げる――――』
うん。そんな気はしたよ。
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