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隠密ジョブのメレンゲレンジ  作者: タ別


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第七話『大自然寄りの人』

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 無口な亡霊に休める部屋を訪ねると枯れた井戸に連れて行かれた。


「……ホッガは小屋で休むといいよ?」


「そ、そうさせて貰うか」


 村人NPCのホッガは恐る恐る小屋に入っていく。

 ホッガを驚かせるのもあれなので、亡霊と枯れた井戸を覗き込んだ。


 大自然族あるあるその一、井戸に落ちて出られなくなる。

 環境オブジェクトの土限定で作用するシャフトで人工物を通り抜けることは出来ない。ネズミ1匹通れる穴から覗くことが精々で、井戸の底から這い出すためには一旦下に潜って地上にシャフト移動する。

 自然族も似たり寄ったりじゃないかな? 意味深に井戸を覗いているし、地下に部屋でもあるんだろうか? 土に埋もれた隠しエリアなら辿り着ける。


「ジャック。この人が装備を作ってくれたんだよね?」


「違うよ!」


「えっ、違うの? じゃあ誰が作ってくれたの?」


「井戸の下にいる人! 地下にいるんだよ!」


 地下って……隠しエリアかな? 肝心のシャフト移動も地下では真っ暗なんだよね。マップが広いってレベルじゃないよ。ジャックは何者なんだろう?


「行ってみよう」


 井戸の底に下りてシャフトで更に地中へと潜る。

 50メートルは暗闇を突き進むと唐突に視界が開けた。


「おわっ! すり抜けた!」


「着いたよーっ!」


 ジャックは地下に植わった小木にぱーんと木の実を付ける。来客の合図かな?

 簡素なベッドに宝箱、それに棚と机がある。

 天井から釣り下がった光るいんげん豆が地下を照らしており、蔦の巻きついた梁がこの空間に閉塞感を与えている。床は石畳で私たちは小木の周りしか移動出来ない。


「ジャックか。それに客人もいるようだ」


 暗がりにいた魔術師の男は仄暗い声を響かせる。歓迎されてはいないよね。


「来たよ! 今日はカシーも一緒なんだよ!」


「カシーだよ~。見えてはいないよね」


「いいや、見えている。透き通った銀糸と押し固めた砂塵の瞳。淡い爪色だ」


「お、凄いよ」


 キャラメイクで爪の色を薄くしている。アバターの些細な変化まで気付けるんだ。


「装備を作ってくれる人なの?」


「レイキーア。大裁縫師ロープメイズだ。この姿だとよく魔術師に間違えられる」


 魔術師だよね? ロープメイズって職業?

 模様の入ったローブに宝飾品を付けていて身なりのいい魔術師だ。しかしジャックの装備を作った人物なので生産ジョブだよね。色々と仕掛けのありそうな隠しエリアだよ。


「レイキーアさん。ランプウルフの尻尾で何が作れる?」


「ロープは作れる」


 私は装備が欲しいなぁ。って、違う違う。ジャックの加護について聞かないと!


「レイキーアさんはジャックの悩みを知ってる?」


「本人の前で聞くのか?」


「そうだよ! 僕に悩みなんてないからね!」


 困っていることは特になし。悩みとも無縁なジャックである。

 チュートリアルクエストを熟して好感度を得ることはおよそ誰にでも可能だ。激減したステータスでレベル1とおこぼれのモンスターを倒すしかなくなる苦行だけどそれを突破するのは容易い。


「レベルになるかな? それならなおのこと強い装備が欲しいよね」


 ジャック・ザ・リッパーの呪いは「パーティーメンバーにジャックの加護を与える」のみで、ジャックとパーティーを解除すると加護は消える。ただしジャックのレベルは一向に上がらない。

 大自然族がチュートリアル種族なのは嫌というほど理解した。仮にも加護なんだし恩恵がありそうというかあって貰わないと困る。


「バロックラットの毛皮は使える?」


「ガイアジャマーの毛皮もあるよ!」


 バロックラットは頭に骨飾りを付けたモンスターで岳灰の農場跡にもポップする。

 ガイアジャマーは願いの大地で悪さをする火打ち石を持った小猿だ。荒野を開拓するとポップする。状態異常攻撃を使ってくるから厄介なんだよね。火傷はないよ。

 小動物のくくりにいるモンスターは他にピュアリザードがいる。こいつは肉しかドロップしない。


 数日でかなりの数を討伐したので、毛皮はジャックと分担して持っている。

 素材が小さいためインベントリを圧迫しないのは利点だ。筋力1でどれだけのアイテムを持てるのか、役に立つ情報じゃないかな?

 因みにスライムゼリーとスライムの核は食べている。大自然族の主食だ。


「これだけあれば装備一式を作れる」


「おおっ!」


「代わりと言ってはなんだが」


 レイキーアは言葉を濁す。すると、クエストが発生した。




『クエスト「迷宮入りの食糧庫」を開始しますか?』




 迷宮入りの食糧庫? 食材アイテムを渡せばいいんだ。

 装備を作る代わりに食糧を求めてくる。レイキーアがこの隠れ家で暮らしているのは確定だ。

 ピュアリザードの肉は全部レイキーアに渡して、クエストクリアで幾ばくかの経験値と装備製作を勝ち得た。

 レベル1の素材と言うなかれ。ジャックの力を高めてみせた大裁縫師なので完成が待ち遠しい。




 大自然族あるあるその二、専用装備が売っていない。

 種族ごとに装備の作りが異なるらしく、全種族対応の装備は滅多に見かけない。

 大自然族の装備は王都でしか得られないそうな。


「装備ゲット~~!! 私は勝ち組だった!!」


 大裁縫師レイキーアの作ってくれた装備は大自然族専用だった。

 最低レベルの素材でよくぞここまでの装備を作ったとレイキーアをべた褒めしたくなるドレスだ。どうせ見えなくなると思うよね? ところがどっこい。装備だけは見える仕様だ。




 ・シャフトラインドレス(大自然族専用)

 耐久 150

 大自然族の女性に相応しいドレス。鏡に映ったドレス姿を見て悲鳴を上げること間違いなし。


 ・シャフトラインヘアー(大自然族専用)

 耐久 100

 銀髪の綺麗なウィッグ。蝋燭の明かりでぼんやりと浮かび上がる。


 ・シャフトラインブーツ(大自然族専用)

 耐久 100

 大自然族の女性に相応しいブーツ。足音を忍ばせて近づくと魂の叫びが聞けるかもしれない。


 ・シャフトライングローブ(大自然族専用)

 耐久 100

 大自然族の女性に相応しいグローブ。鍛え抜かれた力を発揮する武器であり防具。




 初期装備とは雲泥の差だ。

 大自然装備に耐久はなかった。破壊不可に耐久を吸われた初期装備だったんだ。

 素材が素材だけに装備の損耗は心配ではある。


「カシー、綺麗だよ!」


「ありがとう。装備の修復も請け負ってくれる?」


「ああ」


 まさかの二つ返事が聞けたのでガッツポーズする。

 装備修復にも素材は必要かな? となると、装備なしで戦うことになるんだよね。


「アバターの動きを取れるけどぎこちないし貧弱は変わらずだよ」


 筋力1で武器は装備不可。

 攻撃は【パンチャーバレット】に頼るほかない。

 移動にしてもシャフトなしでは苦労する。私にダメージは通らなくても装備はズタボロになるよね!


「助かったよ、レイキーア。また来るから!」


「僕も来るね!」


 装備は悪くないと頷いて、私はレイキーア工房を後にした。




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