第64話『再帰のスプーン』
ウララの持ち味は武影の刀からにじみ出る隠密一体の斬撃だ。
「魔法武器の方が扱いやすいですが瞬間火力が違います!」
「デスペナルティは大丈夫だった?」
「装備のお陰でチャラになっていますね!」
攻撃スキルの多彩なウララは獅王剣ジオルグとサイクロンとの連携で巧みな剣撃を放つ。ウララの使い魔にはエレメントホースのエレメがいるけど、私の【万物調教】で咄嗟の動きが出来るのはサイクロンのみだ。
私はウララの援護に回っている。サイクロンの背中でゆったりと座るのが私になったよ。クルヘエーグのトレイン時に確立した方法だ。
王獣クルヘエーグ。またの名を金獣クルヘエーグ。
1体目は海から生じた紅蓮の巨躯だった。
2体目は黄金の巨躯。
クルヘエーグは臨海物という種族で、海に多数存在するモンスターらしい。世界の有する水塊の色に左右されて出現する。
『王獣クルヘエーグが臨海物を手に入れました』
『灼炎が来たる。此度の臨海と語り合おうぞ』
んっ?と思った矢先、見覚えのないNPCが戦闘に移行していた。クルヘエーグへと振り上げた大槌を叩きつける。
「こいつは俺様の獲物だ!!」
「新手かな!?」
炎のエフェクトが拡散して危うくダメージを受けかけた。
赤髪の巨漢にリスのような耳と尻尾。
クルヘエーグを彷彿とさせる容姿に少なからず驚いた。赤個体のクルヘエーグにそっくりなNPCだ。
「臨界物……それだと最低でもレベル200はあるよね?」
「現状最高火力だ、魔女カシー」
「魔女呼ばわりは困るかなぁ。垂界の魔女だけど」
聖騎士の1人が文句ありげに突っかかってくる。クルヘエーグに突撃して死にゆく聖騎士はある意味で滑稽だ。
「杓炎って?」
「杓炎のゴンザのことだ。連れて来るのに苦労したが見事だな」
「ダメージエフェクトを焚いてるのがムカつくよ」
「臨界物と臨界物……まあ化け物同士の争いだ」
俺たちは端から崩すのみだと言ってのける聖騎士団の副団長、カムイなる男は獲物の奪い合いに勝ってご満悦だ。
「カムイさん! 火力が足りてないってほか貂さんが文句を!!」
「魔女を足止めするなと? クラン方針に逆らう奴はいないだろうな!?」
「クラン方針は死獲の魔女の捕縛では!?」
「知るものか! こいつらは死獲の魔女同然だろう!?」
「散々な物言いだよ」
少し傷付いた。
死獲の魔女というとテフューラを思い出す。NPC連れだと目立つから最前線の街に置いてきた人族の魔女だ。
「私たちを足止めしてもいいことないけどね」
「今よりゴンザがメイン火力だ」
「はぁ……私たちも戦わせて貰うよ」
レベル強者に勝てないからと化け物級のNPCを連れてきた。魔女狩りを行う騎士団という触れ込みだったけどその通り過ぎる。
死獲の魔女を捕縛するつもりはないようだけど、効率よく倒そうなどと考えている。しばらくその場にいると、2番砦の主がゴンザ・レスバーンだと言った。格上相手に強いのは認める。
「参戦っと! 【翔雷転移】!!」
「待て!!」
「物理転移か!?」
一瞬の隙を見逃さずにクルヘエーグの角へと攻撃を叩き込んだ。籠楼の獲竜箒では大したダメージにならないし、続く【パンチャーバレット】でも効果はいまひとつだ。
私はウララの攻撃に合わせて動く。
ウララの足場となるようにサイクロンを配置してクルヘエーグを操る。何時間もかけてフィールド移動を果たした私たちだから出来る芸当だ。
相手は大悪魔。
攻略法は変わってないけど【武器召喚】持ちで厄介極まる。
「贄だ!! こいつは贄にしてやる!!」
「きゃああああっ!!」
背後から悲鳴が聞こえて攻撃を中断する。
「全く。垂界物を利用しないで欲しいよ。私たちが黙ってない!!」
「ぷるんっ!」
「あっ! いつかの垂界物ズだ!」
いつかの垂界物ズ! 参上! とりあえずこのゴンザというNPCを処理しないとクルヘエーグ討伐は出来なさそうだね! こいつクルヘエーグを治癒させてるじゃん!!
死獲の魔女。
突如として出現する曰く付きの魔女集団だ。イクシード城と密接に関わっており、城主のイクシードの手先であると考えられる。
「イクシード城の内部は2つに分裂してるようだね!」
「イクシード城に土を付けるのが習わし。俺様の邪魔をするつもりか?」
「俺様キャラは古いんだよ!!」
イクシードとは無関係では無さそう。よく分からないけど、因縁のある相手なら討伐対象! いでよ、金剛槍ケルベログ!!
「ぬるい!!」
「けったいな結界魔法! 上森林族の魔法かな!?」
「この結界は破れんぞ!!」
臨界物がもう1体。
NPCの皮を被った化け物が参戦してきたので相手取る。
結界魔法は物理攻撃を無効化する自然族譲りの魔法。森林族にも使いこなせる【ハード・スプラウト】という魔法の上位魔法だった。
「【ファイアジャベリン】×6」
「ぬうっ!?」
「仲間割れ……じゃない! 何故ゴンザを狙う!?」
「分かりやすく敵だからだよ!!」
攻撃と見せかけて回復していた節のあるゴンザ。どんな理由であれ、前線に赴いてやっていることがレイドモンスターの救済である。テイムするつもりかな?と思わなくは無かった。
しかし大悪魔をテイムする? それもNPCが主導しながら?
何を与えられてこの戦場に現れたのか定かじゃない。NPCがプレイヤーから得たアイテムを利用するのはこのゲームでは常識だ。
「スライムズ! ジャック! あいつを倒すよ!!」
「ぷるんっ!」
「分かったよー、カシー!」
ジャックのスキルで防核を捨てさせられたゴンザは大槌に白炎を纏わせながら近付いてくる。間合いに入ると炎の色が変わった。
クルヘエーグの時、炎の色は変わらなかった。
白炎が広範囲に飛び火するとスリップダメージになるという、結構えげつないパッシブスキルを使ってくる。
臨界物の特性故か、それとも死獲の魔女だからなのか。意外にも回復系の魔法に優れた才能を発揮するのが死獲の魔女という存在だ。
臨界物とは何か? 考えるまでもなく戦えば分かる。
「俺様の声が聞こえるか!? 世界の均衡を揺るがし物議を醸す贄を捧げる!! 世界は己のあるがままに――――!! 【完全治癒】!!」
「治癒魔法!! やっぱり回復させて……!」
「お前にもその恩恵を授けてやろう」
クルヘエーグが重なり、【完全治癒】の効果が拡大した。
「オイオイ!! 回復してんじゃねーか!!」
「誰だ!? あの筋肉達磨を連れて来たのは!?」
「折角勝てそうだって時に……!!」
「クハハハハハッ!! 死獲の魔女、ゴンザ・レスバーン降臨だ!!」
スキルの拡大と魔法の拡大。
2体の臨界物と関わって理解したことを私は頭に叩き込んだ。
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