第62話『トレインしよう!』
クルヘエーグを引っ張って引っ張って破滅大林道の沼地に落とす。両翼を失って飛行モーションは取れないクルヘエーグだけど、助走を付けて宙を舞う攻撃モーションで迫りくる。
「追走が難しくなります!」
「私も先回りするので手一杯だよ! 宙を舞うモーションで移動だね!」
「親近感が湧いてくる」
宙を舞うモーションで移動距離を稼げる。シャフトと同じだ。
大自然族に近しい存在のクルヘエーグは、調教スキルで大人しくなると思っている。【万物調教】もあるのでレベル差さえなければいい。今のレベルではどう足掻いてもテイムは不可能。
「サイクロンの出番かな?」
「頼みます!」
「分かったよ! サイクロン、ウララと一緒に動いてね!」
サイクロンを召喚してウララを玉座に座らせる。【万物調教】を使わずとも忠誠心の高いテイムモンスターだ。
眷属の大群から抜け出してフィールドの終わりに辿り着いた。
怪羽放域硫から一直線に破滅大林道へと向かうと村1つが犠牲になる。街道には極力出ないように購入したマップを見ながら移動する。
怪羽放域硫の側を通るヒッポス大街道を通ると破滅大林道の手前にある街が見えてくる。
ケルベローグから馬車で3日の距離にある街だ。サイクロンでヒッポス大街道を通ってきた身からすると結構な長旅だった。
ヒッポス大街道を横切って破滅大林道に到着した。
「やっと着いた!!」
「夜に再ログインです!」
「疲れたー!」
お昼ご飯を抜いてぶっ続けで8時間のログイン……精神的に堪えるトレインだったよ。レイドモンスターのトレインは悪の極みなり!!
「疲れた~」
私たちは街一番の宿屋でログアウトして、夏休み最後の思い出をゲームに固定する。SNSでの話題は専ら『JCO』だった。
逢倉瑚鈴、ライトゲーマー。一日のゲームプレイ時間は平均3時間。夏休みに入って倍増しているのはいかがなものかと家族にはツッコミを入れられる毎日だ。
「瑚鈴、ちょっと手伝って」
「はーい」
お母さんに呼ばれてゲームについて根掘り葉堀り聞かれながら1日を終える。と言っても、約束の時間に『JCO』にログインするんだけどね。
夜の8時半。
3人とも集まったのでトレインしてきたクルヘエーグを観察する。居場所はすぐに分かった。
「戦ってる~」
「私たちはどうする?」
「あれは倒せそうにないですからね」
第3形態の大悪魔に生まれ変わったクルヘエーグを見て小さく唸り声を上げる。悲鳴が聞こえているのは悪い兆候だ。湖に潜んでいるのはモンスターばかりじゃない。
「はぁ。PKがうようよしてるよ」
「誰のせいですか」
「カシーのせい。責任を取って今日中に倒すべし」
「今日中はちょっと無理かな?」
邪魔な毛皮がカットされて金獅子のように立ち回るクルヘエーグは、弱点であるはずの水を意にも介さず有象無象のプレイヤーを排した。責任を取って倒すべきだと言われても難易度が高い。
様子見を決め込んでいるのも大規模な討伐隊が組まれているからだった。プレイヤーの参入が日を追うごとに増した破滅大林道にレイドモンスターが2体いるという情報は多くのプレイヤーにとって渡りに船だっただろう。トレインしてきた私たちからすると討伐されればそれでいい。
「魔導書の泥率が低い。そもそもスキル全般の獲得率が低い。レベル100でスキル20個が普通レベルって萎えるなぁ」
「竜人族でしょ? レベル上がりにくいんじゃなかった?」
「森人族にしとけば良かったぜ。というよりPKがうざいんだが」
「殆どカモられてる」
「ノヴァ連れのE魔人まで出張ってきたからな!」
トレインされたクルヘエーグに嬉々として挑むプレイヤーをカモと思うPKパーティーがぽつぽつと見られる。
大規模な討伐隊に食ってかかるE魔人たちがいて初めてこの戦場は成り立つのかもしれない。私たちには都合がいいんだ。
「あいつを倒すよ!」
私の合図で災禍に見舞われる破滅大林道に飛び出す。街に被害がないのはスタンピードを止めるために総力を挙げているからだ。しかしPKという邪魔者がいる。
あいつ、というのはハディース・ノヴァに他ならない。
「E魔人は死んだ!!」
「助太刀するよ!!」
地上部に引きずり出されたハディース・ノヴァと戦うPKKクランに助太刀する。E魔人は予告退場しているので、ハディース・ノヴァを諦めるつもりだ。気持ちの変化だろうか? ランキング1位の方を重視している。
『ハロー。そっちの状況は?』
『ノヴァを倒すよ』
『PKerのシンボルを倒せるとでも?』
嫌な汗が伝う。
そうだよね。E魔人が『ノヴァの援護に回って』と声かけしてしまえばPKたちがPKKクランと激突するのは必然だ。
「トップランカーのお三方がおいでなすったか!」
「詫びアイテムをくれるんだよな?」
「俺たちにも恵んでくれよぉ!!」
ノヴァの援護に駆けつけた悪党の群れに全力で応じる。
「お前たちは万死に値する!!」
「人のこと言えないよ、カシー!!」
ジャックとジャンヌを盾にすると文句を言われた。防御スキルを覚えまくった2人ならこのピンチを切り抜けられる!
「「ハイプロテクション!!」」
「チッ! 状態異常のみ有効ってのは面倒だな!」
元より大自然族はPKされにくい種族。無害なプレイヤーの証だ。
しかしランキングでしのぎを削っているのも大自然族。他種族のライバルからすると、大自然族が目の上のたんこぶに思えてくる。
「対人戦は苦手」
「なんつー威力だよ……!!」
「クソやられた!!」
6本の【アイスジャベリン】が2人の悪党を懲らしめた。対人戦は苦手と言いつつも私たちとの連携はしっかりする。連携の取れていないPKパーティー相手なら十分戦えるお餅だ。
「我らの本業だな!! ノヴァは任せた!!」
「了解です!」
PKパーティーはPKKクランに丸投げして、私たちはノヴァ討伐に本腰を入れる。一度は遭遇したものの攻撃パターンすら掴めていない。
背中から生える3対の鎖と鉄球。
その見た目から堕落の2文字を得ているノヴァは、E魔人に堕落させられてほんの少し丸くなった。不死の軍勢を引き連れることなく防戦一方を演じてくる。
E魔人のパーティーメンバーだろうか?と一瞬脳裏にちらついた。
ノヴァには王都に恨みのある裏設定があったのかもしれない。討伐=高ポイント獲得なので気にするのは野暮だ。
「おっと! 復活が速かったね!」
「馬鹿だなぁ! 死んでないよ! そこのリーダーは買収済み!」
「そこのリーダーって?」
E魔人に取り込まれたプレイヤーはPKKクランのクランリーダーだった。ああっ!? ウララがやられる!!
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