第61話『色違いのクルヘエーグ』
オークの愛は金より重たい。黄金の国を栄えさせたのもまたオークだった……と、ちょっとした悟りを開きながら色違いのクルヘエーグを対峙する。因みに第2形態だ。
「垂界物が勢揃いだよ」
「悪いか」
ほか貂とポたんはともかく私の見染めた垂界物ズが参戦していた。魔女の館で見ないと思ったよ!
「ほか貂が仕掛け人?」
「ああ。5日目にはと話していただろう?」
「そうだっけ?」
2度目の討伐。そして2度目の討伐隊編成。
クルヘエーグの周辺にいる垂界物ズは私たちを含めて6人。臨界物を手に入れる回数は6回ということになる。
前回討伐時は2回なのであの3倍は厄介になる。本末転倒と思うかもしれないけど、明らかな上位個体を倒すのも面白い。
レイドモンスターの上位個体という立ち位置の金獣クルヘエーグは、黄金色のエフェクトを纏ったジャイアント・グリーンベルを召喚する。
プレイヤーの狙いも殆どはジャイアント・グリーンベルだ。ポイント獲得では破滅大林道のモンスターと変わらないため、攻略難易度の低い地上フィールドで戦えるという利点がある。
それ故にフィールドに散らばったプレイヤーは結構な数いた。それを束ねていったのがほか貂率いるクルヘエーグ討伐隊だ。
「今回は譲るしか無さそうですね」
「遠慮なく1位を取りに行ってくれ。俺たちもそうする」
2本牙のクルヘエーグは強力な雷撃が封じられて身動きが取れずにいる。角を1本圧し折ったのが徹夜したほか貂たちだ。
クルヘエーグの色が変化した理由を探るのもトップランカーの仕事。水塊の色という曖昧な表現でぼかされたけど、クルヘエーグが臨界物で海と密接な関係があるという説明は出来る。
私たちは若干出遅れている。ランキングでは酔狂なE魔人にも追い抜かれてしまった。破滅大林道では負けなしのE魔人だ。
ほか貂たちはクルヘエーグを動かすのに反対する勢力。エリアを限って倒した方がいいと考えている。
「ほか貂には勝てない。だけど火力兵器がここにあるからね!」
「私は兵器じゃない」
「お餅は立派な殺戮兵器です」
ウララすら認める兵器っぷりに私はうんうんと頷く。
アタッカーが多くいる以上、私たちは後方で火力支援となる。魔法攻撃で天下を取れるお餅がいるし、お揃いのMP増大アクセなどを整えた。レイキーアのところにこっそりと行ったのは秘密だ。
・王獣の夕闇を併せる牙
耐久1700 MP150
クルヘエーグの王獣牙が用いられた細身のベルト。12頭身の獣から3頭首の獣までをも内包する。王獣よ、かの地に来たれ。
レイキーアの作った装備は特別感がある。シャフトラインドレスは未だに使い続けている。クルヘエーグの素材でアクセサリーを作るついでに三付華の帽子も進化して貰った。
私は【キリングエッジ】を武器にちょこまかと攻撃していく。お餅の豪快さに比べると見劣るだろうね。
ムスペルシュートで2本牙の大槍、金剛槍ケルベログを投擲してクルヘエーグを誘引しようと試みる。この場で踏みとどまって戦うのは明らかに効率が悪いと思う。破滅大林道は巨大湖だよ?
「ヤバい武器ですね! 2本牙を使ってあるんですか」
「そうだよ、ポたん。何故か私のお目付け役になってない?」
「垂界物は何をしでかすのか分からないですぅ」
「やましいことは何もないよ」
「E魔人はとある垂界物に頼まれたと言ってましたよ?」
はて、何のことやら。ノヴァと戦える好機を逃がすプレイヤーはいないし、E魔人を表に出したからファインプレーじゃない? 私って腹黒い?
「クルヘエーグの肉を盗られたんだよね」
「素材、かなり手に入れましたね? 今回はそうはいかないです」
「いやいや。私が戦わないと前線崩壊するよね?」
「そうですが!」
2割増しで狂暴化しているクルヘエーグは並みのプレイヤーでは対処に負えない規格外のレイドモンスターだ。
アタッカーはデスポンしながら宙を舞う巨躯の金獣を追い回す。
どんな秘策があるにせよ、この場で戦うのは愚策だ。携帯型のセーブポイントを持っているプレイヤーばかりじゃない。
ほか貂は手練ればかりを集めたわけじゃない。自分自身が活躍出来るように最低限の戦力を周囲からかき集めた。
そしてNPCだ。わざわざ2つの都市を経由して垂界物ズを連れてきている。足手まといになりやすいNPCだけど、その場にいるだけで戦力となる垂界物はやっぱり異質だ。
一応は戦力。場をかき乱すためなのは言わずもがな、ほか貂が討伐の主軸となるためである。
「2人ともやり手だよ」
3日3晩かけて戦ってきたクランは潮が引いたように大人しくなった。垂界物の影響で闘争本能を剥き出しにするクルヘエーグは倒せない敵だと判断したのだ。
たかが色違いと思って挑んだプレイヤーを亡き者に変えるクルヘエーグと火花を散らせて第2ラウンドだ。
『王獣クルヘエーグが臨海物を手に入れました』
『魔の胎動が始まる――――』
『スタンピードまで36時間!!』
スタンピード!? モンスターが暴走するってことだよね!?
垂界物ズのアウロラたちは顔を真っ青にしながらその場にへたり込む。クルヘエーグがおびただしい数の眷属を召喚してモンスターの暴走は真実味を帯びてしまった。
時刻は正午。
最終日にイベントモンスターが各都市を襲うという宣言にほかならず、主犯格となってしまったほか貂は焦りをにじませる。
「これ、倒せるか……?」
「どうしたんです?」
「ここで討伐しないと36時間後にはモンスターが暴走するぞ」
ほか貂から話を聞いたポたんは丸くした目を更にかっ開いた。
「弱腰になるのは良くないです! 倒せるだけ倒しときましょう!」
「主力はいるからな」
5垂界物というトリガーで放たれたスタンピードという弾丸……ジャックが5兄弟なのは偶然か。
私たちを主戦力に据えてくれるのは有難い。作戦を変えられる。
「よし! 今がチャンス! クルヘエーグをトレインするよ!!」
「えっ?」
「トレインするなアホ!!」
素っ頓狂な声を上げたポたんと制止してくるほか貂は気にせず、私たちはクルヘエーグを破滅大林道に誘引する。
2人以外は疑問とすら思わない。山吹色に染まったジャイアント・グリーンベルを討伐した方が儲かるからだ。
「やるんですね!」
「やるよ! 雷撃が来ないのは好都合! フィールドを移動する!!」
「らじゃー!」
最前線の街とは分岐する方角。
破滅大林道の沼地エリアに落として一方的にタコ殴りだ! 泥浴びが好きなら着いてくるといいよ!
「ああもう! どっちに行っても知らないです!!」
「最前線の街には行くな!!」
「分かってます! E魔人には挨拶しておくので!」
ひょっとするとノヴァを倒せるかもしれない。そんな淡い期待を胸にクルヘエーグをトレインするのだった。
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