第五十六話『クルヘエーグ討伐』
クルヘエーグは獣の四肢で三叉槍を操り、攻略の糸口を包み隠してしまった。王獣の晴れ姿にもう1体の王獣を彷彿とさせる。
名称とレベルは判明。
ケルベロス。レベル300とのことだった。
大陸の北に出現したクルヘエーグと大陸の南に出現したケルベロス。王獣降臨と囁かれる中、獣人の国へと進軍を開始したノヴァの姿も目撃されている。
王都襲撃イベントで討伐されずじまいのノヴァを含めて、第2回イベントを盛り立てる役者が3体。今回こそは巨人族の因縁であるクルヘエーグを討伐したい。
「クソ! また雷撃にやられた!!」
「さっさと角折れろ!!」
「あのマントが邪魔くせぇ!!」
雷撃に爆破。何でもござれの万能職に成り上がったクルヘエーグは、プレイヤーを蹂躙して喜びに満たされているようだ。
「ギャガガガガッ!!」
「臨界物なし。単なる時間経過では無さそうだね」
垂界物のみが知れるワールド情報に刻まれていくクルヘエーグの行動原理に意識を割きたくなる。しかし2度の臨界物から止まっていた。
「クルヘエーグのマントは破れて来ている! このまま押し切るぞ!!」
『『『『おおおおっ!!』』』』
「B班はカオスだね!! C班、上手く合わせて!!」
「C班の方がカオスだろう!?」
他種族混成のパーティーが怒涛の攻撃を仕掛ける。巨人族をメイン火力とするパーティーが肩を並べて襲いかかるので、クルヘエーグも煩わしげに破れかけのマントを翻していた。
「ギャギャギャギャギャッ!!!」
「雷が染めし金剛の剣よ! 大地を駆け抜けて御天を描かん!! 【メテオシャワー】!!」
光輝く石礫を降らせるほか貂が積極的にマントへと穴を開けていた。範囲攻撃だと角狙いの方が有難いけど、スリップダメージを与えるマントの方が厄介だった。
ほか貂はなんと大自然族でポたんとパーティーを組んでいる。ポたんは獣人族で始めてレベル150を越える廃人プレイヤー。
魔女の館のことも当然知っている。そこでは出会わなかったけど、ほか貂は私と同じ垂界物のようだ。
「ほか貂さん。臨界物に聞き覚えはある?」
「俺のことはほか貂でいいぞ」
ほか貂はぶっきらぼうにそう言う。
「臨界物。アシストという意味らしいな。何処からのアシストかは謎だが、1つだけ分かることはある」
「敵対ルートだよね?」
「ああ。だからこそこそと話しかけてきたのか」
失敬な。私は気になったことをこっそり聞きに来ただけだ。
臨界物を手に入れた経緯は、私たちが垂界物だからという単純な理由のはずだ。そしてこの場には二人の垂界物がいる。
レイドモンスターをアシストしてしまう状況下に陥る。それはきっと罪だろうけど、同類にしか分からない罪だ。誰かに許しを乞うこともない。
「垂界物になると苦労するな」
「私にはテイム魔法がある。上手く使えないかなと思って」
「万物魔法か? 俺のは【万物衰退】だったぞ」
「【万物衰退】? 何というか地味?」
「使う対象を選ぶのは確かだな。しかしレイドモンスターのHPを見られる」
「嘘!」
レイドモンスターはレベルが高過ぎてHPゲージが見られない。それを克服してしまう便利魔法があるとは思わなかった!
「HPは残り1割を切った。何事もなければ倒せるぞ」
「テイム出来ないかな?」
「あいつは素材に変える。分かっているだろう?」
「分かったよ」
最前線の街に壊滅的被害。ここを拠点としていたプレイヤーは討伐しか頭にない連中と成り果てた。
所詮は素材集めの延長線。そんな体たらくでいると願いの大地に戻りたくなる。徹夜でゲームをすると丸投げしたくなるよね!
脳裏にテイムすることがよぎったものの、ほか貂に止められて私は潔く諦めた。【万物調教】でもレベル差があり過ぎて効果はないだろうし。
「グギギギギギッ!!」
「笑うに笑えなくなったかな、クルヘエーグ?」
「グギャギャギャギャァ!!!」
大悪魔の終わりは近い。
最前線の街で大暴れしたクルヘエーグは、プレイヤーの怨嗟を聞いて気が動転している。
私たちは冷静にクルヘエーグの角を折って畳みかけていった。
『王獣クルヘエーグの討伐を確認しました』
『水塊の色を当ててみよ。それが王獣の色となる――――』
『アイテム「始まりの苔」を入手しました』
王獣クルヘエーグの討伐で私はレベル135に上がった。
ウララはレベル140、お餅はレベル137と経験値配分のせいで私はレベルで下の方になってしまった。クルヘエーグに最も有効打を与えたのはウララとお餅だからね……。
クルヘエーグ討伐で群を抜いて活躍したプレイヤーはイベントランキングで上位にランクインしている。
私はランキング3位。ついでお餅が2位。そしてウララが1位だ。
その日には塗り替えられないポイント差が付いたのもトップ争いを加熱させる原動力となった。
「ウララたちには負けませんので」
「このイベントも俺たちが貰う」
ほか貂とポたんには宣戦布告まがいのことを言われた。クルヘエーグの素材が欲しいと後で強請られたけどお断りしている。
「拠点、どうする?」
「願いの大地にお引っ越しです」
巨人族のワーゴンたちは最前線の街で受け入れられ、私たち3人は願いの大地に飛んだ。
ケルベロスはクルヘエーグが斃れて魔法都市に向かわない行動を取った。予想外ではないにしろ、ケルベロスは今回のイベントで生き残る確率が高い。
ノヴァがそうであるように、クルヘエーグがそうであったように……プレイヤーの敵対ルートが隠されている。討伐せずに利用する攻略法だ。
クルヘエーグは素材に変えられた。【万物衰退】で1体のモンスターとしか見えなくなったほか貂の影響でもある。レイドモンスターを独り占めするE魔人なるプレイヤーを参考にするならばテイムが良かった。
しかしあくどいプレイをしてまでランキングで上り詰めようという気概はない。私たちはごく一般的なプレイヤーだ。最初に地雷種族を選んだだけのごく一般的な。
「はぁ~! 久々に願いの大地に戻ってきた!」
「カシーには懐かしく感じますか」
「懐かしいよ! この場所でゴボーラと出会い私は強くなった!」
ゴボーラ。私の怨敵だ。掲示板でも騒いでいると聞いた時は呪ってやろうと思った。竜人族がC班だったのも全体的に扱いにくいからだ。
竜人族がちらほらと見られるジャックの放牧地でのんびりと草を伸ばす。ジャックフラワーを育てることも忘れない。
「またしてもウララはイベント1位だよ」
「おめでとう」
「終盤で負けてしまうと素直に喜べないです」
「だからこうして頭を突き合わせてるんだよ」
首位をキープすること。そのためにどういった攻略方針を取るのか初心に帰って考える私たちだった。




