第五十三話『金剛を破壊せし者』
「斬響刃!! 攻撃が届かないぃ!!」
「気を付けて、カシー!!」
クルヘエーグは両角から雷を生み出すと毛皮に纏わせる。
威嚇態勢を取ったクルヘエーグが全方位に雷を放った途端、地中で何かが砕け散った。
「暴発!? ウララ!!」
「何とか無事です!」
「聖剣を叩き斬ったのか!?」
勢いよく前方に転がったクルヘエーグから死神の大太刀と死獲の魔刀を構えたウララの姿。
雷装が暴発したのは白炎を帯びた尻尾を斬ったからだった。
プレイヤーのことごとくを浄化し、凶悪なデスペナルティを与えた聖剣。地面に突き刺してドレインしながら移動するためプレイヤーたちは攻撃を集中させていた。
「金剛牙です!!」
「牙だったの!?」
それに金剛!? イベントクエストが発生したのは間違いない!
ウララは死獲の魔刀を収納すると、グリーンポーションでHPを回復させる。
私はウララをクルヘエーグの頭上まで運んで追撃を行った。
「【キリングエッジ】×7!!」
「星逸斬り!!」
「【アイスジャベリン】! 【ホーリージャベリン】! これで……【ストーンジャベリン】!!」
「なんて威力だ……!!」
バギンッと、2度も金剛翼が砕かれる。
お餅の【ストーンジャベリン】は金剛よりも硬いのが実証された。ジャック・ザ・ポーチの中身を整理したようで、ドロップアイテムは自動収納される。
「毛皮を剥いでやりたいですね!」
「MPポーションは残り5個! 集落にプレイヤーが集まってる?」
「レイドパーティーを組んでるだろな!」
吸血鬼のプレイヤーは防具に救われつつ戦い抜いている。
火傷状態になって風格の出てきた吸血鬼だ。
吸血鬼は日光に当たると弱体化するので、ログイン時間が深夜帯のプレイヤーは好んで吸血鬼になる。魔人廃街道のレイドモンスターが吸血鬼に寄せられるのも理由の一つだ。
「まさか水門を越えてくるとはね。前回よりは戦えたよね?」
「戦えましたね。魔法は心なしか効いています。私たちは街で迎え撃ちますか!」
クルヘエーグに囚われる寸前のウララとお餅を助け出して炎の静まった沿岸部へと退却する。
「追ってきた!」
「速いです!!」
「本気を出すよ! しっかり掴まってね!」
ブランクダッシュを発動してシャフト移動の速度を引き上げる。
それでも追いついてくるのでターボスパイクと【翔雷転移】で遥か上空に逃れた。
「攻撃はこない? 良かった!」
「転移で帰還します」
ウララは【広域転移】のマジックアイテムを取り出す。転移出来るかな?
クルヘエーグの攻撃範囲から逃れたので【広域転移】は問題なく発動した。
転移垂界石を設置した屋敷に戻ってきた私たちは、ボロボロになった装備をパゾースとセピュネに直して貰う。その時に王獣の襲撃を伝えた。
「クルヘエーグか……! この街が戦場になるんだな?」
「まだ分からないよ。途中で倒されるかもしれない。クルヘエーグの金剛牙はウララが引っこ抜いたからね」
「これです」
ウララは三メートルの白い牙をパゾースに見せる。
「これがクルヘエーグの牙!? 巨大だな! こんなのが何本も生えてるのか!?」
「一本だけです。再生してくるとは考えたくないですね……」
「パゾースに扱える?」
「ああ。この牙で何を作りたいんだ? 何でも作れるぞ!」
パゾースはレベル100越えの器用極振り鍛冶師! 信じてたよ!
「拠点の強化一択です」
「ウララ!?」
「簡単なのを選んだ!」
この流れだとクルヘエーグの金剛翼は屋敷の扉になっちゃうよね!?
「武器にしないの?」
「世界樹ごと拠点を護るので出入り口に使っておきましょう」
クエストクリアと拠点の強化でクルヘエーグの襲撃を跳ね除ける。
討伐を視野に入れると武器にした方がいいけど、ワーゴンたちは防衛戦力として待機させておきたい。クエストで引きずり回すのは気が引ける。
「悲報です!!」
「サーチベリー! いきなりどうしたの!?」
クルヘエーグの素材を余すことなく拠点に用いることが決まってすぐ、サーチベリーが慌てた様子でやってきた。
「クルヘエーグがグリーンベルの大群を従えて南下中です!! 新たな牙が生えた途端、狂暴性が増して誰の手にも追えない状況ですっ!」
「新たな牙!? 王獣だから他のモンスターを従えるのはあり得るけどタイミングが悪すぎる……!」
「素材をがめると良くなかった……!」
お餅は後悔をしてがっくりと項垂れる。クルヘエーグの狂暴化は読めていなかった! まさかのまさかだよ!
クルヘエーグの牙は真紅に染まっていた。
血のように赤く色づいた二本の牙が最前線に災いをもたらす炎狐の両耳にも見える。陽炎の中に佇む一体の王者は分厚い毛皮を翻しながら私たちの拠点へと急接近した。
「【アイスジャベリン】!!」
「ウララ!!」
「分かっています! 拠点は諦めましょう!」
クルヘエーグをジオルグホテルの正面に招待する。最前線に築いたランドマークが崩壊していく様を傍から見るのは心苦しい。
私たちは決して護りには入らず、狂暴化したクルヘエーグを迎え撃つ。
共闘してくれる仲間たちは何百人といる。
崩れ落ちる瓦礫を避けながらクルヘエーグに突撃する味方勢力だ。隙あらば攻撃するスタンスは私たちとて変わらない。
「倒せるぞ!!」
「レベル350だか知らないが牙を折り続ければ倒せる!!」
立て続けに魔法砲撃が叩き込まれる。
1発1発に魂を籠める魔法師たちがダース単位でいる最前線。焼け石に水と思われる魔法だろうと私たちは攻撃の手を緩めない。
「ファイアエンチャント! ハードコートジュエル!! 加えて【リトルエンジェル】!!」
「サーチベリー! 獣人だと戦える!?」
「無理にでも戦います!! てやああっ!!」
種族的に体力の高い獣人族だとクルヘエーグの豪熱に耐えられる。スリップダメージに弱い大自然族は出番がないに等しい。
無機物ならぬ垂界物だけど、怪羽放域硫が決壊してクルヘエーグの眷属となったジャイアント・グリーンベルの数は減らせている。クルヘエーグの相手はウララたちに丸投げだ。
「うわっ!」
「緊急離脱だよ、お餅!」
「危ない危ない!」
お餅にヘイトが移ったのを敏感に察知して緊急離脱。クルヘエーグの2本牙が灼熱地獄に誘ってくる時は全滅必至だ。
火薬庫を爆発させる威力で大地を爆ぜ飛ばすのでスリップダメージの権化だ。下手にヘイトを取ると死ぬまで追ってくる!
「まずは牙を破壊するぞ!」
「クルヘエーグの2本牙はそう簡単に折れないよ!」
「あっ、別のジャック?」
ジャック連れのプレイヤーが参戦してジオルグホテル周辺は混沌と化していく。




