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隠密ジョブのメレンゲレンジ  作者: タ別


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第五十二話『王獣クルヘエーグ』




 天使族と悪魔族の違いはかなり顕著だ。

 翼の劣化した天使族は飛行能力を有する悪魔族に敵わない。


「雷撃……!?」


「「「あぎゃあああああああっ!!?」」」


 悪魔族の集落から駆けつけたプレイヤーを待ち受けていたのはクルヘエーグの雷撃。

 火耐性を有するNPCで固めてきたはいいものの見事に撃ち落とされている。


「3回転はやめろぉおおッ!!」


「火傷ぉぉあああ!?」


「あぢぃいいい!! 俺の装備があああッ!!」


「うぎゃあ!? 火達磨になったぁああ!?」


 クルヘエーグは焔の全体攻撃でプレイヤーの屍を築いていく。

 毛皮に掴まることで難を逃れたウララはクルヘエーグの胴体に剛墜の楔刃をぶつけて1撃離脱する。

 クルヘエーグの角を狙わないのは角を折ったプレイヤーに全ヘイトがのしかかるから。

 ダメージを稼ぐには地道に攻撃するほかない。

 ウララはクルヘエーグの再生能力を上回る武器を持っているし、死獲武器はクルヘエーグに対して効果を示す。プレイヤーが足並みを揃えつつ魔王の転生地に封じにかかるので勝ち目はある。


 しかし焔の牢獄に囚われると死ぬまで抜け出せない。

 直接ダメージを与えようとするとゾンビアタックしかなくなる相手だ。

 ジオルグの加護で攻撃範囲拡大を得られるのはウララのみ。

 クローシュのような鉄壁の毛皮に攻撃を入れられるのは1人のプレイヤーだけだった。


「潮時だよ、ウララ」


「マフラーを奪います。再生能力の源ですから!」


「分かったよ。援護に回る!」


 ウララは他のプレイヤーと攻撃箇所が被らないように立ち回って、明らかに弱点部位の角やマフラーは狙わなかった。ジオルグの加護があると背面からの攻撃は届く。


「【キリングエッジ】×7!!」


「雷撃が来ます!」


 ターボスパイクで反転し、【翔雷転移】で回避する。

 そう簡単には攻撃させてくれない。

 ウララはクルヘエーグの全体像を把握して死神の大太刀で斬る。立て続けにお餅が【アイスジャベリン】でマフラーを狙い撃った。魔法職のプレイヤーは弱点部位に攻撃を叩き込んでいる。


「マフラーの向きを変えた……!」


「飛ぶぞ!!」


「範囲攻撃じゃないよなぁ!?」


 クルヘエーグが夜闇を照らす小さな太陽となる。

 空を駆け回って周囲一帯に焔を伝播させたクルヘエーグは、勢いの衰えることがないプレイヤーを寸断してみせた。私たちの攻撃など王獣は意に介さない。


「王獣の葬火に気を付けろ!! デスポンで拠点が燃やされる!!」


「マジかよ!?」


「デスペナきつすぎねえ!?」


「俺たちの攻撃は殆ど効いてないよな!?」


「四の五の言ってないで本体にダメージを入れ続けろ!!」


 私は王竜騎膨腕に【キリングエッジ】を充填中。

 辺り一面が真っ赤に染まって火達磨になるプレイヤーが続出し、デスリスポーンを回避するために全力で走り回る。お餅は地中に逃れるしかなく、私も【万物調教】で滞空している状態だ。


「食らいやがれ!!」


 決死のプレイヤーが暴雷の黒槍をぶつけるとクルヘエーグは雷撃で消し炭に変えた。


「はっ! こっちは蒸鳴人(ボイド)だ!!」


「ポーションはまだある?」


「あるから問題なし! お仲間強いな!?」


 煙とともに消えた吸血鬼がポーションを飲んで回復する。

 戦闘開始から戦っているプレイヤーの一人だ。

 エスケープ魔法を持っていて、即死雷撃を難なく回避している。火耐性はなくスリップダメージで常に死にかけだ。耐性スキルの習得は速そう。


「範囲攻撃がえげつない……!」


「ウララが不味いかな?」


 半径五十メートルに熱波を飛ばすクルヘエーグにプレイヤーたちはポーションを消費され続けている。

 装備の修復が間に合っておらず、裸一貫で突撃するプレイヤーまで出てきた。


「【ドミネートヒール】」


「助かります!」


「集落に留まろうと思ったけど駄目そうだよ。それと大裁縫師のプレイヤーがいる」


「湖魚の缶詰がいりますね!」


 魔女の館で見かけた湖魚の缶詰は食べると火耐性バフがかかる。

 非常食にいくつか買ったものを食べたので、火耐性スキルがなくても状態異常になりにくい。

 レイドモンスター相手には必須と呼べる支援魔法がプレイヤーの命運を分けている。

 バフアイテムで解決出来なくないけど、湖魚の缶詰が天使族の集落にあるとは思えない。


「角は狙うな! 突撃して斬れ!!」


「【炎霊の守護(イフリートビスタ)】!!」


「かかれ!!」


 パーティー全体に付与魔法をかけた一団がクルヘエーグの膨張毛皮に囚われる。

 クルヘエーグがその場を飛び退いて、ウララは片翼のマフラーに一太刀。


「【キリングエッジ】×7!!」


「【アイスジャベリン】!!」


 立て続けに七枚の【キリングエッジ】を叩きつけると地獄絵図のど真ん中に現れたお餅が【アイスジャベリン】でマフラーを破壊した。


「砕いた!!」


「ナイスお餅! これって焔の聖杯だよね!?」


「再生能力は別ですか!」


 お餅が巨人族の集落で回収した焔の聖杯、その大元を王竜騎膨腕と【万物調教】で掴み取る。

 クルヘエーグの魔法変換機構で、巨体を浮かせるジェットパックだった。

 再生能力の一端を担っているわけじゃない。王獣の力を制御するクルヘエーグの金剛翼だ。




『イベントクエスト「金剛を破壊せし者」を開始しますか?』




 クルヘエーグの金剛翼を魔法の世界箱に収納するとイベントクエストが出てきた。

 慌ててクリア条件を見てみる。




 ▽

 クリア条件:クルヘエーグの金剛翼でアイテムを製作すること。

 推奨レベル180




 生産系のイベントクエスト!? 金剛を破壊せし者なのでクルヘエーグの金剛翼をゲットするだけでクエストクリアは出来る! パゾースの【火神鍛造】で神風を吹かせるチャンス!!


「ウララ! お餅! クルヘエーグの両翼を頂くよ!!」


「燃えていますね!!」


 全員メラメラと燃えてるよ!

 2週間間隔でレイドイベントの発生する『JCO』で廃人勢が集まった弄奇天魔窟だ。

 しかもトップランカーの大部分は迷宮都市や獣人国家に流れている。


「態勢が崩れた!」


「内部からよくやります!」


「ぷあっ! 助かった!」


 お餅が瀕死で土から蘇ったのですぐさま【ドミネートヒール】をかける。


「回転焔だよ!」


「狙える……! 【アイスジャベリン】!!」


 竜箒の後ろに乗って離脱したお餅は【アイスジャベリン】で金剛翼を狙い撃つ。

 死王亡き戯杖は装備しておらず、インテリ舵杖のホーミング補正と器用+50の戯獲アクセで戦っている。

 能力値上昇アクセの効果は強化に用いた結晶アイテムの個数で決まると言っても過言じゃない。


 お餅はイヤーカフに戯獲結晶5個を使った。

 魔女に転職してアクセサリー枠は2枠に増えている。

 悪魔族の中にはアクセサリーを付けまくれる職業もあるらしい。装備枠を使ってないかな?

 とにかくPKされると3日は泣きたくなる装備で挑んでいる。フレンドリーファイアは嫌なので、1撃離脱して他のパーティーに任せる。


「プレイヤーが数人になった」


「リスポーン地点が散らばったかな!」


「潮時ですね。飛び込みます!」


 そう言って、ウララはクルヘエーグの懐に潜り込んだ。


「決断が速いよ!」


「ごりっとHPが減った!」


 ウララが内部から猛攻撃を与えると、クルヘエーグは驚いた様子で前足を持ち上げた。


「リスだった!?」


「リス!! 【アイスジャベリン】!!」


 毛皮のマントに角と翼をくっ付けた王獣は後ろ足で立つと全身の毛を逆立てた。





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