第四十二話『最前線の宿』
美味しい肉が1つあったとする。奪い合いになるのは明白だ。
美味しい獲物が1匹いたとする。確実にプレイヤーは奪い合う。
ノヴァ討伐合戦が始まった。
イベント終了後で今更と思うかもしれないけど、ノヴァが想像以上に強すぎたので仕方がない。死獲行列の大部分を失って弱体化しながらも淡河大喰域に君臨し続けている。
「敵対プレイヤーの存在ねぇ~。廃人勢は関わらないけど王都襲撃組は喜んでやる」
「王都襲撃組はいますね」
王都襲撃イベントで王都を破壊するのは何もモンスターだけじゃなかった。
プレイヤーはより狡猾に、計画的に王都を転覆させる。
人族国家と敵対ルートを選んだ方が面白いってプレイヤーは一定数いる。イベント進行が滞ってしまった原因を作り出したのもそんなプレイヤーたちだ。
もちろん目的がある。それは狩り場の独占だ。
イベントフィールドに数千人、下手すると数万人のプレイヤーが押し寄せた王都襲撃イベントで、邪魔者を排除しながらランキング上位を目指すのは理に適っている。
今回の主戦場は王都近郊と淡河大喰域だった。
私たちはイベント開始時点にしかいなかったものの、淡河大喰域を狩り場にするプレイヤーは多かった。律儀に王都で待っているとトップランカーにはなれないんだ。
イベント期間でポイントとコモンをどちらも荒稼ぎしたプレイヤーはおよそPKである。
廃人勢ですら平然とタブーを犯す。
ランキング1位がどれだけ真っ黒なのか知りたくなってくる。ランキング最上位は魔族か竜人族だ。戦闘力では他の種族を追随しない。
大自然族はNPCの好感度を得やすいのが最大の利点だった。
土地を癒す神秘の種族で、大自然族のいるエリアには人もモンスターも栄える。
「カシー。本当にこの規模で造るんですか?」
「そのつもりだよ? ウララの幸運を恵んで!」
「幸運は関係ない気がします」
パゾースの建造した高さ50メートルにもなる魔法の死獲銀柵は、最前線の街の約一割を仕切っていた。
始まりの街にあるジャンヌの放牧地よりも広い面積で、使わなかった爆薬で掘削しようと提案した私にお餅は乗り気だった。ウララは幸運値が高いので起爆役に任命された経緯がある。
「準備おけち」
「お餅のおけちが出たよ!」
「……起爆します」
ウララはランキング報酬の戯獲の短剣を魔改造した起爆スイッチをかちりと押した。
ドゴォオオオオオオオオオオオンッッ!!!
魔法の死獲銀柵が爆発威力を内側に封じる。
デビルシェイカーの滅輪と良質な火薬で製作された爆薬をヴァンパイア・ソリッドの破爪で強化しまくり、戯獲結晶で戯獲爆薬に変えたのが今回使用された爆薬。
クルヘエーグに使用された通常の爆薬とは比較にならない威力を発揮した。
「…………はぁ~、最高。爆発はロマンだよ」
「…………ぐっときた」
「どうかしています……4つでこの威力ですか」
200メートル四方の地面が綺麗に消し飛んでいた。
深さは約50メートル。
王獣クルヘエーグどころか王竜ヴァルハルリカすら捕らえられる。戯獲結晶4個は無駄じゃなかった! ウララとお餅の分はそれぞれで使うといいよと断ってランキング報酬で得た10個から捻出したんだ!
私とウララは10位以内で戯獲結晶10個。
お餅は百位以内で戯獲結晶5個だ。
戯獲の短剣は1000位以内の全プレイヤーが対象の報酬になる。
贅沢にも消費アイテムに使ったので、感慨深げになりながら巨人族に振り返る。
戯獲爆薬の威力に呆気に取られていて、爆薬を作ったパゾース本人も驚愕の表情だ。鉱山村では使ってなかったからね!
腰を抜かした死獲の魔女は私が睨むとセピュネの足にすがりつく。その首輪は戯獲爆薬と同じイベント性能だよ。【万物調教】でいつでも爆発させられる。
ログハウスを造ってくれた棟梁一家と大巨人族の村長にその場を任せると、スロープを地中に伸ばして地下空間の建造が始まった。
巨人族の戦いをクリアして好感度は高いし、建造するのは巨人族の住まう屋敷と宿になる。
「世界樹は屋敷内に植えるよね。屋根を突き出しても全然いいし」
「ダークエルフの暮らす屋敷になる」
「お餅は岩鉱郡に置いていきます。石切り班を作りますか」
「石売りを集めるべきだよね?」
採取補正のある石売りは採石場で輝ける存在だ。
ヴィシャのいた集落には2人、ワーゴンの村には3人いたので牛車に乗せて連れていく。1台に4頭を繋いだので速度を出せる。
ウララのテイムしたエレメントホースには漆黒の魔鎧を装備したワーゴンが乗っている。
ウララが強化を優先しているのはワーゴンだ。
死獲の魔鎧をワーゴン用に作り変え、死獲結晶を使って騎士装備一式を整えた。
死獲結晶は1000位以内だと10個。
戯獲の短剣と一緒に貰えるイベント報酬で、魔法の死獲銀柵にはふんだんに使われた。
戯獲結晶は大事に残しているけど、訳あってドワーフの目の前に吊り下げた。
「採石場の山がなくなるけどいいかな?」
「構わん。闇魔鉱しか採れぬ岩山じゃ」
それならと戯獲結晶を譲渡して、隕石製の石切り斧で平地に変えていく。
イベントビンゴの2周目で得られた激レア魔導書、【ミニスターエンジェル】は生産系のバフ魔法だ。
パーティー全体の移動速度と生産速度を引き上げる。
戦闘時には解除されるので戦闘以外に使える魔法だった。ドワーフの集落にはモンスターがポップしないので順調に進められる。モンスターは光魔鉱の採掘出来るエリアには寄ってこないらしい。
「夏休みもわずかだね、ウララ」
「ふふ……同じことを考えていました」
「その反応は照れるよ~っ!」
レイドイベントに魂を売った私たちは死獲の戯魂と死神の戯魂を持っている。
お餅は死王亡き戯杖だ。知力の天元突破しているお餅は魂が昇華して武器になった。知力900は1周回って馬鹿じゃないかと思える。
死王亡き戯杖はシャフト神話を築ける武器だ。
移動にかかるスタミナ半減と異次元のシャフト移動を得る。
ほぼ一瞬だ。
目にも止まらぬ速度で瞬間移動出来るぶっ壊れ性能のユニーク武器である。あれを装備すると大自然族は馬鹿になるよ。鉱脈に頭をぶつけて大ダメージを受けるという事故が多発する。
「あれ? ミスリルゴーレムがポップした!」
「お餅はいないはずですよね」
大自然族がシャフト移動すると採石場にミスリルゴーレムがポップする。
隆城岩鉱郡にはミスリルゴーレムのポップするエリアが多く、お餅はそのエリアを調べるために人生初のソロ攻略をしている。
ミスリルゴーレムのポップするエリアは闇魔鉱が豊富で、闇魔鉱の豊富な岩山は良質な石材が採れるポイントだ。パゾースのいた鉱山村もその1つになる。
「プレイヤー……じゃない?」
私は違和感を覚えながらミスリルゴーレムを倒した。




