第四話『サービス3日目』
私は諦めなかった。シャフトに可能性を見出したんだ。
牧草を切って、牧草を切って、モンスターを倒す。ジャックの放牧地はのどかだった。
ジャックの放牧地で倒せるのは殆どが小動物である。
時にはスライムが出現して、【パンチャーバレット】の餌食になる。
ポップ率はすこぶる悪いものの、レベル20のジャックシープに挑むのは無謀すぎる。
HPは脅威の四桁で【パンチャーバレット】では何時間かけても倒せない。
討伐にやってくるプレイヤーは多いし、横から経験値を掠め取るのはマナー違反。下手に攻撃を加えるよりは迷い込んだ小動物を倒す方が楽しい。たまに獲物を奪われる。
そんなこんなでシャフトを使いまくって、3日間でチュートリアルクエストをクリアした。
『チュートリアルクエスト「シャフト100キロ」をクリアしました』
『アイテム「グリーンポーション5個」を獲得しました』
『カシーはレベル9からレベル10に上がりました』
『チュートリアルクエスト「シャフト300キロ」を開始しますか?』
レベルアップで獲得したステータスポイントはたったの1。
ジャックの加護によるステータスポイント減少で、自然上昇した能力値の高さが浮き彫りとなった。
ここまで魔法とスキルを使いまくったので、MP、SP、敏捷がそれぞれ2ずつ上昇している。
ジャックの加護(小)とあって、テキストに書かれた文言は少ない。
しかしステータスポイントが貰えない分、行動によるステータス強化でやっていける。
「次は300キロだね~。大事な1ポイントはSPに入れておこうっと」
「カシーはレベル10に上がったんだね! おめでとう!」
「うん。ありがとう、ジャック。ジャックもレベル10までは上げないとね」
「一緒に頑張ろう!」
ジャックは昨日スライムを倒してレベル5に上がった。
レベル1のモンスターから得られる経験値は微々たるものなのでかなり倒し回った方だ。
スライム40匹と小動物を5、60匹は倒してレベル4からレベル5。
どれだけ倒しても自分のレベルは一向に上がらない。クエスト経験値に頼るしかないんだよね。
それでもジャックがパーティーメンバーにいるとシャフトの効果は倍増する。
消費SPが少ないのもジャックが同時発動して効果が重複するから。
通常の魔法やスキルでは起こりえない力がシャフトにはある。アバターの体格を度外視した能力値の検証とかやりがいはありそうだし、自然上昇するポイントの最大値も気になる。
何よりも牧草を伸ばすのが楽しい。
シャフトで牧草は伸びる。
ジャックのシャフトは効果範囲拡大なので、100往復もすると半径10メートルに背の高い牧草が生える。牧草の成長限界は最大4メートルだった。
「何処だあああ!! 何処にいやがるぅぅううッ!?」
牧草の生命力が上がったので、綿の木はバタバタと枯れている。
ゴボーラは夜な夜な放牧地に現れては牧草を刈り取っていく害悪と化した。私は関わらないことに決めたのでゴボーラが現れると荒野に出向いてせっせと緑地を広げる。スライムのリポップ率が高くなるんだよね。
「ん……? 鳥?」
「ギョアアアアアアッ!!!」
「ほげっ!?」
一瞬影が差して放牧地に振り返ると、松明を取り出したゴボーラが怪鳥に襲われた。
「放牧地を燃やす気だった? 強いモンスターみたいだよ」
「毒沼の主だよ! 願いの大地にやってきて草を刈り取っちゃうんだよね!」
「牧草を食べるのかな? 毒持ちのモンスターは私たちの天敵だよね~」
「天敵だよ! 近づくのは危ないからね!」
貧弱ステータスで毒は食らいたくない。
毒沼の主がゴボーラを毒沼で倒すのかを見極めるためにもなるべく近づく。
ゴボーラは不人気フィールドの願いの大地で酔狂にもレベリングしている生産プレイヤー。
街道にポップするランプウルフは荒野フィールドでよく見かける。
ランプウルフはレベル25だ。
願いの大地は序盤のフィールドでも適正レベルが高く、狩り場にするプレイヤーは数えるほどしかいない。武具に使えるアイテムが一つもドロップしないんだ。攻略に役立ちそうにないアイテムなので、ゴボーラを生産プレイヤーと判断した。
「ラピスワイバーン……! 擬態持ちとは聞いていたが!」
「ギョアアアアアッ!!」
遠目では分からないけど、とても善戦しているとは言い難い。
泥仕合になるのが一番嫌な展開だよね。
毒の範囲攻撃はなさそう。しかし毒々しいクリスタルを生やしたワイバーンなので要注意だ。
ゴボーラは警戒してひたすら逃げ回る。攻撃の隙はありそうだけど、時間稼ぎのつもりで戦っている?
「斧系はダメージ半減って勘弁してくれぇええええ!!」
「あぁ、そういうこと」
武器の相性が悪かったんだ。木こり殺しのモンスターかな?
ラピスワイバーンは牧草ロールを作り始めた。ゴボーラを倒してすぐだ。
豪快に牧草を刈り取って器用に丸めていくので、きっと器用が高いんだろうとぼんやりしながら眺める。
尻尾には毒クリスタルが枝葉のように生えていて間違いなく私たちにもダメージが入る。
レベル35だ。序盤のボスとは思えない。
毒沼のあるフィールドにいるらしいし、お帰り頂くまではジャックの放牧地を出ていく。
「牧草が伸びにくくなりそうだね~」
「ラピスワイバーンがやってきた後はそうだよ!」
「放牧地が広がると個体数が増えるの? そんなことないよね」
願いの大地を見渡す限りの草原にしようとするプレイヤーはまずいない。
大自然族だって普通は街を目指す。
状態によるシャフトの効果増大があるため、付与術師に転職するとそこそこ強いという。
まあジャックの加護がない場合の話だ。
傍から見ると強くなりようのないステータスで、アイテム所持上限が筋力依存のため、ろくにアイテムを持てないんだ。
アイテムを大量に持てないと大自然族は務まらないと言っていい。
パーティーの役割分担で大自然族のプレイヤーは全体の補助を担うらしく、インベントリの容量を開けておくことでパーティーに貢献し、アイテムの管理や道中の資金繰りに気を遣えると有難がられる。
大自然族が受けられるクエストはたかが知れているけどソロでも街中クエストでレベルを上げられる。スライムを倒してレベリングしようとする馬鹿はいないらしいね。
「あっ! 飛んでいくよ!」
「牧草を何に使うんだろうね。食べるのかな?」
「食べると思う!」
ラピスワイバーンは西に向かって飛び去った。街のある方角とは少しずれている。
『JCO』の情報を調べれば調べるほど広大なフィールドマップに驚かされる。
レイドマップと呼ばれるフィールドが数え切れないほどあって、攻略組の向かう先にはレイドボスが待ち構えている。ジャックに聞いても何も知らなさそうかな?
「願いの大地にやってきたモンスターで一番巨大だったのはラピスワイバーンなの?」
「違うよ! もっと大きな鳥を見たことある!」
「どんな特徴だった?」
「月明かりを何倍も明るくしたような光を翼の内側から放って虹色の羽根を落としていくんだよ! 翼が何重にも広がって光を放ったと思ったら消えるのさ!」
ラピスワイバーンよりも大きな鳥で虹色の羽根を持っているんだ? それも夜に出現する?
「何度見かけたの?」
「一度しか見たことないよー!」
ジャックの装備はその羽根で作ったんだね。靴下がカラフルだった!




