第三話『ジャックの放牧地』
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ジャックの放牧地には竜人族のプレイヤーが居座っていた。
「誰だろ?」
「何……? ジャックを引いたのか!? 何処の馬の骨だ!?」
蟻の視点で願いの大地に降り立った私は翡翠色の鱗をまじまじと見つめる。竜人族を選ぶとこんな変化が起こるの? もう少し試せば良かった!
キャラメイクから種族選択なので種族の特徴は後から現れる。自分の作ったアバターが大変身するのも『JCO』の面白さを際立てているらしい。特定のNPCをガチ攻略するプレイヤーだっている。
私が息を潜めるとジャックも息を潜める。
パーティーメンバーだし、行動ルーチンは合わせてくれる。
大自然族でレベリングするには、この竜人族を味方に付けるのが手っ取り早い。
「カシーです。八時の方向にいます」
「おおう! ジャックとちょめちょめしたんだな?」
「ジャックは男の子では?」
「いいや、俺は女の子だと信じている!!」
……通りで。
「カシー。カシーか……カレーでもいいか? 貴様にコードネームを与える! 今日からお邪魔カレーだ! 俺のジャックに薄汚れた手で触るな!!」
「えーっと、出来ればパーティーを組んで欲しいんだけど」
「いいだろう! お前がパーティーを抜けるのが条件だ!!」
すっげーお邪魔虫にされたよ。
「ジャックって名前からどう見ても男の子じゃん!?」
「黙れぇええ!! お邪魔カレー、貴様には失望したぞ!! 俺の天使がカレー如きに囚われてたまるか!! お邪魔カレーよ、貴様は俺に従うしかないんだ!!」
地面に向かって吠える変人をどうにか討伐して貰いたい。
「好感度下げたくないし退いてくれる?」
「な……! 俺は、俺は確かに羊に手を付けた! 仕方なかったんだ! そうでもしなければ……俺はジャックをもう一度殺してしまう!!」
「へー。で、邪魔なのはそっちだけど?」
「邪魔をしているのは……明らかに俺だが……笑止!! お邪魔カレーには致命的な弱点がある!!」
「ふーん。因みにどうやってジャックのことを知ったの? 私は偶然」
「珍しそうな種族を片っ端から試した! 弱点を承知で来たようだな! 愉快愉快!!」
顔を近づけてきてようやくPNが見えた。
ゴボーラ。
いかにも雑魚っぽいネーミングである。分かりやすいくらいの雑魚ムーブをかましている。
「それでパーティーは組むのか? 仕方ないから見逃してやるぞ」
「チュートリアルは?」
「あるよ!!」
ぽこんっと綿花が弾ける。
ゴボーラはその場に跪くと感涙を流した。
「おぉ……! 野に咲く一輪のジャックフラワー!! 守り続けた甲斐があった!! でかしたぞカシー!! これで貸し借りは」
「やめてぇっ!!」
私は声を張り上げた。人の尊厳を踏みにじる行為は断じて許さない!
「借りはなしだよ、ゴボーラ君。チュートリアルをしてからパーティーを組んでも遅くないよね?」
「馬鹿め。大自然族はチュートリアル種族だ。お前にはチュートリアルしか発生しないッ!!」
「ええっ!?」
クエストウィンドウがポップしてチュートリアルクエストの発生を告げる。
チュートリアルクエスト「シャフト100キロ」…………シャフトで100キロを移動しろと? 少なすぎるステータスポイントはMPと知力に振っちゃったんだけど!?
「グハハハハハッ! どうやら驚いているようだな!? そうだ、貴様に与えられたのはまごうことなき訓練メニューだ!! シャフトで100キロを熟してみろ! 次にはシャフト300キロが出てくるぞ!! 経験値を得るにはこの俺に従うしかないんだ!!」
「どや顔で言われてもなぁ。【パンチャーバレット】はどんな魔法なの?」
「何? 魔法持ちなのか? しかし貧弱ステータスではハエ叩きにもならないだろう!! グァーッハッハッハッハ!! グァーッハッハッハッハァーッ!!」
「……ジャック」
綿花を引き千切ったゴボーラが壮大に勝ち誇るのでぐっと堪える。
「大自然族の生み出したアイテムなんだね?」
「そうとも呼べる! 装備を作るには一スタック欲しいな!」
「タダとはいかないよ。まあ欲しいのは経験値になるね」
「貴様がいるとジャックに経験値が回らないだろう? そこで提案だ」
「まともな提案で頼むよ……」
チンピラゴボーラは考えを肉体に反映させるポージングでモンスターの異形を見せつける。竜人族と言っても頭にあるのは角ではなくヒレだ。鬼人族には角が生える。
「おこぼれはやろう!! パーティーは抜けろ!!」
ジャックに全力投球する構えのゴボーラに内心溜息を吐いた。
「ゴボーラ君はジャックを利用してアイテムをかき集めるためなら何でもやるんだね?」
「理解が早くて助かるな! 貴様はこの花に触れるな! ジャックが汚れる!!」
うーん。何か勘違いしていないか? あ、でも竜人族なのか……デメリットは加護を受けにくいことだからジャックの加護は効かないものと考えたらしい。
「検証なら手伝うよ」
パーティー申請を送ると、ゴボーラは指を震わせた。ジャックの加護は貰いたくないよね。
「ジャックは……ジャックは存在しない!! 存在してはならない!! では達者でな!」
結局、パーティーを拒否したゴボーラが放牧地を離れた。
「んー。羊は結構いるんだね」
「沢山いるよー!」
ゴボーラが羊を追っている間にジャックフラワーはぽこんと弾ける。
欲しいのはジャックの言霊で弾ける綿花で、綿を集めるために放牧地を狩場にしているプレイヤーだ。経験値も素材も独り占めするためにNPCを利用する。
「あそこまで言われて楽しくお喋りするのはね。牧草でも増やす?」
「大賛成だよ!」
「じゃあ牧草を伸ばそう! シャフトでいいの?」
「シャフトは土を耕すスキルだよ! 状態によって効果が変わるね! 僕だとこの通りさ!」
勢いよく綿花が弾けると、私でも収納可能なアイテムになった。ドロップアイテムは拾えるんだ!
状態。つまりはジャック・ザ・リッパーの呪いがこの綿を栽培している。
プレイヤー仕様と思しきジャックの加護も曰く付きだ。単純にステータスを激減させるデバフであれば解呪法を探すことも視野に入れるけど……これと言ってヒントはないよね。
「ジャックフラワーの綿。そのまんまなアイテムだね。ジャックにはここだ!って時に効果を与えられるんだ?」
「僕は空間に宿る大自然族だからね!」
場所に効果を与えている? シャフトで範囲指定するのがジャックの持ち味か~。
「私にも出来るようになるかな?」
「クエストを熟せば出来るようになるよ!」
「そう? でも使えるかどうか」
シャフトの消費SPは5。
私のSPは4だ。大自然族はシャフトなしでは移動出来ない。
救済措置に大自然装備があって、移動補正がかなりかかるらしい。SP消費も違ってくるかな?
「シャフト! おぉっ!」
発動した!
牧草を突き抜ける爽快感まで感じられて、数メートル先の茂みに埋もれながらシャフトを使う。
「目指せ100キロマラソン! あっ、SPが尽きた」
消費SPは2。シャフトを一回発動するとSPゲージが半分削れる。
SPの回復はすぐなので、一時間で十キロは進める。
チュートリアルクエストを終える頃には夏休みが終わっていそうな空模様だった。




