第二話『ジャック』
『JCO』の正式サービス開始から五時間後に私はようやくキャラメイクを終えた。
「か、貸しだなんて思わないからねっ! ……ヒャッハーはデレだった? 大自然族にツンデレがいたら仲良くなってみよう。願いの大地がツンデレの線も」
とりあえずプレイ方針を決めた。
PNはカシー。種族は大自然族。折角作ったアバターが消えるのも想定内だ。
下位の自然族だと半透明になって、物理ダメージ無効のアバターを得る。種族特性として文句のない強みを備えた種族が殆どだ。
大自然族の種族特性は物理、魔法ダメージ無効。状態異常は効果がある。
アバターはダメージを受けると姿が晒されるので、悪霊じみたことをすると誰かに攻撃を貰う羽目になる。
使えるコマンドは一つ。
大自然族になると獲得するシャフトというアクティブスキルだ。
移動もシャフトに頼りきりとなるため、パーティーを組むのは苦労するようだ。
大自然族のレベリングは困難を極める。
ステータスの上昇幅は全種族とも大きく変わらず、物理的に戦えない大自然族は完全なお荷物になる。それを承知でパーティーを組むのはよほどの物好きだ。
かろうじて判明しているスキルはどれも補助スキル。
しかし自然族でも獲得可能なため、召喚スキルがないものかと検証が進んでいるらしい。
「サービス開始初日でプレイヤーは多いよね。願いの大地周辺に散らばるみたいだけど……」
初期スポーン地点は種族で変わってくる。
人族や獣人族などは村や町で、魔族や竜人族は洞窟などに配置される。
自然族や大自然族は荒野の広がる願いの大地だ。大自然族は荒野の中央にリスポーンするので、他のプレイヤーが探索してくれないとかなり不便そう。真なら来てくれるよね!
アバターの生成に時間がかかるデメリットは、カシーという大自然族になるつもりの私には無問題。
キャラメイクと同時に決め台詞も作った。
透明アバターの大自然族なので決め台詞の方が光ってくるはず。状態異常は全力で回避だ。
「職業もあるんだよね。盗賊になりそうな農夫とかないかな。ないよね」
荒野スタートだから農夫は駄目だよね。魔法使い……いや。平凡な羊飼いにしよう!
「大自然族の武器持ちは意味が分からないし」
「遅れてドーン!! 君は大自然族を選んでくれたの!?」
「ぬわっ!?」
意味が分からないと唱えた途端にナビゲーションAIが壁に激突した。
「あっ、驚かせてごめん! 『ジャック・コマンド・オンライン』へようこそ! 僕はジャック!」
「……えっと、ジャック? ヘルプが勝手に開いたのかな……?」
「違うよ! 僕のことは願いの大地にいる大自然族の一人と思ってくれ!」
大自然族のNPCなんだ? 大自然族を選んだプレイヤーには突撃訪問する?
「でも実体があるよね」
「僕は特別だからね! この空間では自由に顕現出来るのさ!」
もこもこの衣装を着ながら空間に亀裂を走らせた謎の生命体が同族と知って不安がよぎる。羊飼いにしたのが不味かった? ジャックって羊飼いなんだ。
「他にも教えて」
「僕のこと? それとも大自然族のこと?」
「どっちも知りたいなぁ」
「いいよ! 大自然族は唯一無二の力に宿る稀有な存在なんだ。僕は空間に宿る大自然族とも言えるしそうじゃないとも言える。君の前だからこの姿で現れた! 力とは本当に不思議なんだよ!」
「なるほどー。この空間が願いの大地の近道になっているわけじゃないんだ?」
ジャックは遅れて理解したのかぽんと手を打った。
「近道じゃないよ! 面白いこと考えるんだね!」
「ジャックもシャフトしか持ってないの?」
「その通りさ! 君なら僕とパーティーを組めるよ!」
公式キャラとパーティー? イージーモードも甚だしいよね? もちろん組むよ!
ジャックとパーティーを組んだ結果、ステータスはランダムでこうなった。
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PN:カシー
種族:大自然族
職業:羊飼い
状態:ジャックの加護(小)
レベル:9
HP 3
MP 7
SP 4
筋力 1
敏捷 9
器用 7
耐久 8
知力 5
幸運 5
残存ステータスポイント 8
魔法 【パンチャーバレット】
スキル シャフト
装備 大自然の服 大自然のスカート 大自然の靴 大自然の帽子
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ちょっと待とうか……かーなーり、弱体化してない? ステータスポイントは200あったはずなんだけど!? 経験値に変わったの!? レベルアップ時の能力上昇でステータスを決められた!? 本末転倒じゃん!! これってジャックがパーティーにいると詰むよね?
ステータスが激減したのと引き換えにジャックの好感度が判明したのは朗報か。
ジャックの加護(小)だ。
明らかに意図的ですよと言わんばかりの調整が入ったのも加護の力が小さいからで、ジャックのご機嫌次第ではステータスポイントが戻ってくると思う。そうじゃないとおかしいよね?
「はっはっは。やるではないかジャック君」
「え? パーティーが嬉しかったの? カシーって言うんだね!」
「カシーだよ。よろしくね!」
もこもこの手と握手を交わして、ジャックのステータスを見せて貰う。
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NPCN:ジャック
種族:大自然族
職業:羊飼い
状態:ジャック・ザ・リッパーの呪い
レベル:4
HP 10
MP 2
SP 10
筋力 3
敏捷 8
器用 6
耐久 9
知力 7
幸運 4
魔法 【■■■■】
スキル シャフト
装備 ジャック・ザ・ウール ジャック・ザ・ホーン ジャック・ザ・ブーツ ジャック・ザ・グローブ
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豆の木がここまで伸びてプレイヤーの元に現れた……って、わけじゃなさそう。
ジャック・ザ・リッパーの呪い? 呪われた大自然族が願いの大地にいるってことだよね。ジャックだけなのかは分からないけど、大自然族で羊飼いのプレイヤーに発するべき警告かな?
「自分を含めてステータスを切り刻んでしまう呪いなの?」
「……そうだよ? カシーは驚かないの?」
不死身の大自然族に与えられるデスペナルティとは思うけどね。
「私は気にしないよ。ジャックは三つ子とか?」
「そうそう! 僕は五つ子なんだ!」
マジかい。枝豆ではなくいんげん豆だったと!
流石は大自然族。ジャックは成り立ちから大自然族に決まっている。ホラーはないよね?
「楽しいパーティーになりそうだね! 僕の放牧地に案内するよ!」
ステータスポイントを振り終えると、ジャックはフィールドに案内してくれた。




