第二十九話『垂界物』
上位隠し職業「垂界物」の職業補正でシャフトは壊れた。
「ピュアリザードの巣穴があるのかなぁ?」
「カシーはイベントガチ勢の標的になりますね」
ピュアリザードの異常発生でレアモンスターの垣根がなくなった。
通常ポップするピュアリザードを私とウララで倒して【ドミネートヒール】の魔導書を回収する。
死獲行列の動きに合わせて、私たちはピュアリザードの生息域を移動していた。
モンスターの大群が押し寄せる魔法都市から始まりの街がある東側に逸れることはまずないので、墳塞下流域の西側、死なずの大地を目指しながらレイドマップの外周を探索し始めた。
ウララパーティーにNPC二人が加わって、若干の戦力不足を補えたのは朗報と言える。
私にはサイクロンがいるけどパゾースの守りは薄いままだった。
いざという時はパゾースを連れて魔法都市に逃げて貰いたいので、パワーレベリングに一家言あるウララパーティーで鍛える。ウララも鬼じゃないので死獲行列に突撃したりしない。
「今日は徹夜コース?」
「鋭いね、お餅」
「死獲行列を拝んで終わりとはいきませんね」
「デビルシェイカーの滅輪でシェルターを作る。それかサイクロンの巣穴」
「仕方ないなぁ。玉座に座らせてあげるよ」
サイクロンを召喚してお餅を玉座に座らせた。【万物調教】で揺れないように命令しておく。
「お餅様です」
「この玉座を食べたい」
「駄目だよ~?」
甘い香りを醸し出さないように命令したくはない。モンスター寄せになるし。
「村や集落があっても壊滅は免れません。偵察に使えそうな巨大樹を探してみますか?」
「それがいいかな?」
「うん。徹夜で地盤を固める」
「お餅は大自然族だよ。私たちの力で巨大樹を更に大きくしよう!」
「カシーに任せる」
ということで、死なずの大地に向かう途中で拠点に使える巨大樹を探してみる。
「二人はこの辺りに詳しいですか?」
「あ、はい。それなりには」
「下流域には巨大樹がありますよね。魔法都市の南にありませんか?」
「この方角で合ってると思います……」
自信なさげに答えるので探索範囲を広げるとあっさりと見つかった。
「ガァアアアアアアアアアッ!!!」
「ドラゴン!? って、ヴァルハワームだ!?」
「誰かが倒し損ねましたか!」
巨大樹の真下に巣を作っていた竜化状態のヴァルハワームは体長10メートル弱のドラゴンだ。
討伐が失敗してHPは全快している。
モンスターの種類が変わることはなく、レベル120台のヴァルハワームだった。
防御力は下手すると王竜ヴァルハルリカを超える。
臨戦態勢で巣を守ろうとするので、回れ右して戦闘を避けた方が無難だ。
「倒す?」
「倒します。先に武器強化ですね」
「ここは私に任せて行って!」
ウララはピュアリザードの肉を取り出した私に溜息をもらした。
「調教しないでくださいね」
「分かってるよ」
【万物調教】でドラゴンの形にこねて、苦笑いを浮かべたウララと退却する。
「ドラゴンがいたよ」
「肉で遊ばない」
「怒ったお餅様も可愛い」
お餅に献上しようとした竜の万物像を引っ込める。
ウララはパゾースに髑髏の竜鞭を強化させたので、私はサイクロンを魔法の世界箱に格納して出発だ。
竜化状態で並の武器は弾く。
初手で魔法砲撃を行うと、ヴァルハワームはお返しに猛毒のブレスを放ってきた。
「三人は巣の裏側に!」
「はい!」
「「ああ!」」
「殆どの武器は効きませんね!」
私はムスペルシュートで祭壇の大斧を投擲してシャフトキックをぶつける。
エレメントブースターで連撃を与えると、ウララが髑髏の竜鞭でヴァルハワームの鱗を破壊した。
髑髏の竜鞭には【ドミネートヒール】の魔導書が使われ、パゾースの手によって部位破壊の効果は極まっている。薄紫のドラゴンは猛毒持ちだと予想して、ウララは嬉々としながらサブ武器を装備していた。
「ギャアアアアアアッ!!?」
ヴァルハワームはウララの攻撃で最大の武器を失っていく。
猛毒のブレスは確かに危険だ。
それでも本家の息吹とは比較にならない。王竜には吐息以下の威力だろう。
「攻撃が通るようになったよ!」
「特殊攻撃がないので戦いやすいですね!」
「ただのドラゴン?」
お餅は初陣がヴァルハルリカだったので、レベル125のドラゴンをただのドラゴンと言ってのけた。
攻撃の節々はラピスワイバーンの上位種で、竜化前に受けた武器を通さない鎧が厄介だ。
しかし竜化状態になると鎧は強化してこない。
防殻を脱ぎ捨てて巣に作り変えたヴァルハワームは特攻武器があると至極戦いやすくなった。
「テイムします?」
「え? サイクロン城の糧にするよ?」
サイクロンを育成して王竜を超えるんだよ。『サ学』の城下町はハードモードで動く。ウララはサイクロン城に隠された秘密に辿り着かなかったんだね。
私たちがドラゴンを倒している間にパゾースはドラゴンの巣を魔改造した。
魔法の世界箱で巨大樹の上に持ち上げて、直径五メートルの丸い展望デッキを設置する。コークスリザードの胆石は【火神鍛造】の良質な触媒で、最高品質の素材だと見栄えもすることから森林地帯の一部に溶け込んでいる。設置は私の【万物調教】でちょちょいのちょいだ。
「木をフラスコの形にしないと!」
「サイクロンの尻尾で望遠鏡を作れますよね」
「あれは飴細工だよ?」
サイクロンを召喚して尻尾の先端に望遠鏡を作れないか試してみる。出来た。
「お餅様。どうぞ」
「偵察は頼みました」
「死なずの大地に辿り着くのは夕方頃で……まだまだ遠い」
「魔法都市を過ぎた辺りかな?」
お餅は特等席から死獲行列を偵察する。
望遠鏡にもコークスリザードの胆石が使われて飴細工ではなくなった。パゾースの腕にかかれば竜の万物像を拠点の要にさせられる。
「捕捉した。五十キロ圏内。【クイックソナー】で届く」
「知力の高さですね」
「ん。500超えた」
知力極振りのお餅は中規模のマップを端から端まで索敵する。
【クイックソナー】の効果範囲が広すぎるので、探索中は【マジックサイト】で周辺の索敵を行っている。
「川を避けて通らないみたい。迎え撃つなら川岸になる?」
「到達位置を割り出せますか?」
「1キロ刻みであれば」
「パゾース。滅輪で即席の落下罠は作れる?」
「落下罠か。何とか作れるぞ」
デビルシェイカーの滅輪で落下罠は作れる。
死獲行列に挑むつもりなので、徹夜でデビルシェイカー狩りをする。デビルシェイカーはヴァルハコングと縄張りを二分している感じだ。下流域北部に広く生息する。
2度のヴァルハワーム討伐で、主戦力のウララはレベル85になった。
パーティーを解散した方が機動力は上がるものの、デビルシェイカーは性格の悪いプレイヤーの味方だ。低レベルのNPCを囲っているとポップしやすいため問答無用でフィールドの奥地に連れていった。




