第三十話『万シャフト計算方式』
私は万物シャフトで拠点の強化をしつつデビルシェイカーを倒して、死獲行列の移動ルートを解析するお餅をアシストする。
墳塞下流域の北西に流れる墳塞川が境界だ。
墳塞川はデビルシェイカーの生息する奈落に流れ出しており、奈落の上に暮らす竜人族は角ではなくヒレが発達している。悪魔族の集落は墳塞川の向こう側にあるとのこと。
死獲行列はファンタジーで定番中の定番、オークの大群だ。
王都センクシムの北、今回のイベントフィールドの一つとなるレイドマップにはオークの集落が点在する。
死獲行列は移動ルートをそちらに切り替えると推測している。墳塞下流域を通過して街道沿いに進軍することはない。死獲の魔王が束ねる軍隊ではないからだ。
魔族を選んだプレイヤーが魔王軍に加わろうとするのはイベント進行のため。
今回は誰もフラグを踏まなかったので、王都襲撃イベントに死獲の魔王は関わらない。
イベントフィールドの一つに死獲の魔王がいるので勇者を求める声は高かった。
「通過ポイントと大体の時刻は分かった」
「流石だよ」
「目印が二つあるから目測で分かる部分はある」
展望デッキを広々と使って徹底的に移動ルートを解析したお餅は1枚の地図を見せてくる。
情報収集したお餅の傍らで器用極振りのパゾースがヴァルハワームの記録竜皮に情報を焼き付けていった。そうして完成したのが死獲行列の進軍図だ。
「おお~! 分かりやすい地図だよ!」
「調べた甲斐があった」
私はお餅の見つけた巨大樹に向かって距離の測定に協力した。
私の位置座標を元に死獲行列の距離を計算したお餅だ。万シャフト計算方式を大いに役立てられたので満足している。パゾースが凄い!
パゾースは魔法都市の生まれで魔導師としての知識がある。
それに鉱山村では坑道の地図を描いたりする。地図製作スキルは習得間近だ。
器用とレア素材のゴリ押しで作られたイベントアイテム。
例え進軍ルートの一端でも価値のある情報だった。拠点から逸れているって情報だけでも有難い。
「罠はイベント期間に使うよね?」
「うん。ウララをランキング上位にランクインさせる」
「決まりだね! お餅は休んでて!」
お餅をログアウトさせた私は玉座に飛びついた。甘い! この玉座は食べ物だった!!
オークの大群は村や集落を襲ってその数を増やしながら墳塞川を二度越える。
街道に布陣していたプレイヤーたちが一斉に襲いかかった結果、死なずの大地でジィークの加護を獲得するNPCが現れる…………レイドイベントの隠しシナリオを発見した私は、隠しエリアが地上にないことをジャックに聞いて、高みの見物をするジィークに会う算段を立てていた。
ハンデイには悪いと思ったけど地中にはいない。
加護の大元であるジィークは死なずの大地の上空に隠しエリアを持つ。
エリア名はジィークの衛星地。
完全な推測だけど、フィールド情報に真っ向勝負を仕掛けると「宇宙空間から下りてくる隠しエリア」ではないかと疑っている。死なずの大地では単純明快、デス数がトリガーとなるはずだ。
死獲行列が死なずの大地に到達し、再び墳塞川を渡るまでが勝負となる。
そのために石火の魔箒を改造した。
夕方前には死なずの大地に行けるように、午後一番にログインして死獲行列を追跡する。
「無理を言って悪いね~」
「イベント進行のため。楽しければウェルカム!」
「ありがとう! 隠しエリアの出現方法は楽しくないけどね!」
「見つかってくれると数十倍は楽しいです」
ウララは毒耐性の熟練度を解放してしまった。
しかしジィークの加護には期待感を募らせている。この機会を逃す手はない。
死獲行列の進軍図を頼りに墳塞川を目指すと、土の盛り上がった川岸にレベル100のピュアリザードが待ち伏せていた。ピュアリザードは格下相手だと逃げないよね。
「地竜なのか!?」
「倒すよ! 鉢植えを落とさないでね!」
進軍ルートは適正レベル帯が変わるらしく、ピュアリザードはイベント仕様になってポップした。
私たちには美味しい獲物だ。
レベル50間隔で大型化するピュアリザードに前のめりとなるパゾースは、道中で分厚いステーキを焼いて料理スキルに目覚めた。魔導師の鑑だ。
パゾースは初期ジョブが鍛冶師で、魔術師を経てから魔導師になった。
魔術師の転職条件はレベル15、魔導師の転職条件はレベル35とテンポよく上位職に至れる。
魔法習得を促すための措置らしく、魔法使い派生だと武影の刀に転職しやすい。
ウララは職業補正を重視して盗賊派生で武影の刀になった。魔導師を経てしまうと上位職が2つになるので、補正効果は弱まるというのがプレイヤーの所感だ。
「ドロップは安定のお肉ですね!」
「竜肉を上回ってくるよ!」
「シェフに調理させなければ」
ピュアリザードの肉はサイクロンの胃袋に消える。テイムした時に調理したのもパゾースだ。
レア食材を豪快に使うので料理の腕前はメキメキ上達している。
「川はサイクロンに乗って渡るよね?」
「私は泳いでいきます」
「何か落ちてそう。少し調べてみる」
「じゃあ1人ずつ乗せていくかな」
私は朗々の竜箒を取り出してパゾースたちを対岸まで運んでいく。
騎士はハルエル、魔導師はセピュネ。
魔法雪原で助けてからウララがパーティーを組んで二人ともレベル50に上がった。
セピュネが【武具修復】を持っていて、遠征向きのパーティーメンバーだ。
「プライマリーセイバー!!」
「どうしたの!?」
お餅が川底から飛び出して溺れていたのですぐに助ける。
「大丈夫?」
「うん。ダイオウグソクムシがいた」
「あ、そうなんだ」
悪魔の巣窟なだけある。
プライマリーセイバーズという時代の最先端をいっていそうな名前のモンスターで見た目はあれ。
大自然族はこいつを見ると発狂する。いやまあ大自然族に限らないよね。
「レベル1であのサイズ。身震いがしてくる」
「レベル1だったんだ……」
「気合が足りなかった。次はいける」
「奈落には死んでもいかないよ」
墳塞川にいるってことは奈落にもいるんだろう。お餅は意外にも平気そうだ。
ウララは毒装備のお陰でプライマリーセイバーズは寄ってこない。プライマリーセイバーズと遭遇しないためには状態異常が有効だ。呪いでも効果てきめん。
ジャック付きの私が潜ってみると、プライマリーセイバーズは周囲一帯から消えた。
墳塞川は大河川だ。
しかも邪魔者のプライマリーセイバーズがいると拾い物は見つけられない。オークの大群が墳塞川で落としていったのは汚れだけだと思うけど……赤いダンゴムシ?
レベル20 プライマリーボンバーズ
プライマリーセイバーズの親戚か~。【万物調教】で捕まえてみよう。
『プライマリーボンバーズのテイムに成功しました』
『テイムモンスターの名前を決定してください』
それなら……救世主一号で。
川底を転がっていたプライマリーボンバーズを何となくテイムしたので適当である。
大きさは野球ボールで実に投げやすい形状。
ボンバーズだし爆発物だよね? 実験してみないことには分からない。




