第二十八話『サイクロン』
お餅の奇策で水風船のように破裂したヴァルハワームが雪原に光を散らせる。
「ホーンラビットで手こずった頃が懐かしいよ」
「私はプレイ5日目でドラゴンを倒した。討伐完了!」
「嘘はよくありません」
ヴァルハワームの宝玉を拾い上げたお餅にがばりと抱き着く。
「お餅の大勝利だよ! シャフトスタン!」
「だからジャックスタンだよっ! あれ、シャフトスタン!?」
ジャックはプレイヤーの味方なのでプレイヤーには攻撃しない。いいことを知った。
「竜になりかけだったみたい。竜化宝玉ってある」
「竜化宝玉ですか」
魔導書は見当たらなかった。
王竜関連のモンスターで、ドロップアイテムは数十とある。
竜皮と記録竜皮、竜骨までドロップした。
「ドラゴンだったんだね~」
「ドラゴンでしたね。竜鞭を強化するべきですか……イベント期間に出てきますよね」
「イベントモンスターとは別?」
「分かりません。武器を整えればこの三人で倒せます」
「ジャックとジャンヌを入れて五人」
鉢植え係を歴任してくれるパゾースを入れて6人だよね? 世界樹の苗は神アイテムだよ。
「イベントモンスターだとレベルがぽーんと上がるね! イベントムービーの余波かなぁ? 死獲行列が縦断してるんだよね?」
「最前線の街は滅びたようです。二人は何処から?」
「……魔法都市から来ました。モンスターの大群が城壁に押し寄せていて」
魔法雪原の端にある魔法都市からやってきたんだ。
小規模のマップなので方角さえ分かれば今日中に辿り着ける。
「場所はあっちだよね?」
「は、はい」
「行ってみますか」
魔法雪原は大自然族には不評のフィールドだ。
大自然族はフィールド環境を直に味わえるので、極寒の魔法雪原は氷耐性がないとキツい。シャフトで体を温められる私はレア食材のリトルシュリンプを捕まえながらジャックサイトでリトルシュリンプの生息地を探す。
レッサーデーモンは魔導書を3つドロップした。3つとも【マジックサイト】の魔導書だ。
私はジャックに【マジックサイト】を覚えさせていて、火神守護紋に使った魔導書はウララの取り分だった。パーティーを組まないわりにはドロップアイテムを均等にするので、火神守護紋の穴埋めにヴァルハワームの素材がウララに多く渡った。インベントリの空いた私は軽快なフットワークでレア食材を集める。
「カシー! この下に何かいるよ!」
「うん? なんだろ……うわあっ!?」
足元が盛り上がって玉座蠍亀が出てきた!? この玉座は一体……?
『上位隠し職業転職クエスト「魔法の垂界物」を開始しますか?』
アルティメットライズとジャックブースターで唐突に出現したクエストモンスターと対峙する。
ブラウニータートル・クイーン!? いやそれよりもクエストが発生した!?
「上位職業!? 早くない!?」
「クエストモンスターですか!? 玉座がありますよね!?」
「甘い玉座があるっ!」
甘い香りを醸す美麗なモンスターはどうも討伐するためのモンスターじゃない。
モンスターの調教?
レア食材はたんまりと集めたけど……レベル70で解放された上位職業だよね? レベル77のクエストモンスターは良心的だし、ブラウニータートル・クイーンは何というか華やかなモンスターだ。
豪華な玉座を乗せた体長3、4メートルの丸ごとスイーツな蠍亀。
きなこをまぶした黒糖鋏にピエロの靴でも履いたような脚を持つレアモンスターが他にいるだろうか? 尻尾はよく見ると花を敷き詰めた飴細工。
「……決めた! 仲良くなって貰う!!」
リトルシュリンプとピュアリザードの肉を取り出すと化け猫の頭がぬっと出てきた。
「にゃっ!」
「可愛い!」
キメラなの!? 目を細めるとコタツに入った猫にしか見えない!!
「ウララ、お餅。竜肉も上げていい?」
「いいですよ」
「そうして私たちはこの子の奴隷になる。なでなでしたい」
ヴァルハワームの竜肉で好感度を上げられたので、私たちは魔法都市とは反対方向に歩き出した。
「着いてきたね!」
「私たちは野営地に戻りますか。カシーは調教スキルを覚えることです」
「覚えるよ! サイクロンに寄りつくプレイヤーはウララが直々に成敗してくれる!」
「サイクロンに抱き着く。にゃっ」
お餅はサイクロンに吸い込まれていく。
揺れる黒糖鋏と揺れる玉座は魅力たっぷりで正に眼福だ。スイーツを食べたくなる。
唖然としながらサイクロンの魅力に憑りつかれたNPC3人を伴って墳塞下流域の野営地に戻ってくる。レッサーデーモンが執拗にサイクロンを狙ってくるのでレベルを上げるのはさほど苦労しなかった。
「よし覚えた! 餌付けしまくるよ!」
「私はサイクロンを崇める!」
「サイクロン呼びしないでください。もっといい名前があるはずです」
いやぁ、このボディーはサイクロンだよね? パフェの上に乗せてサイクロンパフェにしたいよ。
クエスト補正で調教スキルをもぎ取ったので、ピュアリザードを狩り尽くす勢いでレア食材を集めた。私にはドロップアイテムの品質向上があるのでピュアリザードの肉は分厚い!
パゾースにサイクロン用の餌入れを用意させて山盛りにレア食材を積んだ。
リトルシュリンプとピュアリザードの肉、それとヴァルハワームの竜肉のミックスだ。私たちは木の実で空腹度を満たせるので食べ応えのある食材を全てつぎ込んだ。
『ブラウニータートル・クイーンのテイムに成功しました』
『上位隠し職業転職クエスト「魔法の垂界物」をクリアしました』
『カシーは上位隠し職業「垂界物」に転職しました』
『水を湛えた噴水は語りかけてくる――――』
『アイテム「魔法の世界箱」を獲得しました』
『テイムモンスターの名前を決定してください』
垂界物……? 世界樹にまつわる上位職業、だよね?
調教と討伐で変わってくる。
私は調教を選んだので垂界物になったらしい。討伐すると戦闘職の魔界物になったのかな? 垂界物って魔法生物? 大自然族だとこうなるだけだよね?
「あ……生産職かも?」
「そうなんですか。魔法の獲得は?」
「あったよ。【万物調教】……魔王性能だ!?」
「魔王になった?」
転職時に獲得した魔法がなかなかえげつなかった。
【万物調教】……植物や動物、モンスターを自在に操る魔法だ。この魔法で世界樹の苗を増やせるし、モンスターを増殖させられる。発動してみるとダーウィンナッツの実が砕けた。
「リキャストタイムはないし……サイクロンにも効果があるね」
「えっ? カシーが動かしてる?」
「魔法効果がかかっています。思考操作ですか?」
【万物調教】をサイクロンに発動すると意のままに動かせた。
腕の動きに合わせてという簡単な命令だけど、好感度を得たジャックと同じでパスが繋がる。
黒糖鋏でシュシュッとパンチを繰り出せる。玉座に座って使いたくなる魔法だった! 魔王性能と言わずして何と呼ぶ!? 調教モンスターを増やすのに事欠かないよね……?
「専用アイテムで色々と仕舞えるみたいだよ。チュートリアルって大事だね~」
魔法の世界箱はボディーペイントだった。左腕に……左腕に付けるしかない!
【万物調教】はアイテムにも効果を及ぼして装備品の位置を自由に変えられた。エディター上で変わるのでとてつもなく強力な魔法だ。
「サイクロン、入ってみて」
「……消えちゃった」
魔法の世界箱にサイクロンを格納する。仕舞えたね。




