第十九話『お天道様が付いている』
開墾クエストは全プレイログを参照にして経験値を与えてくれる。
いつだってお天道様は味方なんだ。
伐採スキルと栽培スキルの2つを同時に獲得したので、ウララに着いて馬車で1日のシールヴァルに向かった。3人でジャンヌの放牧地をダーウィンナッツ農園にする。
お餅アバターはエルフになった。
偽エルフだけど聡明なお餅様を肌身で感じる。破壊不可二号はおっとり系美少女だ。
ジィーク・ジ・オリジナルの限界を見極める目的で髪色はツートン。瞳をオッドアイにしなかった理性を認めつつ大胆な衣装にうっとりする。目の保養になるなぁ。
私の装備よりも各段に優れた耐久と装備効果なので、このまま王都まで馬を走らせてデミゲートディアを倒したくなる。シャフトラインドレスがただの古着に見えるってどういうこと?
お餅衣装には装備条件に知力150があるので、私では装備出来ないと泣く泣く諦めたがずるいものはずるい。内に秘めた賢さで完全敗北しているのかな……? 電光の魔杖を持たせても似合いそう。
「お三方。少し問題が発生しました」
「ん? どうしたの?」
「土砂が道を塞いでおりまして」
御者が馬車を停めたので、お餅は【クイックソナー】で周囲を調べる。
「強い反応が1つある」
「盗賊ではなさそうですか。王竜の縄張りなので気がかりではありますが」
「縄張りってレイドマップじゃないの?」
「アクティブモンスターなので街道を移動していると襲ってきます」
南方の王竜。
遥か昔、王都センクシムを半壊させたのも地上の魔王ではなく天空の王竜だった。
お餅の索敵範囲にかかったのなら地上付近を飛んでいる。
「土砂崩れを起こしたのも王竜ヴァルハルリカかもしれません」
「街道に爪痕を残す悪魔だ……こっちに下りてくる!!」
と、御者は慌てた様子で馬車を反転させて一目散に逃げていった。中継地点の村に戻るのか~。
「可愛い名前だよね?」
「ドラゴン見てみたい」
「私も遭遇するのは初めてです」
ふと影が差して街道を阻むように舞い降りたピンクの巨竜が興味深そうに首を伸ばす。
体長は50メートル超。
瞳や爪は磨かれた黒曜石の如く輝いている。誉め言葉は一瞬で思い浮かんだ。
「美しき天女に相応しい瞳と爪ですね。王竜ヴァルハルリカ様」
ダメ元でお辞儀してみる。褒めちぎって下手に回って何としても通過しよう。
「貴女様のお気を煩わせたことをお詫びします。優しげな瞳にいかばかりの心労があるのかこの身では到底計り知れません。ご無礼でなければお声をお聞かせ願えませんか?」
さてこのドラゴンは話せるのか……? 首を持ち上げて咆哮モーションを取って……不味いけど耳を塞ぐと好感度が下がる。明らかに視線はこちらを捉えている。
『Quooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!!!!』
雲を貫いた灼熱の息吹で目を焼かれそうになる。
熱い。湧き上がるような豪熱だ。蓋をしていた感情に答えられた時の勝ち誇った笑みがちらつく。
「貴女様は天空の花園に咲き誇る太陽の王冠を被りたいのですか。見つめ合って心を通わせる形なき豊穣、無形の愛を捧げるのは乙女の証。戦いの火蓋ではなく、その美しさに世界が争います」
ふんすと鼻を鳴らして聞き入る態勢を取る。ブレスを吹いて疲れたのかな?
2人には目配せしてここは任せて貰う。近くで見るとまつ毛が長いよ、このドラゴン。可愛い。
「貴女様に髑髏宮は似合いません。貴女様に相応しいのは雅な世界を山ほど詰めた宮殿です。皆がこう言います。貴女様は力に魅入られた王竜なのだと。しかし貴方様は美しい。その美しさを人々は畏れて貴女様のために争うのです。天空の花園から降り注いだ光が貴女様を照らします。貴女様だけを照らし出して柔らかな花弁が貴方様に纏わりつくと太陽の王冠となります」
すーっと、腕の鱗を撫でて様子を伺う。尻尾が動いても攻撃の素振りはない。
「輝きが増すほどに太陽の王冠は貴方様を絶世の美女に変え、その美しさは不動のものとなって世界に轟いていきます。貴女様は美しくないものに寄りつかず、美しき世界にのみ君臨することで王竜と、王竜ヴァルハルリカと人は呼びます。貴女様は美しく散る命に魅入られず、美しくある命を豊穣と知りながら瞼を閉じます」
……瞼を閉じた。催眠術ってこんな感じ? もう少し近づいてみよう。
そして私は思いっきりまつ毛を切り裂いた。
『Quoaaaaaaaaaaaaaa!!!?』
「カシー!? 喧嘩を売ったぁ!?」
「逃げるよ!! 猛ダッシュ!! まつ毛は回収した!!」
「やるとは思いませんでした!!」
凄いね、祭壇の大斧。まつ毛全部切れちゃったよ。出発前に研いでおいて良かった。
王竜ヴァルハルリカ、レベル800。
まつ毛が弱点のドラゴンだ。片方が全損して悲痛そうに悶えている。
「美しく散る世界へようこそ」
にっこりと笑顔を貼り付けて桁違いの体力が一パーセント削れたことに追い風を吹かせる。
抜群の飛翔力を与えるアルティメットライズで崖上から飛びかかり、ジャックのエレメントブースターで弱点部位の瞳にフルスイング。
『Quaaaaaaaaaa!!!』
「斧は上げるよ」
咢を大きく開いて食らい付いたヴァルハルリカに祭壇の大斧を差し出して牙の間をすり抜ける。
「【キリングエッジ】!!」
『Quoaaa!!?』
「ふぉおおおっ!! 2本も切れた!! 続けてムスペルシュート!!」
『Qiaaaaaaaaa!?!』
吐き出した祭壇の大斧を掴んですぐにぶん投げる。狙い通りに顔の側面を掠めて全損だ。
ヴァルハルリカが後退って爪の隙間から憎悪の瞳を覗かせる。
残り九十八パーセントを硬質な鱗にアタックして削り取れというのは無茶な話だ。弱点がないものかと観察しているとヴァルハルリカは目くらましに岩を投げ飛ばしてくる。
『Quooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!!!!』
「ホーミングなし? 効果範囲がえげつないけど」
灼熱の息吹で街道は真っ赤に染まった。
これでは足の踏み場もない。逃げた馬車は消し飛んでいる。
火の海と化した街道には振り返らず鉱山へと向かう。
二人とはぐれてもお餅の【クイックソナー】がある。それに斬撃音が尾びれに聞こえた。
ウララは加勢してくれる。
お餅は攻撃手段がないので援護は限られる。【クイックソナー】で注意を引けると御の字。
「王竜が舞い降りた!! かかれぇええええっ!!」
「おおっ、増援!?」
「増援だ!! やってやろうぜ!!」
鉱山から現れたプレイヤーたちがヴァルハルリカへと果敢に挑んでいく。
弓使いに魔術師。前衛職や遊撃の姿もある。
中空に飛翔したヴァルハルリカが灼熱の息吹を放った直後、私は全力でシャフト移動を行って炎から逃れる。地形を利用してヴァルハルリカを翻弄するのは難易度が高い。ブレスが放たれるたびに回避ルートは徐々に狭まる。
「上空に向かったぞ!!」
「岩を落とすつもりか!?」
息を潜めていると高高度まで飛翔したヴァルハルリカは掴んだ岩を砕いて隕石群を形成した。芸達者ではないのか魔法は使わない……力技で隕石を降らせてくる。
「やっば」
「い、隕石だぁあああああッ!!」
「「ぎゃあああっ!?」」
街道に下りていく3人のプレイヤーは隕石群の直撃でクレーターの一部と化した。
攻撃範囲は半径100メートル。
周囲はもれなく火の海と化すのでいかに大自然族でもスリップダメージでやられる。戦場から離れても地の果てまで追ってきそうかな……倒せる見込みはないので隠れられる洞窟を探してみる。
「洞窟だ! って、ブレスが来てる!!」
『Qaooooooooooooooooooooooooooooo!!!!!』
間一髪のところで範囲外に逃れた私は鉱山村に続いている峠道を見据える。
シールヴァルから鉱山村までは半日の距離だ。




