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隠密ジョブのメレンゲレンジ  作者: タ別


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第十六話『ウララスプーン』




 そうして破壊不可オブジェクトとなった私は真とみりあを自宅に呼んで作戦会議をしていた。


「シャトル長者です。『サ学』はもうしばらく借りておきます。それにしてもSF武器ですか」


「イベントアイテムとは直接関係なさそうだけど鬼つよ武器だよ。始まりの街で屋敷暮らしは捨てがたい。みりあにもこもこのパジャマを着せたいなぁ」


「それはクリスマスまでお預け」


 みりあはついにVRマシンを買って『JCO』を予約した。

 真は『JCO』の合間に『サ学』をプレイしてノーマルモードで挫折したらしい。いや、ノーマルモードはクリアしようよ。イージーモードってストーリーを把握するためのものじゃん?


「魔女になるには大自然族しかない?」


「ハオーラは人族だよ。チュートリアルに類するクエスト……ギルドクエストのフルコンプで開けるかな?」


「ギルドクエストはクリア判定があります。所謂RTAです」


「RTA。私には難しい」


 ジャックの加護を高めるには純然たる呪い耐性が必要だ。

 魔女、または華人に転職することでジャックの加護(中)の条件を満たせる。


「レイドイベントに参加するなら気に入った種族でいいと思うよ?」


「大自然ガチャを回すべし」


「そっか。一時間で切り上げてね?」


「半日はガチャる」


 そっか……みりあはレベルガチャに魂を売るらしい。


「確か能力値は自然上昇分が参照だよ。レベル一桁だと5か6なんだよね」


「その辺りは全種族変わりません。だからこそ加護の力は大きいです」


「レベル2桁では?」


「6か7の上昇値だよ。大自然ガチャで最大レベルは9かな?」


「それ以上は考えにくいです」


 ジャックとパーティーを組むとレベルがランダムで決まって魔法かスキルを1つ習得する。

 レベルは1桁。検証はされていて、レベル10以上は現れない。

 となると、レベル9で最大のステータスを得るほかない。私はなんと最低値だった。


「プレイログ参照だから最低値しか出てこないかも」


「目標はレベル9。それと攻撃魔法?」


「MP、SP、敏捷、可能なら知力も高めがいいかなぁ。1桁の争いだよ」


「不遇です」


 真はそう言い切る。私ももう1度やれと言われたら断るね。


「うん。オススメはしないよ。訓練コスは何がいい? サンタ?」


「栗色の団子パジャマで」


「トナカイですか。デミゲートディアの毛皮で作れます」


「持ってきて~」


 真ことウララスプーンは王都センクシムを離れて始まりの街で私たちと合流する予定。

 デミゲートディアは王都西の街道にポップするレアモンスターで、短冊状の角が大魔導師の好感度上げに使える。センクシムの三大魔導師を囲うクランも出てきて簡単には近づけなくなったという。


「王都から来てくれるって何かいい」


「いいよね~! 『JCO』が楽しくなってきた!」


「大魔導師の1人攫えれば良かったです」


 ウララスプーンは初期ジョブが盗賊、1次ジョブが暗殺者、2次ジョブが武影の刀(サムライ)だ。女侍になりたい志で生きているゲーマーでプレイスタイルは攻略一辺倒。刀を得るまで本当に回り道しなかった。


 武影の刀は魔法の融合で【武器召喚(サモンウェポン)】を獲得すると解放される上位職業で、【武器召喚】に必要な魔法はバレット、アロー、ジャベリンのいずれか二つ。熟練度は合計値で300。

 魔法系物理職で説明書に載っているくらいポピュラーだ。

 【武器召喚】で召喚される刀の種類は融合させた魔法で決まるので、大太刀が欲しかったウララスプーンはジャベリン2つを融合。既に【武器召喚】の熟練度は解放済みと聞いている。






「着きました」


「ウララスプーン! 会えて嬉しいよ~!」


 『JCO』内で会えた人生最高の友人は刀4本を携えて始まりの街に現れた。

 曇りのないシンプルな隠密装備に身を包んだサムライエルフだ。

 フレンド登録を飛ばすと承諾されてレベルが判明した。レベル68。序盤で躓かなかった完璧超人のレベルだ。ラピスワイバーンを片手間に倒せるよね?


 王都から始まりの街まで頑張れば3日で来れると言ってその通りにやってきた攻略組だ。

 チュートリアルは不要だろうなと心の底から思う。


「何か飲む? 屋敷の海水ティーより数十倍は美味しいよ?」


「私も紅茶で。チョコレートですか」


「そう! お店にパティシエがいてさ~!」


 メイド屋敷のテラスで待っていた私は準備した茶菓子でウララスプーンをもてなす。

 全種族の可愛いメイドを取り揃えた喫茶店で、プレイヤーがパーティーに引き込もうと躍起になり、屋敷内の個室は常時満員状態だ。テラス席は空いていて美味しい紅茶が飲める。


「ドーナツは持って帰るといいよ。バフアイテムだし」


「このチョコレートフォンデュは?」


「レイキーアの趣味。マシュマロは最高品質のスライムの核で作ってあります」


「美味しそうです。有難く頂きます」


 生産プレイヤーが入り浸るので必然的に高品質の食材が集まる。

 スイーツ開拓の最前線だ。

 ショートケーキ用の苺が大量に納品されていたり、マシュマロ作りに生涯をかけるパティシエがいる。


「ブラウニータートルの欠片は低品質だとすかすからしくてさ。職業補正が活きてくるんだよね」


「職業補正は上位職に組み込まれます」


「遊牧民に上があるとはね。上級市民だっけ?」


「上級市民です」


 初期ジョブや1次ジョブの職業補正は据え置きとなる。

 私は羊飼いの職業補正、ドロップアイテムの品質向上がくっ付いて魔女になった。

 ウララスプーンは盗賊の職業補正、レアドロップの確率上昇と暗殺者の職業補正、クリティカルダメージの倍率上昇を有する武影の刀。上位職に分岐するルートは他にも無数にあるので、同じ武影の刀でも盗賊と暗殺者の職業補正を持たないプレイヤーがいる。


 羊飼いは1次ジョブが遊牧民、2次ジョブが上級市民になる。

 通常ルートだと上級市民になって、優雅にティータイムとしゃれこむものだ。


「生産職だと石売りがいいみたいですね。採取アイテムの品質向上です」

 

「採取スキルは取るべきかな?」


「私も持っていません。牧草を刈り取るんですか?」


「木を移植させたいんだよ。メイド目当てに通うしかない。大自然族のメイドもいるらしいんだよね」


「……カシーと同類ですか」


 ウララスプーンは私を見て目を細める。

 私はジィーク・ジ・オリジナルで本来のアバターを取り戻した。探してみると、大自然族のNPCにも透明人間を脱却した存在がいる。この喫茶店でメイドをする誰かだ。


「まあ検討は付いてるよ。お店に耳の短いエルフがいるんだよ。仲良くなりたいなぁ」


「上級市民で街中にいると経験値が貰えるから強いですよね」


「そうかも? 階級制度に忠実なNPCか、上級市民の派生もありそうだよね」


「忠義や忠誠ですか。屋敷の主は誰なんですか?」


「まだ調べてないよ」


 目的のNPCが屋敷の主だと動かすのは難しくなる。

 ハオーラの屋敷と異なり、ここでは喫茶店を開いている。あの手この手でやるしかない。それなら採取スキルを取ってなんちゃって農業をする。


「チョコレートに使ったナッツの木なんだよね」


「墳塞下流域によくある木の実です」


「あ。そうなんだ! 巨大な骨はあったりする?」


「巨大な骨はないです」


「レベル500のバロックラットが頭に乗せていそうな大きさなんだよ」


「そんなもの何に使うんですか?」


 使えるよね? 肥料にするしか思いつかないけど。


 墳塞下流域は第一のレイドマップで、レイドイベントの中心地と目されている。

 マップ全域に生息するコークスリザードの胆石は低品質だと石炭になるため、王都を拠点とするプレイヤーは新たな移動手段を開発中。生産プレイヤーが集まると色んなアイディアが飛び交う。





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