三 血筋を記す貴族院
「お父様。家を継ぐのは、長男のお兄様なの?」
「通常はそうだ。だが、家を継ぐ者は、ただ長男であればよいというものではない」
エドガーは本を閉じ、今度は別の書類を取り出した。
そこには、貴族の家名と当主の名が記されていた。
「王国には貴族院という機関がある。貴族の血筋や爵位、領地の継承を記録し、確認する役目を担っている」
「貴族の名前を記録するの?」
「名前だけではない。どの家の血筋を受け継いでいるのか、誰が正当な後継者なのかを確認するのだ」
エドガーは、書類の端にある紋章を指さした。
「貴族の血筋は貴族院に登録されている。当主が代わるときには、必ず血筋の確認を受けなければならない」
「どうして、そんなことをするの?」
「家の名や爵位を不正に奪う者が現れないようにするためだ。血筋を偽って領地や権利を得ようとする者がいれば、国の秩序が乱れる」
「では、子供がいない家はどうするの?」
「養子を迎えることもある。ただし、王国では養子が以前の家名をそのまま受け継ぐことはできない」
アリアは不思議そうに首を傾げた。
「家の名前を変えるの?」
「そうだ。養子を迎えて家を継がせる場合は、新しい家名を定め、新たな血筋として貴族院に登録する」
「血筋が変わるの?」
「血のつながりが生まれるわけではない。しかし、家を継ぐ者として新たな家系が始まる。そのため、貴族院は新しい家の由来と継承の正当性を厳しく調べる」
エドガーは、少し間を置いて続けた。
「新たに登録された家系は、三代にわたって特に厳しい監視を受ける。領地の管理や家の責務を果たしているか、不正がないか、継承に問題がないかを確認されるのだ」
「三代も?」
「家を継ぐということは、名前を受け取るだけではない。土地と人々、そして責任を引き受けることだからな」
アリアは、父の書類を見つめた。
「では、貴族なら、ずっと貴族でいられるの?」
エドガーは首を横に振った。
「そうとは限らない」
その声は、先ほどよりも厳しかった。
「貴族には領地を治め、人々を守り、国の務めを果たす責任がある。家の者がその能力を失い、領地を荒廃させ、責務を果たせないと判断されれば、貴族院や王国の審査によって爵位や領地、貴族籍を失うこともある」
「貴族なのに?」
「貴族であることは、何をしても許されるという意味ではない」
エドガーは、窓の外に目を向けた。
「この国では、家柄だけで人々の上に立つことは認められない。受け継いだものに見合う働きをしなければならないのだ」
アリアは、父の言葉を静かに聞いていた。
貴族というものは、もっと特別で、何でも思いどおりにできる人たちなのだと思っていた。
けれど、実際には大きな責任を背負い、能力を失えばその地位を失うこともある。
「お父様も、ずっと頑張らないといけないのね」
「そうだな」
エドガーは微笑んだ。
「だから、私も学び続けている」




