第四章 古き家系の誇り ― 八つの誓約、受け継がれる血脈
一 銀の狼が見守る家
朝の光が、ヴァルデン家の古い屋敷を包んでいた。
北の山々には、夜の名残のような霧が漂い、深い森からは小鳥の声が聞こえてくる。
屋敷の中庭では、庭師が冬に備えて草木の手入れをしていた。石畳の隙間には小さな草花が顔を出し、朝露をまとった葉が風に揺れている。
アリアは、ミーナとともに中庭を歩いていた。
七歳になったばかりの小さな令嬢は、今日はいつもより少しだけ機嫌がよかった。昨日、ローレンツから領地の地図を見せてもらったことが、まだ心に残っていたのである。
「ミーナ、あの旗に描かれている狼は、どうして山を駆けているの?」
アリアが指さしたのは、屋敷の塔に掲げられた深緑色の旗だった。
銀色の狼が、険しい山を駆け上がっている。
それはヴァルデン家の紋章である。
「ヴァルデン家の古い紋章でございます。銀の狼は、仲間と助け合いながら生きる強さを表していると伝えられております」
「狼は一匹では暮らさないの?」
「狼は群れで暮らし、互いに助け合って獲物を追い、幼いものを守ると聞いております。山の厳しい冬を越えるには、仲間の力が必要なのです」
アリアは、旗を見上げた。
「お父様も、みんなを守っているのね」
「はい。旦那様は、この領地とそこに暮らす人々を守るお役目を担っておられます」
「お父様のお仕事は、村の人たちを守ること?」
「それだけではございません。北の国境を守ることも、ヴァルデン家の大切な責務でございます」
「国境?」
「この山々の向こうには、王国の外に広がる土地がございます。そこから危険が及ばぬよう、砦や兵士を置き、道を整え、見張りを続けているのです」
アリアは、遠くの山を眺めた。
その向こうに何があるのか、今はまだ知らない。
けれど、父が毎日忙しくしている理由の一つが、そこにあるのだと分かった。
「この家は、ずっと昔から国境を守っているの?」
「はい。ヴァルデン家は、王国が建国された時代から続く古い家系でございます」
ミーナの声には、誇りと敬意が込められていた。
「八つの辺境伯家の一つとして、代々その務めを受け継いでまいりました」
「八つもあるの?」
「はい。王国の各地の国境を守るため、八つの家がございます。どの家も建国の時代から続く古い血筋を持ち、王家とともに国を守る誓いを結んだ家なのです」
アリアは、少し驚いた顔をした。
「王様のお家と、同じくらい古いの?」
「そうでございます。王家と八つの辺境伯家は、建国の誓いによって結ばれた家々なのです」
その言葉は、幼いアリアの胸に、まだ形の定まらない不思議な重みを残した。




