ep8〜お義兄様と花〜
第八話投稿です。
お義兄様への気持ちに気付き、結婚すると決めた翌日の朝。
わたくしとお義兄様はさっそくお養父様とお養母様へ報告をした。
「父上、母上。ご報告があります」
「ん?なんだ?」
とてもではないがお養父様達の顔が見れない。
『もし反対されたらどうしよう』という不安が払拭できないから。
だって今まで10年間もの間わたくしとお義兄様は『兄妹』として育ってきたわけで。
お養父様たちだってきっと『仲の良い兄妹』として育ててきたはず。
そんな息子と養女が結婚するだなんて。
もしかしたらショックで倒れてしまうかもしれない…。
もしかしたら『息子を誑かした女など今すぐに出ていけ』と言われてしまうかもしれない…。
それが、怖い。
わたくしは無意識に手をぎゅっと強く握りしめてしまう。
するとお義兄様がそっと優しくわたくしの拳をゆっくりとき解してくださった。
「大丈夫だよエリファ。心配しないで?」
「ええ…」
わたくしの肩を抱き、お義兄様は背筋を伸ばした。
「エリファに結婚を申し込み、受け入れてもらいました。父上には以前許可をいただいていましたので、『報告』という形をとらせて頂きます」
「おお!ついにか!よかったなノア。10年間よく頑張ったな」
「やっと受け入れて貰えたのねぇ。エリファ、これから『花』同士頑張りましょうね?」
え?今10年と仰った?
10年って、わたくしが養女になった頃よね?
お義兄様、そんな最初からわたくしのことを…?
嬉しいのだけれど、ではもう初めからわたくしはお義兄様のお嫁さんになる予定だったのかしら?
ええ?
それに『花同士』とは?わたくしお花なの?
確かに昔はローズだったけれど…
どういうこと?
あまりにも混乱しすぎて頭から煙がでそう。
お義兄様が肩を抱いておいてくださってよかった。
こうして支えられていなかったらきっとわたくしは今頃倒れていた。
「ふふ、ごめんねエリファ。混乱してるよね。実はちょっと色々事情があって、かなり前から父上には結婚の許可は貰っていたんだ」
「そ、そうなのね…わたくし、お義兄様がそんな昔からわたくしのことを愛してくださっていたなんて知らなかったわ…あと、『花同士』とはどういう意味かしら?」
「まぁエリファが恋愛に疎くなったのは100%私のせいだから気にしないで。『花』についてはまた帰ってきてから話そう。その方がゆっくり話せるからね」
「そうなのね…わかったわ」
きちんと話してくれるようでよかった。
お義兄様は必ず約束を守ってくれる。だから安心して今夜を待とうーーー
◇
「あー、ユリシス嬢。少しいいか?」
魔法生物学の授業終わり、トーリ先生に呼び止められた。
「はい、なんでしょうか?」
「いや、昨日はすまなかった。ユリシス嬢も驚いていたようだったからな。迂闊な行動をしてしまったことを謝罪したい」
トーリ先生はそう言って頭を下げた。
律儀な方なのねと内心思いながら、くすっと笑う。
「わたくしの方こそもっと危険性を説くべきでしたわ。でも、トーリ先生の誠意は受け取らせていただきます。もうお気になさらないで?」
「ありがとう、ユリシス嬢。私はどうにも魔法生物をみると我を忘れてしまうようでね…困った性格だ」
「まぁ、夢中になれることがあるって素敵なことですわ!そんなトーリ先生だからこそその若さで学院のクラス担任まで任されているのでしょう?素晴らしいことですわ」
「…そうだろうか」
「ええ。それに大人になると年若い者への謝罪なんてできない方が多いと聞きます。でもトーリ先生はわたくしなんかに謝ってくださった。わたくし、そんな先生の生徒でいれて光栄ですわ」
「……そうか」
トーリ先生は少し目を伏せたあと、小さく笑みを浮かべた。
それはなんだかとても不器用ながらも優しい笑みに見えた。
「ふふ。先生の笑顔、素敵ですわね。滅多に見れなさそうなので、ちょっと得した気分ですわ」
「ふ、私の笑顔は高いからな」
「あら、お金を払えば笑ってくれますの?」
「いや…君になら…んんっ、生徒になら無料だ」
「まぁ、それは大盤振る舞いだわ。…あ、そろそろ行かないと。それではトーリ先生。また後ほど」
「ああ…」
わたくしは小さくカーテシーをして、次の学科の教室へと向かった。
わたくしの後ろ姿を見つめるトーリ先生の視線には、ついぞ気付かないままーーー
◇
東校舎三階 三年Sクラスにてーー
「…はぁ。まったく。私のエリファは無自覚すぎるね」
「なんだノア、また覗きか?」
「煩いジーク。これは『覗き』ではなく『見守り』だよ。エリファも承知の上でだし」
「はぁ〜。お前は本当昔からエリファの事しか考えてないよな。結婚式は呼べよ?幼馴染代表として盛大に祝ってやる!」
「結婚式には呼んでやらないけど、今度エリファがお茶会をしたがっているんだ。それになら呼んでやってもいい」
「へぇ。エリファの茶会なんて初めてだろ?そりゃ張り切って土産を持っていかないとだな」
「ああ、4人で頼むよ。エリファの初めての友人を呼ぶんだ」
「へぇ。じゃあお前の事前審査を通った上でエリファに選ばれたんだな。その令嬢は」
「まぁそういうことになるね」
「それは楽しみだ!どこの家の令嬢だ?」
「メルバ伯爵のとこの次女だよ」
「ほう。メルバか。あそこは研究馬鹿が多いが黒い噂も一つもない家だったな。いい人選だ」
「だろう?あとジークが好きそうなタイプだったよ」
「俺が?」
「気を許すと口調が砕けるタイプ。好きだろ?そういうの」
「……ふぅん?」
「まぁ会ってみて良さそうだったら頑張りなよ。エリファも喜ぶ」
「そうしよう。茶会の楽しみが増えたな」
「そうだねーーー」
◇
2日目の授業も無事終わり、お義兄様と帰宅後。
わたくしたちはサロンでゆったりとアフタヌーンティーを楽しんでいた。
出されたお茶は美しい青色をしていて、本当にお茶なのか疑ってしまう。
眉間に皺を寄せながら見ていると、『可愛いお顔が台無しだよ』と言って皺の寄ったそこをつんと突かれた。
好きな殿方に『可愛い』と言われるのは嬉しいけど少し面映いものなのね。
顔が赤くなってしまったわ。
そんなわたくしを見ながらお義兄様はくすりと笑って『面白いものを見せてあげる』と言い、その真っ青なお茶にレモンの果汁を垂らした。
すると先程まで鮮やかな青だったそれが、みるみるうちに紫からピンク、そして赤に変色した。
「まぁ…!すごいわ!魔法みたい!これは飲んでも大丈夫なんですの?」
「ああ、大丈夫だよ。このお茶自体に味はないから。温めたレモン水みたいな感じかな」
お義兄様がそう教えてくれたので一口飲んでみると、確かに殆どレモンの味しかしなかった。
「本当だわ。これは色の変化を楽しむお茶なのですね。…青と赤なんて、お義兄様の蝶々みたいですわ」
「ふふ、そうだね。エリファの好きな私の蝶々と一緒だ。……さて、ひと心地ついたところで本題に入ろうか」
よかった。
お義兄様は忘れていなかったんだわ。
わたくしの事を『花』と呼んだことについて。
それから語ってくださった話は、わたくしを驚かせるものだった。
まさかお義兄様の蝶々が魔毒を持っていただなんて。
そしてわたくしはその魔毒に耐性?のある『花』という存在だとは…。
言葉を締めた後、一瞬しじまが訪れる。
しかしそれはすぐにお義兄様によって破られた。
「エリファ。一応言っておくけど、エリファが私の花だからといってエリファを選んだ訳じゃないよ。確かに花であるエリファに私は救われたけれど、きっと私はエリファが花でなくても愛して、結婚を申し出ていた。今では花としての素質がおまけだと思うくらい、エリファという薔薇に魅了されているんだ」
「ふふ。大丈夫ですわお義兄様。確かにわたくしは恋愛に疎いと思いますが、お義兄様の愛を疑うことはございませんもの」
お義兄様は今までたくさん愛を伝えてくださっていた。
そのどれもが作り物の愛だとは到底思えない。
きちんとわたくしという人間を愛してくださっている…そう自信を持って答えられる。
「そう、か。そうか…。よかった。ありがとう、エリファ。愛しているよ」
「わたくしも愛しておりますわ。…それで、蝶々のことですけど、昨日キスをしたということはもうお義兄様の蝶々は魔毒を発していないということなんですわよね?」
「ああ。エリファが私の愛を込めた魔力を受け入れてくれたからね。無事無毒化したよ」
「よかった…!これでお義兄様も晴れて蝶々を完全に掌握できたということですよね!愛するお義兄様の役に立てて本当によかったわ…」
隣に座るお義兄様の手に、自分の手をそっと重ねる。
愛しているからこそ、お義兄様の悩みを晴らすことができたという事実が嬉しい。
お義兄様にもその気持ちが真に伝わったようで、微笑みながら額同士をこつんと合わせる。
「ありがとう、エリファ。私の薔薇。エリファを愛せて本当によかった」
「わたくしもですわ。お義兄様がわたくしの蝶々で本当によかった…」
視線を合わせる。
お義兄様の碧い瞳にわたくしの赤い瞳が映り込んで目を離せない。
自然に近づく唇が重なったのは、それからすぐのことだったーーー
そこそこ修正を加えました。
因みに作者は色が変化するお茶は飲んだことありません!笑
マロウブルー?バタフライピー?一度飲んでみたいです。
お読みいただきありがとうございました!
また次話でお会いしましょう!




