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ep7〜お義兄様の過去2〜

第七話投稿です。

今回もお義兄様視点になります。



その日の夜。

エリファの歓迎会を家族4人で行った後。

私は父の執務室へ足を運んだ。


入室許可を得て中へ入ると、父は一枚の写真を眺めていた。


『父上、その写真は?』

『…弟のマルクスが生まれた時に撮った家族写真だ。エリファと同じ、目が覚めるような金の髪でな』

『…仲が良かったんですね』

『ああ。お前は覚えていないだろうが、エリファが生まれるまではよくここに遊びに来ていたんだ。夫人を連れて。職場でも顔を合わせるのに』


そう言って父上は視線を窓の外へと移す。


『あの子が生まれたあとはとんと来なくなってな。『可愛い我が子と妻を独占したいんだ。兄上にもわかるだろ?』なんて言って。本当に妻子を愛していた、素晴らしい弟だったよ』

『……叔父上は第二魔法師団の団長だったのでしょう?何故亡くなられたのですか?暴漢などに…』

『……エリファを襲おうとしたんだ。あの子はマルクスが身体で庇ったお陰で助かったが、転移の瞬間に首の急所を刃物で刺されて…。即死だった。あんな光景を覚えて居るのはあまりにも酷だ。エリファが眠っている間に魔法でその時の光景だけは消した。完全にな。もうその記憶が戻る事はない。が、死んだという事実だけは残した。可哀想だが、それは忘れるべきではない』


8歳の私では想像できなかったが、今ならわかる。地獄絵図だ。父親の遺体の前に呆然と立ち尽くすエリファの姿を思うと、心臓が潰れてしまいそうだ。


『…夫人は、それで壊れてしまった。マルクスが守った娘を『お前のせいで』と責め立てた。あんなに仲の良かった家族が、一瞬で崩壊した。そして夫人は自死して、エリファだけが残された』

『……』

『エリファはひとりになることを恐れている。私の大切な弟の娘を、これ以上傷つけたくない。だから他に取られる前に私がここへ連れてきた。…ノア。エリファと仲良くしてやってくれ。私の弟の忘形見を、これ以上傷つけないように…』


目を閉じた父上の眦には、うっすらと涙が浮かんでいた。

大切な家族を亡くした、男の涙が。


『……父上、そのエリファなのですが。将来、僕の妻にしたいと思っています』

『…何?本気で言ってるのか?お前エリファが来る前は興味なさげだったのに、どう言う風の吹き回しだ?』

『………僕だけの薔薇を見つけました』


私のその言葉に父は目を瞠った。


『本当か?…何故エリファがそうだと思った?』


おそらく父は何を持ってして『自分だけの花』なのかを知っているのだろう。

だからこその問いかけだ。


『…エリファが、僕の蝶に触れたんです。止めようとした時には既に指先に乗っていて…でも、魔毒に冒される事なく笑っていました』

『…そうか。そうか…。はぁ、私たち親子は運がいいな。自分の花を見つけられたんだから』

『父上の花は母上だったんですね』

『ああ。…はぁ、そうか。良かったなぁ。本当に』

『はい。ありがとうございます。それで、婚姻は認めてくださいますか?』

『当たり前だ。お前、絶対にエリファの手を離すなよ?全力で囲え。何をしても私が許す』


そんなの当たり前だ。

私だけの薔薇を、誰かに手折らせるものか。


『…では一つ宜しいですか?』

『ん?なんだ?』

『エリファの交友関係を遮断して下さい。茶会などの参加も認めません。王宮からの招待も拒否してください。勿論釣書などは消し炭にします。学院に入学する日までで構いませんので』

『わかった。そうしよう。…ああ、そうだ。これを読んでおきなさい』


渡されたのは、保存魔法がかけられた一枚の羊皮紙。


『これは?』

『私達の花の育て方だ。必ず読んで、私に返すよう。お前が当主になったらお前が管理することになる』

『…わかりました。読んでおきます』



執務室を退室した後、私は自室へ戻り、羊皮紙に目を通す。




ーーユリシスの蝶々は花を乞う生き物らしい。


花はユリシスの通常魔力と愛を込めた魔力もって開花する。

蕾のうちは通常魔力のみを徐々に注ぎ、器を育てていく。

器が完成すると、花はユリシスの愛を込めた魔力を受け入れられるようになる。

ただし、そこまでの時点で花からの全幅の信頼がなければ成立しない。

信頼関係を築き、愛を囁き、魔力の器を育てることで開花への最終段階へ到達する。


愛を込めた魔力は通過魔力よりもずっと密度が高く強力だ。

ユリシスの通常魔力で作った器にユリシスの愛を込めた魔力を送る。するとユリシスの蝶々はその花を欲するようになり、魔毒を発さなくなる。

花に注がれた強い魔力を欲しているようだ。

開花前の花を守るために魔毒を発しているのではないかという説があるが、未だ解明はされていない。

ただ『そういうものだ』と理解してくれればそれでいい。


だがしかし、花を力づくで手に入れてはならない。

花にユリシスを選んでもらわなければならない。

花がユリシスに好意を抱かねば愛を受け入れてもらえないからだ。


もしなかなか花がユリシスへの恋情に気づかぬ場合、通常魔力にほんの少しだけ愛を込めて与えると、隠れた恋情が表に出るようになる。

過去そういう花があったので記載しておく。

0から100になるのではない。99でないと100にならない。

だからこその信頼関係である。

それまでに恋情を引き出せれば一番である。上記は最終手段と思っておくように。


魔力への愛の込め方はただ一つ。

唇への口付けだけだ。

それ以外の場所へ口付けると通常魔力が送られる。

なので魔力の器を育てるためには積極的に額や頬などに口付けをすること。


後世のユリシスに花の恵みが在らんことを。


第八代当主 ジェシー・ユリシスーーー






七代前の当主は、花を見つけられたのだろう。

だからこそ指南書を残した。次代の花を開花させるために…。


現状まだ蝶々は魔毒を発している。

だが私は私の毒蝶を受け止めてくれるエリファに出会えた。

今はそれだけで十分だ。後々魔毒をなくせることはできると知ることができたのだし。


魔毒を受け入れられる人間なんてそうそう居ない。

私と父はそれを引き当てたのだ。こんな幸運はないだろう。


エリファは意図せず私の憂いを晴らしてくれた。

そんな彼女を愛してしまうのは当然のことだと思う。

恐らく花を手に入れた歴代当主もそう言った理由で本気で花を愛していたはずだ。

それは父と母の様子からも伺える。


ならば私も全力でエリファに愛を乞おう。

私の温室で永遠に咲き誇っていてもらうために。


父にエリファを外界と遮断する許可は得られた。

あとは時間をかけてエリファへ私の愛を囁き、エリファにも愛してもらえるような関係を築こう。


私は決意を新たに、エリファの部屋へと向かったーーー




◇


あの日から9年の時が経った。

今では私とエリファは毎日同じベッドで眠っている。

勿論父の許可を得て。


この9年でエリファの美しさには更に磨きがかかっていた。

腰まである金糸の髪をふわふわと踊らせ、真紅の瞳を細めて楽しそうに私の蝶と戯れる姿はまさに女神そのもの。


そして長年外界との交流を絶ってきたため、本当に純真無垢に育った。

大人と子どもの境目にいる面立ちはあどけなさと大人っぽさが両立しているという奇跡が起こっていた。


ジークが無理矢理邸に押しかけてきて『可愛い…』と言った瞬間は蝶に触れさせてやろうかと思ったほど殺意が湧いた。

王太子でさえ惑わす魅力がエリファにはある。


現状、エリファは私を確実に信頼して愛してくれている。

ただそれが『恋愛』なのかと言われるとなんとも言えない。

『兄妹愛』でもなさそうなのだが、はっきりしない。


なんせ外界から切り離して私が大切に大切に育ててきた極上の薔薇だ。

恋愛方面は疎くさせた自覚はある。

エリファが私への恋情に自分から目覚めるか、私があの指南書にあった最終手段を使用するのが先が…。


まぁ器の完成にもまだあと1年近くかかりそうなので、もうしばらくは様子見していても問題ないだろう。


私のエリファ。私の薔薇。

君を開花させるその時が本当に楽しみだーーーーー




花の咲かせ方、かなり修正しました。

大分まろやかになっているはず…!

次回はエリファ視点に戻ります!



お読みいただきありがとうございました!

また次話でお会いしましょう!

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