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ep6〜お義兄様の過去1〜

第六話投稿です。

お義兄様の過去話になります。



18年前。ユリシス公爵家の嫡男として生を受けたのが私、ノア・ユリシス。

筆頭魔法師団長の父と『社交界の花』と呼ばれる母の子。

だからこそ、周りからの期待も大きかった。

幸い魔力量には相当恵まれ、父の役職も継ぐだろうと目されている。

母に似た顔立ちも大変評判がいい。


そんな恵まれた私にも、一つ悩みがあった。


ユリシス公爵家が『蝶々公爵家』と呼ばれる所以。

代々嫡男が受け継ぐユリシス公爵家秘伝の魔法。

特別な魔法生物の蝶を生み出す魔法。

私はこれが上手く使いこなせていなかった。


ユリシスの蝶々は魔毒を持って生まれる。

魔毒さえなければ有用な蝶なのだが、魔毒のせいで無闇に使えない。ならなんのための蝶々なのか。


これではおちおち人前にも出せない。父の蝶々は魔毒など発していないのに。


父にその事を相談してみると、父は真剣な顔つきで答えた。


『お前だけの花を見つけなさい。そうすれば蝶は応えてくれる』と。


当時まだ7歳の私にはその意味がわからなかったので、とりあえず本物の花を育ててみようと思いユリシス家の血縁者しか入れない温室に入り浸るようになっていった。


それから1年が過ぎ、私が8歳の頃。

叔父夫婦が立て続けに亡くなったため、その一人娘をユリシス公爵家の養女にするという話を父から聞いた。

一度祖父の葬儀で会っているらしく、説明されれば『ああそんな子もいたな』とぼんやり思い出した。

義妹が増えたところで私には関係ない。


それから数日後、私はいつも通り花の世話をするために温室に向かった。

先に蝶を放しておき、その空間に馴染ませながら花の世話をするのが私なりのルーティーンだった。


愛用の剪定鋏を部屋に忘れてきてしまったため、一度取りに戻ってから再度温室に入ると、そこには小さな女の子がいた。



『………きれい』


彼女は私の蝶を眺めながらそう呟いた。

蝶は彼女の身長では手が届かない場所を舞っていたため、魔毒に冒される心配はない。


ただ、あまりにも私の蝶と育てた花に囲まれた彼女の姿が美しく、思わず声をかけてしまった。


『誰…?』


彼女は突然声をかけられた事にびっくりしたようで


『ご、ごめんなさいっ!わ、わたくし、気づいたらお部屋にひとりで…!こわくなって…!それで…!』


と相当焦りながら問いかけの答えではない返答が返ってきた。

とりあえず落ち着かせるよう優しく話しかける。


『大丈夫だよ。怒ってるわけじゃない。ここはユリシスの血が流れている人しか入れない温室だから、知らない女の子が居てちょっとびっくりしたんだ』

『あ…そうなんだ……。わたくし、エリファ。ローズ伯爵家の娘だったの。…お父様たちが亡くなって、おじ様がここに連れてきてくれたの』


ああ、この子が先日父が言っていた叔父夫婦の一人娘だったのか。

少し考えればわかることだ。ここに入れている時点でユリシスの血縁者なのだから。


『ああ、君がエリファなんだね。初めまして。僕はノア。ノア・ユリシスだよ。君の義兄になるのかな?』

『ノア…お義兄様…?』


可愛らしい声で私を『お義兄様』と呼ぶ彼女はとても愛らしい。

彼女が義妹になるなら生活が楽しくなりそうだ。

そう思って彼女を名前で呼ぶ事にした。


『うん。よろしくね、エリファ』


すると私の肩に留まっていた蝶がふわふわと舞い、エリファの差し出した指へと近づいた。

突然のことに咄嗟に蝶を止められず、


『触っちゃだめだっ!』


と叫ぶしかなかった。

しかし、彼女はなんともなさそうに蝶を指に留めていた。

触れば魔毒に冒される、私の蝶を。

あまりの事に目を瞠って問いかける。


『……嘘…。エリファ、大丈夫?気持ち悪くない…?』

『?大丈夫よ?こんなに綺麗なんですもの』




その時唐突に理解した。

父のあの言葉を。


そうか、エリファが私の花なのだ、と。

だから蝶に触れても魔毒に冒されないのだ、と。




『……………君は、この蝶々が綺麗に見えるの?』

『もちろん!とっても綺麗だわ!…この青、お義兄様の瞳の色にそっくりだし、模様の赤はわたくしの瞳の色に似ていません?なんだかとても素敵だわ!』


そう言って笑うエリファの瞳はキラキラと輝いており、私の育てた真紅の薔薇を想起させる。


これはただの花ではない。

私だけの、極上の薔薇だ。



『…本当だね。確かに僕たちの瞳の色だ。…うん、僕も、初めてこの蝶々を好きになれたよ』


ずっと魔毒のせいで蝶をまともに扱えない自分が嫌いだったから、自分をあえて『蝶々』と呼んだ。

そんな蝶々(私)を受け止めてくれるただ一人の人間が、『綺麗』と言ってくれた。私の瞳の色と彼女の瞳の色でできた蝶々を…。


心が、震えた。


『今まで好きじゃなかったのね?もったいない!でも、好きになれたならよかったわ!』


私はこの子がーーエリファが欲しい。

私の薔薇を、他の誰にも渡したくない。

私の蝶々を受け入れてくれたエリファを。


『ありがとう。…そろそろ行こうか。父上たちも心配しているだろうし。案内するよ』

『ええ、ありがとう!』



神様。

私に薔薇(エリファ)を与えてくださったことに、心からの感謝を。


蝶々には花が必要ですからね。

因みに『ユリシス』は『オオルリアゲハ』のことです。



お読みいただきありがとうございました!

また次話でお会いしましょう!

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