ep5〜お義兄様とキス〜
第五話投稿です。
ここから大分元の話を修正しました。
夕食後、湯浴みなどを済ませたわたくしは一人ベッドの中で思い返していた。
カフェでの一件が起きる前に考えていたことを。
お義兄様のお陰であの時は少しだけ気持ちが軽くなったけど、一人になるとやはり考えてしまう。
わたくしの婚姻先。お義兄様が娶る方。
どちらも憂鬱な気持ちにさせられる。
わたくしたちは公爵家の嫡男、養女として家のためになる縁を結ばなければならない。
わかっている。どうしようもないことなのは。
それでもやっぱり悲しくて。
ただなぜこんなにも悲しくなるのか、わたくしにはわからない。
目を閉じて、シーツをぎゅっと握る。
かちゃ、と扉の開く音。
「エリファ、寝ちゃった?」
「…いいえ、起きてるわ」
「…やっぱり、悩み事があるんだね。私に話してくれる?」
お義兄様はわたくしの隣に寝転び、そっと抱きしめてくれた。
「…ねぇお義兄様、わたくしって、どなたと婚姻することになるのかしら…」
「…婚姻?何故?」
「だって私はユリシス公爵家の娘だもの。いずれどこかに嫁ぐことになるのでしょう?」
「……まぁ、一般的な貴族の娘はそうかもね」
「…わたくし、お義兄様の側を離れたくないわ…。でも、お義兄様がどなたかを娶る所も見たくない…とても悲しい気持ちになるの……」
「エリファ…」
「なんでこんなに悲しい気持ちになるのかしら…?兄妹なんですもの。お義兄様の幸せを願って差し上げなければいけないはずなのに…」
お義兄様の胸板にきゅっと縋る。
この温もりを少しでも感じていたくて。
「……ねぇエリファ、今朝からの症状のこと覚えてる?」
「…?ええ。今は悲しい気持ちだからなっていないけれど…」
「だろうね。あのね、エリファ。その悲しい気持ちと鼓動が高鳴る症状の原因は一緒なんだよ」
「えっ!そうなの…?」
「うん。しかもエリファのその症状を治せるのは、世界でたった一人。私だけなんだ」
「ええっ!お義兄様、そんなすごい方だったの?」
「うん。でも、実は私もエリファと同じ病に侵されていてね」
お義兄様も、同じ病に…?
「そんな…!でもお義兄様なら治せるのでしょう?」
「いや、同じ病でも、私は私の病を治せない」
「うそ…」
「ただ、私の病を治せる人は知っているんだ」
「ならわたくしがその方を連れてくるわ…!」
「ふふ。大丈夫。私の病を治せる人はね、エリファだから」
「…本当に?ならわたくしなんでもするわ!どうしたらいいの?」
「ありがとう。じゃあ、今からすること、全部心のままに受け入れてくれる?」
「…?ええ、わかったわ」
わたくしがそう答えると、お義兄様はわたくしの顎をくいと掴んで少しだけ上を向かせる。
「?お義兄さ…」
どうしたのかと聞こうとしたが、最後まで言葉は紡がれず、お義兄様の唇が重なったことで息と共に奥へと戻っていった。
今まで額や頬、頭や手などにはされたことがあっても、唇にだけは触れることはなかったのに…。
目を白黒させながらじっと唇が離れるのを待ってみたけど、なかなかお義兄様は離れない。
ただわたくしも嫌悪感は微塵も感じず、むしろ嬉しいとさえ感じている自分に驚いた。
『ずっとこうされたかった』
心の中でそう思ってしまう。
『兄妹なのに』という罪悪感はない。あるのは『もっとお義兄様とキスしていたい』という気持ちだけ。
わたくしと同じ病なのなら、お義兄様も同じように『もっとエリファとキスしていたい』と思ってくださっているのかしら…?
そうだったらこれ以上の喜びはない。
最後に小さく啄んで、お義兄様の唇が離れていく。
「ぁ…」
「…嫌じゃなかった?」
「ええ…寧ろ…嬉しかったわ…」
「それはよかった。私も漸くエリファとキスできて嬉しいよ」
「ふふ。わたくしたちお揃いだったのね」
「そうだね。…エリファ、病の方はどう?まだ悲しい?胸の高鳴りは?」
「…悲しいのは、少し落ち着いたわ。でも、お昼よりもっとドキドキしてしまっているの…」
「そう。私も同じだよ。心のままに感じて、どうだった?」
「……心が温かくなってきた気がするわ。あと、ずっとこうして欲しかったとも思ったわ」
「…よかった。私もずっとこうしたかったんだ。どうしてだかわかる?」
お義兄様もキスしたかったのね…。
その、理由…お義兄様が大好きだから…?
「お義兄様のことが大好きだから…?」
「ふふ、ありがとう。じゃあその『大好き』はどう言う『大好き』?」
どういう…?種類があるの…?
悩んでいると、お義兄様が言葉を続けた。
「例えば、エリファは父上と母上が『大好き』だよね?」
「ええ。勿論よ」
「じゃあ、その『大好き』な2人と唇にキスをしたいと思う?」
「…思わないわ」
「そうだね。私も思わない。じゃあエリファはどうして私と唇同士でキスをしたいのかな?同じ『大好き』なはずなのに」
…そう言われると確かにそうだわ。
3人とも同じくらい『大好き』だけど、お養父様とお養母様への『大好き』とお義兄様への『大好き』はなにか違う。
お義兄様にはもっと…
「わたくしだけを見てほしいわ…わたくしだけを愛して…『妹』ではなく『女性』として見てほしい…から?」
「そうだね。私もエリファに『兄』ではなく『男性』として見てほしい。愛してるんだ。エリファの事を。誰にも渡したくないほどに」
「お義兄様…」
お義兄様を見つめると、わたくしを力一杯抱きしめてくださった。
「エリファ。好きだ。愛している。私と、結婚してくれる…?」
結婚……お義兄様と、結婚……
「わたくしたち、兄妹でも結婚できるの…?」
「勿論だよ。兄妹と言っても義理だからね。元を辿れば従兄妹だ。従兄妹同士は結婚できるって知ってるでしょう?」
「…そうだったわ。…じゃあ、わたくしお義兄様のお嫁さんになれるの…?」
「なれるよ。なってほしい。私はエリファ以外いらないんだ」
じわりと目に涙が溜まって視界がぼやける。
耐えきれず、ぽろぽろとそれはこぼれ落ちて耳の辺りを濡らしていく。
「嬉しい…っ。わたくし、ずっとお義兄様のお嫁さんになりたかったんだわ…っ。なんでもっと早く気がつかなかったのかしら…」
「幼い頃からずっと一緒だったからね。兄妹愛と恋愛を同一視していたんだろう」
「でも何故突然今朝からお義兄様にドキドキしはじめたのかしら…?」
「……ふふ、どうしてだろうね?ーーーー」
◇
すやすやと隣で安らかな顔で眠る私の薔薇。
時刻は朝6時を少し過ぎた頃。
起こすまでにはまだもう少し時間がある。
「んん…お義兄様…」
夢の中で私を呼んでいる私の最愛は、未だ私の気持ちに気付かない。
まぁ恋愛に興味を示さないよう徹底的に周りから情報を遮断してきた弊害なのだろう。
だが今日からエリファは学院に通う。
獣の群れにエリファを一人放り込むことになる。
何も知らない純粋無垢なエリファはあっという間に食い散らかされてしまうだろう。
そんなことには絶対させない。
エリファは私だけの花なのだから。
起こさないようゆっくりとエリファを覗き込む。
あどけない寝顔が愛おしい。
蕾のままの薔薇を満開に咲かせるために、小さな顎を指で掬い、触れるだけのキスをする。
眠ったままのエリファはそれに気付かない。
気付かせないよう注意しながらキスで魔力を送り込む。
エリファの魔力の器が完全に出来上がった今、漸く私の愛を渡す準備があと一歩のところまできた。
これが終わればエリファは完全に蝶々の薔薇になる。
目覚めた後は、私への想いに気づき始めるだろう。
ただ心配なのはあまりにも無垢なままに育ち過ぎてあらぬ勘違いをするのではないか、ということだ。
唇を離し、エリファの頬を撫ぜ、私は元の位置へ戻った。
もう少し。今はまだもう少しだけ、何も知らないままの君でいさせてあげる。
でも、起きたら覚悟しておいてね?
私の可愛い可愛い薔薇姫ーーーー
ムーンの住人渾身の改訂笑
どこまでがセーフなのかがわからない…!笑
お読みいただきありがとうございました!
また次話でお会いしましょう!




