ep4〜お義兄様とカフェの攻防〜
第四話投稿です。
その後すぐにお義兄様はわたくしを教室へ送り届けてくださり、午後は一限だけ簡単な基礎魔法を復習してその日の授業は終了した。
お義兄様はもう一限授業があるそうなので、わたくしは暇を持て余してしまっている。
どうしようかと悩んでいたところ、シンディに学内のカフェに行かないかとお誘いをいただいた。
そういえばカフェは行ってなかったな、と思い是非にと答える。
カフェは新入生達でそこそこ混雑していて、ぎりぎりわたくしとシンディ分の席を確保できたので一安心。
昼食を食べたばかりなので、わたくしは紅茶だけ頼むことに。
シンディは『甘い物、好きなんです』とはにかみながらケーキも頼んでいた。
しばらくして注文した品がサーブされ、それを頂きながらシンディの家の話を聞かせてもらう。
シンディの家は代々優秀な魔法研究者を輩出してきた家で、シンディ自身も将来は魔塔の研究者になりたいらしい。
そういう道もあるのねと感心していると、次はわたくしの話になった。
「エリファ様は将来どうされるんですか?エリファ様なら魔法師団にも入れそうな気がしますけど」
「そうね…あまり考えたことがなかったわ。お義兄様もお養父様もそういう話はなさらないし…」
「なるほど。確かにユリシス公爵家なら引く手数多でしょうしね。ご婚約とかはされていらっしゃるんですか?」
婚約…わたくしの、婚約者…?
そんな方いるのかしら?
「いえ、聞いたことないわ。わたくしずっと邸にいたから、お義兄様と殿下以外の殿方にお会いしたことないの」
「わぁ、流石秘密の薔薇姫ですね〜。でもまぁ確かにエリファ様の婚姻なんてユリシス卿が許さなそうですね」
「そう、ね。確かにその通りだわ」
婚姻なんて考えたこともなかった。
公爵家の娘になったのだから、将来どこかの貴族へ嫁がなければいけない。
そんな当たり前なこと、どうして今まで忘れていたのだろう。
ずっとお義兄様と一緒だと思っていた。
わたくしはこのままユリシス公爵家でお義兄様と一緒に暮らしていくのだと…。
そんなこと、あるはずないのに。
お義兄様だってその内どこかのご令嬢を娶られる。
それが当たり前なはずなのに。
その姿を想像したら、胸が酷く痛む。
「エリファ様…?」
わたくしの様子を不審に思った様子のシンディが声をかけたその時だった。
「あら、どなたかと思ったら親なし子のエリファ様じゃありませんか」
名前を呼ばれたので顔を上げると、知らないご令嬢がわたくしの目の前に立っていた。
「ええと…どなたかしら?」
「まぁ失礼な方!わたくしのことを知らないなんて、流石親なし子ですわね!仕方がないから名乗って差し上げるわ!バイアット侯爵家の娘、マージェリーよ!」
侯爵家ならわたくしから声をかけないといけないはずなのだけれど…マージェリー様はご存知ないのかしら?
「マージェリー様ね。…確かにわたくしの実の両親は鬼籍に入っておりますが、今は養父母がおりますわ?」
「実の親がいないならそれは親なし子なのよ!本当、赤の他人の癖に図々しくもユリシス公爵家に取り入るなんて、ローズ伯爵家は娘の教育をなさらなかったのかしら?」
なんだかとても不躾な方だわ。
あまり関わり合いたくないけれど、ひとまず事実だけはお伝えしないと。
「わたくしの父は現ユリシス公爵の実弟なので、赤の他人ではなく親族ですわ?それに、何故本当に赤の他人のあなたにそのようなことを言われなければならないのかしら?」
「なっ…!なによ、偉そうに…!ユリシス公爵の実弟だなんて聞いたことがないわ!!」
「あら、そうなんですの?わたくしたちの親世代なら知っているのではなくて?バイアット侯爵もご存知のはずでは?」
「くっ…!そもそもあなた!ノア様にべたべたしすぎなのよ!」
「べたべた…確かにお義兄様は昔からわたくしを抱きしめてくださったりキスしてくださったりしますけど、兄妹なら当然だと思うのだけれど…」
お義兄様はわたくしが養女になったあの日から今までずっと変わらずスキンシップをしてくださる。
ひとりだったわたくしは、それがとても嬉しかった。
「あ、あんな人前で抱きしめたりなんてしないわよ!どうせあなたが強要しているんでしょう!」
「強要…したのかしら?お義兄様、どう?わたくしお義兄様に強要したかしら?」
ちょん、と肩に乗せた蝶々に話しかける。
同じタイミングで四限目の授業の終わりを告げる鐘が鳴り、刹那、横にお義兄様が現れた。
「エリファ、変なのに絡まれても相手にしちゃ駄目だよ?まぁすぐに止めに行こうと思ったらエリファがぼこぼこにし始めたのが面白くて見物してた私が言えたことではないけどね」
「もう、意地悪なお義兄様ね!それでも見守ってくださっていたのが嬉しいわ。ありがとう、お義兄様」
「私の瞳はエリファだけを見るためにあるからね。当然だよ」
「お義兄様…」
「ちょっと!!2人の世界に入ろうとしないでくださる?!」
あら、そういえばまだいらしたのだったわ。
「ごめんなさい、何のお話だったかしら?」
「だから!どうせあなたがノア様に強要したんでしょう?!」
「ああ、そうだったわ!お義兄様、どう?わたくし、何か強要してしまったかしら?」
「そんな事実は神に誓ってないよ。私がエリファを愛しているからこうしているんだ」
お義兄様はぎゅっとわたくしの腰を引き寄せる。
「ふふ。嬉しい。…悩み事が少しだけ軽くなった気がするわ」
「ああ、何か悩んでいる様子だったね。何かあったの?」
「ええ、でもここで言うのは恥ずかしいから、邸に帰ってから言うわ」
「そう?じゃあ早く帰ろうか。父上達が待ってるはずだよ」
「ええ!お友達ができたことも報告したいわ!ねぇお義兄様、今度シンディを邸に誘ったら駄目かしら?」
「え?!エリファ様?!」
折角できたお友達ですもの。
お茶に招待するってやってみたかったのよね。
「ああ、構わないよ。どうせなら久しぶりにジークも呼んでやろう。『遊びに行かせろ』って煩いんだ」
「素敵!殿下ならシンディとも仲良くしてくださるわ!ね、シンディ、来てくださる?」
「王太子殿下もですか?!わ、わたくしなどがそのような高貴な会に参加してもよろしいのでしょうか…?」
「大丈夫よ。わたくし、とっておきの茶葉をお出しするわ。楽しみにしていてね?」
「は、はい。ではお言葉に甘えて…」
わたくしたちがお茶会の話で盛り上がっていると、マージェリー様が突然わたくしの飲みかけの紅茶が入ったカップを手にして、わたくしに向かって投げつけた。
(いけない!)
咄嗟に目を瞑って顔を覆い、液体がかかるのに備えたけど、いくら待ってもわたくしにそれは訪れない。
代わりにカップを投げつけたマージェリー様が『きゃああ!』と悲鳴を上げていた。
恐る恐る目を開けると、何故か彼女に紅茶がかかっている。
(え、どうして…?)
ちらりとお義兄様の様子を見てみたらーー見たことのないような冷たい表情をしていた。
『怒り』
それが如実に現れている。
お義兄様は本気で頭にきているとこんな顔になるのね…。
きっとマージェリー様にかかった紅茶もお義兄様がやったのだわ。
「私のエリファに害をなそうとしたんだ。その程度で済ませてやったことをありがたく思え」
「何故…!何故ですの…!わたくしは…わたくしはただあなたをお慕いしていただけなのに…!」
「どこの誰だか知らないが、私の命よりも大切なエリファを傷つけようとするような輩を気にかけるとでも?どんな思考回路をしていたらこんな事ができるのか…」
「酷い…」
「酷いのはどちらだ?エリファを排除すれば自分が私に愛されるとでも?その自信はどこから来るんだ?性格も姿も、何一つエリファの足元にも及ばないじゃないか」
「………」
お義兄様にそう言い切られたご令嬢は、たっと逃げるように走ってカフェを出て行った。
あの方一体何がしたかったのかしら…?
本当にお義兄様を慕っていらしたなら家族であるわたくしを敵視するべきではないことぐらいわかりそうなのに。
はぁ、とお義兄様は息を吐くと、いつもの優しいお義兄様の顔に戻ってわたくしを見つめた。
「さぁエリファ、邸へ帰ろうか」
「え、ええ。じゃあシンディ、また明日ね。お茶会、楽しみにしていらして?」
「…あっ、はい!エリファ様、ごきげんよう」
シンディに一つ笑みを向けた後、お義兄様の腕にそっと自分の手を添える。
それを確認したお義兄様は、朝と同じように転移で邸へと移動したーーー
ムーン版では名無しだった令嬢。
なろう版にて漸く名前をゲットしました笑
ただこの先出てくることはないです笑
お読みいただきありがとうございました!
また次話でお会いしましょう!




