ep3〜お義兄様とお話し〜
第三話投稿です。
午前中のオリエンテーションも終わり、わたくしはお義兄様が迎えに来るのを待っていた。
クラスメイトがちらちらとこちらを見てきているようなので、一番近くに座っているご令嬢に微笑んでみる。
たしか先ほど『シンディ・メルバ』と名乗っていた、メルバ伯爵家のご令嬢。
すると彼女は意を決したかのようにわたくしに近づきーー雷がくるのを恐れているようねーーカーテシーをしてくれた。
わたくしの方が爵位が上なので、こちらから声をかける。
「メルバ様、先ほどはびっくりさせてしまってごめんなさいね。わたくしもびっくりしたの。まさか至近距離に接近されただけで雷が落ちるとは…」
「ユリシス様、お初にお目にかかります。覚えていてくださって光栄でございます。…ということは、ユリシス様もご存知なかったのですね?」
「ええ。義兄から本鈴が鳴る直前に渡されて…。多分このクラスでお友達になれたご令嬢ならあんなことにはならないと思うのだけれど…」
「このクラスの令嬢限定なのですか?」
「そうなの。義兄から『Sクラスの女性とだけなら交流してもいい』と許可をいただいておりまして…。メルバ様、よろしければわたくしの初めてのお友達になってくださらないかしら?」
「よ、よろしいのですか?」
「ええ、勿論よ。最初に歩み寄ってくださった方ですもの。…多分、義兄にも聞こえていると思うわ。ね、お義兄様?よろしいかしら?」
蝶々に向けて声をかけると、今まで肩から微動だにしなかった子がふわりと舞い上がり、メルバ様に一瞬近づいてまた戻ってきた。
「ふふ、許可がでたわね。これからよろしくお願いしますわ」
「はいっ!あ、わたくしのことはどうかシンディとお呼びください!」
「かしこまりましたわ。シンディ。ではわたくしのこともエリファ、と」
「…!はい!エリファ様!よろしくお願いいたします!ああまさかあの『蝶々公爵家の秘密の薔薇姫』様とお友達になれるだなんて…!」
「あの…それ、なんなのかしら?初めて知ったのだけれど…わたくし、外ではそのように呼ばれているの?」
「そうなんです。ユリシス公爵家にはそれはそれは美しいご令嬢が隠されていて、その瞳は真紅の薔薇のようだと噂されていたのですよ!」
「そ、そうなのね…?」
悪い気はしないのだけれど…やっぱり恥ずかしいわね、そのあだ名…。
そんな大仰なあだ名があったらお友達なんてできやしないわ。
わたくしが内心少し落ち込んでいると、ぱっと隣にお義兄様が転移してきた。
「エリファ、ごめんね。お待たせ。教諭に捕まっちゃって…。まぁでも友達ができたようでよかったよ」
そう言いながらお義兄様はわたくしの頭を抱き寄せ、軽くキスをする。
…やっぱり、どきどきするわ。本当、どうしちゃったのかしら。
こほんと咳払いをして気を取り直し、お義兄様にシンディを紹介することにした。
「お義兄様、ご存知でしょうけどこちらシンディ・メルバ伯爵令嬢よ。わたくしのお友達になってくださったの」
「ああ、見ていたよ。初めましてメルバ嬢。ノア・ユリシスだ。その蝶々はもうメルバ嬢に攻撃しないようにしたから安心するといいよ」
「あっ、は、はひっ!お初にお目にかかります!シンディ・メルバでございます!妹君との交友をお許しくださりありがとうございます!」
「ああ、これからもエリファと仲良くしてやってね。私の大切な人なんだ」
「かしこまりました!」
よかった。実際に会ってお義兄様も認めてくださったみたい。
シンディが雷に打たれるところなんてみたくないもの。
「それよりお義兄様、この子の雷は流石にびっくりしましたわ?事前に仰ってくださったらよろしかったのに」
「ごめんね。エリファを一人にするのは初めてだったでしょ?入学のテストは私が見守っていたし。それでつい忘れてしまったんだ」
「もう、あとで他になにが起こるのか教えてくださいね?」
「うん、教えるよ。さ、そろそろ昼食にしようか。庭の四阿が空いているといいんだけど」
「ええ、わたくしはお義兄様と一緒ならどこでもいいわ」
「よかった。それじゃあ行こう」
「はい。シンディ、またあとでね」
「はい!ごゆっくり!」
シンディと別れ、わたくしたちは四阿に転移した。
四阿と校舎は少し距離があるため、幸いまだ人はきていない。
お義兄様がさっとガーデンチェアを引いてくれたので、わたくしはそこに座る。やっぱりわたくしのお義兄様はとても優しい紳士だわ、などと思っていると、お義兄様は対面に置いてあった椅子をわたくしの隣へ移動させ、いつものように並んで座り、空間魔法に入れておいてくださったサンドイッチと紅茶を取り出してわたくしに渡してくださる。
それを頂きながら午前のオリエンテーションの話やわたくしの恥ずかしいあだ名の話をしてひと時の団欒を過ごした。
30分ほど経ってわたくしが食べ終わったのを確認し、お義兄様がいよいよ話を切り出す。
「さてエリファ。先ほどの話だけど、今こうして話している間はどう感じた?」
「そうね…なんだか少しそわそわ?したわ」
「なるほど。始業前もベンチで並んで座っていたけど、その時は?」
「…………意識していなかったけれど、思い返すと落ち着かなかった気もするわ」
「ふむ。では中庭の時より今の方が落ち着かない感じがするということかな?」
そう、かもしれない。
あの時はまだ並んでお喋りしているだけなら今ほど落ち着かない感じはしなかったわ…。
ただよく思い返すとなにかそわそわする感覚が微弱にあったような…。
「そうね、今の方が落ち着かないわ。本当になんでなのかしら…」
「………例えば、私がいつもエリファにしていることを、私ではない別の人間にされるとなったら、エリファはどう思う?」
「そんなのいやだわ!わたくしに触れていいのはお義兄様だけよ!」
想像しただけで悲しい気持ちになる。
そんなこと言わないでほしいのに…。
わたくしは思わず涙を流してしまい、顔を手で覆った。
お義兄様はそんなわたくしをひょいと抱き上げて膝の上に乗せ、優しく抱きしめてくれる。
温かい体温。大好きなお義兄様の香り。頭を撫でてくださる優しい手つき。
ひとりになったわたくしを、誰よりも近くで見守り続けてくれたお義兄様。
全てがこの抱擁に内包されている。
「ごめんねエリファ。嫌な気持ちにさせたね。私も想像したら気分が悪くなるよ。大丈夫、エリファにこんなことするのは私だけだからね」
「………ほんとうに?」
「本当だよ。エリファはずっと私と一緒にいてくれるだろう?」
「もちろんよ。わたくしはお義兄様だけのエリファだもの」
「よかった。よしよし。ほら、もう泣かないで?私の可愛いエリファのお顔を見せてくれないかな?」
顔を覆ったわたくしの両手をそっと外す。
多分目も鼻も真っ赤になっていると思う。
「ああ、エリファは泣き顔まで可愛いんだから。そんな顔、私以外に見せちゃだめだよ?」
「…お義兄様だけだわ。こんな顔が可愛いだなんて仰るの」
「ふふ。私はどんなエリファも愛しているからね」
「…嬉しい。わたくしもお義兄様を愛しているわ」
「………私とエリファじゃまだ違う愛かもしれないね」
「…?どう言う意味?」
「なんでもないよ。さて、もうすぐ午後の予鈴が鳴る時間だ。行こうか」
「ええ…そういえば結局わたくしのこの病気はいったい何なのかしら…?」
お義兄様はわたくしの真っ赤な目元に手を添えて治癒魔法をかけながら答えた。
「そうだね…恐ろしい病ではないはずだけど、もし治したいなら私が協力してあげようか?」
「えっ?本当に?ならそうして欲しいわ…!お義兄様と触れ合う度にこの症状が出ていたら、心臓が破れてしまいそうだもの…」
「っ……。そうか。じゃあ、学院から帰ったら早速試してみよう」
「!ありがとう、お義兄様!」
エリファは『過保護』に育てられたので…ね?笑
お読みいただきありがとうございました!
また次話でお会いしましょう!




