ep2〜お義兄様と変化〜
第二話投稿です。
今回は少し短めです。
Sクラスは他より人数が少ないようで、教室内の席はかなり空いている。
わたくしはその中から日当たりのいい席を選ぼうとしたのだけど、お義兄様に止められた。
「窓の近くだと日焼けしちゃうからね。廊下側にしておいて?エリファの柔肌を傷つけてほしくないな」
「あ、なるほど。そうですわね。日焼けは嫌だわ。廊下側にします」
「うん、ありがとう」
わたくしはそのまま廊下側の席に自分のカバンを置き、お義兄様を見送るために廊下に出た。
もうそろそろ、鐘がなる時刻だわ。
「それじゃあエリファ、また昼に迎えにくるからね。教室から出ずに待っていてね?」
「ええ、わかったわ。お義兄様、また後でね」
わたくしと離れ難いのか、お義兄様はわたくしをぎゅうっと抱きしめ、髪の香りを嗅ぎ、頭を離して再び唇の近くにキスをした。
………何故かしら、いつものことなのに。…唇の近くへのキスは先ほどが初めてだったけれど。
今日はすごくどきどきしてしまう。
(他の生徒が見ているからかしら…?)
こんな大勢の人の前でされたことはなかったから…。
でも、それじゃあ今朝のは…?
あれは2人だけの時だった。それなのに、どきっとしたのは…。
「お義兄様…なんだかわたくし今朝からおかしいの」
「うん?なにかあった?見た目はいつもの可愛い私のエリファだけど」
「今朝からお義兄様にキスされたりするとどきどきしてしまって…いつものことなのに、わたくしおかしくなってしまったのかしら…?」
「…ふぅん?」
お義兄様はわたくしの髪を一房取り、その先端にキスをした。
それにもドキドキしてしまう。
「これもどきどきする?」
「ええ、してしまうわ…。どうしましょう…わたくし、なにか病気なのかしら…?」
「…………」
今までまったく平気だったのに、今朝になって突然こんな風になったのだもの。
なにかの病気にかかった可能性もあるわよね…?
(わたくし、どうしてしまったのかしら)
ひとり頭の中で考えていると、お義兄様がぼそりと小声で何か呟いた。
「ふむ…。いい傾向だが…もう少し、ってところか」
「…?お義兄様、何か仰った?」
「いや、なんでもないよ。確かに突然そうなったのなら不安になるね。あとでもう少し詳しく確認してみようか」
「ええ。そうしていただけると助かるわ」
丁度その時、授業の予鈴が鳴った。
「…名残惜しいけど、私は教室に行くね…あ、そうだ。その前に」
お義兄様は手のひらを差し出す。
ぽわっと光り、そこに一匹の蝶々が現れた。青と赤の、お義兄様の蝶々。
その蝶々がふわりと舞い、わたくしの肩にとまった。
「これ、私が側にいない間は肩に乗せておいて。エリファを守ってくれるからね」
「お義兄様…。ありがとう、必ず乗せておくわ」
「うん。じゃあまた昼に」
わたくしたちはそのままお互いの教室へ戻った。
◇
わたくしが席についてから数分後、本鈴が鳴った。
その瞬間、教室に一人の若い男性が転移してきた。
ゆるいウェーブのかかった黒髪で、中央より少し横から分けた前髪をサイドに流している。
銀縁の眼鏡の奥には理知的な紫色の瞳がこちらを覗いている。
「諸君。魔法学院へようこそ。今日から君たちのクラスを担当するトーリ・ノルニエだ。魔法生物学を担当している。私がこのクラスを担当するからには優秀な成績で進級してもらう。心してかかるように」
トーリ先生はそう仰るとすぐに『では各自自己紹介からはじめなさい。廊下側から順にだ』と指示をする。
廊下側の最前列はわたくしだったので、すっくと立ち上がった。
「エリファ・ユリシスですわ。宜しくお願いいたします」
あまり長いと後が困るかもしれないと思い、端的にそう告げた。
するとクラスメイトが騒つく。
『ユリシスって、あの蝶々公爵家か』
『てことは、あの方が『蝶々公爵家の秘密の薔薇姫』?』
『そういうことよね。さっきノア様とご一緒だったし』
『はぁー、本当に存在したんだな』
『あの美しさなら隠すのも頷ける』
……『蝶々公爵家の秘密の薔薇姫』ってなにかしら…?
初めて聞いたわ。わたくしのことなのかしら?とても大仰なあだ名をつけられたものね…。
とりあえず淑女の礼だけして席に着く。
「ほう。君がユリシスの。その肩の蝶は…とんでもない魔力量の蝶だな…少し見せてくれないか?」
「えっ、あ…どうでしょう…この子は義兄のものなので、わたくしとしてはなんとも…」
「大丈夫。少し近くで見るだけでだ」
「…そのくらいでしたら」
多分、大丈夫、よね?
あの過保護なお義兄様がわたくしを『守るため』に置いて行ってくれた子。
わたくしに害をなさなければ何もない、はず。
トーリ先生の顔が肩に近づいたその時。
かっと一閃光ったと同時にドガァン!と先生の足元に黒いこげつきができた。
「「「「「「…………」」」」」」
一同沈黙した。
雷が落ちたのだもの。
そんなの誰だって驚いて沈黙してしまうわよね。
数秒後、蝶々から声が発された。
『次はない』
紛れもなくお義兄様の声だった。
「……はぁ。折角間近で見れる千載一遇の好機だと思ったんだがな。しょうがない、諦めよう」
そう言ってトーリ先生はくるりと教卓の方へ引き返していき、自己紹介を続けるよう次の生徒へ促したーーー
お義兄様、大威嚇。
お読みいただきありがとうございました!
また次話でお会いしましょう!




