ep1〜お義兄様と初登校〜
第一話投稿です。
「エリファ、おはよう」
「んん…お義兄様…おはようございます…ふぁあ」
「ふふ、私のエリファは寝起きでも可愛いね」
「ふふふ。そういうお義兄様だって、朝からとても素敵だわ?本当に人間なのかしら?」
「もちろん人間だよ。他に何に見えるの?」
「んー、天使様かしら?」
朝日に照らされてきらきら光るお義兄様の銀髪。そして透き通る空のような碧い瞳。本当にまるで天使様みたい。
くすくすと笑ったわたくし。そんなわたくしの額にお義兄様はキスをして、ぎゅっと抱きしめてくる。その行為に、少しどきっとしてしまう。
(…?今のは…?)
この10年間、わたくしとお義兄様はいつも一緒。
一緒のベッドで眠り、一緒に起きて、一緒に1日を過ごす。
なので寝起きに抱きしめられてキスをされるのは当たり前のことだった。
2年前からお義兄様は王立魔法学院に通っているから日中は離れる時間もあったけれど、今日からはもう少し一緒にいる時間が増える。それが嬉しくて心が跳ねたのかもしれない。
「さぁ、起きようか。エリファも今日から学院だ。また一緒にいられる時間が増えて嬉しいよ」
「わたくしもよ。またお義兄様と一緒に昼食をいただけるのね。楽しみだわ」
「本当だね。…じゃあ私も着替えてくるから、エリファも支度ができたら食堂に来るんだよ?一緒に朝食を食べて、一緒に学院に行こう」
「ええ、わかったわ。それじゃあお義兄様、またあとでね」
ベッドサイドに置かれたベルを鳴らして、メイドを呼ぶ。
メイド達はすぐに部屋へ入ってきて、わたくしの支度をはじめた。
金糸の髪は猫っ毛なので絡まないよう丁寧に梳り、ハーフアップにセット。飾りはお養母様からいただいた蝶々の形のバレッタ。
わたくしの真紅の瞳に合うよう化粧を施し、お義兄様からいただいたお気に入りの香油をつけ、学院の制服に着替えた。
深緑のブレザーにグレーのチェック柄のスカートが可愛い。リボンはわたくしの瞳と同じ真紅で、中央にお義兄様が入学祝いにくださったブルーダイヤモンドのブローチをつける。
メイドに礼を言ってから下がらせ、食堂へ向かう。
わたくしが食堂に入ると、お養父様とお養母様とお義兄様は既に揃っていた。
「ああ、エリファ。おはよう。今日は一段と輝いているね」
「お養父様、おはようございます。ふふ、今日は初めての登校ですもの。気合いを入れて支度をしてもらいましたわ」
「あの小さかったエリファがもう学院へ通うのね…。子どもの成長って本当にはやいわ…」
「わたくしももう16歳ですからね。大きくもなりますわ」
「…あなたが娘になってくれてよかったわ。ありがとうエリファ。愛してるわ」
「お養母様…」
対面に座るお養母様の目には涙が輝いていて…。
それを見て、わたくしも胸が熱くなってしまう。
2人で感動していると、隣に座っていたお義兄様がこほんと咳払いをした。
もう、いいところだったのに。
「さぁ、はやく朝食をいただきましょう。エリファが遅刻してしまう」
「その時はお義兄様も一緒でしょう?」
「勿論。でも折角の学院初日だからね。早めに行って少し学院内を見て回ろう」
「まぁ素敵!是非そうしたいわ!」
「なら早く食べてしまおうね」
お義兄様に促され、わたくしはそれに従って朝食をいただいた。
学院は寮もあるのだけど、馬車で邸から通う生徒が多いそう。寮に入るのは王都に邸を持たない地方貴族の子息令嬢達らしい。
わたくしは勿論通学組。お義兄様が転移魔法で連れて行ってくださるから、本来朝は少しゆっくりできる。
今日は早めに出る分、学院内を見て回る時間が取れるということなの。
わたくしが食事を終えたのを確認すると、お義兄様はメイドからわたくしとご自分の通学カバンを受け取り、わたくしを立たせて腕を差し出してくれた。
その腕にわたくしもそっと手を添える。
「では父上、母上。行って参ります」
「ああ。行ってきなさい。気をつけるんだよ」
「エリファ、忘れ物はない?ハンカチは持った?」
「ええ、お養母様からいただいた蝶々の刺繍入りのハンカチを持ちましたわ」
「そう。使ってくれていて嬉しいわ。気をつけて行ってらっしゃい」
「はい」
「…それじゃあエリファ、行くよ」
「はい、お義兄様。お養父様、お養母様、行って参ります」
お二人は笑顔でそれに返してくれる。
わたくしがお義兄様を見つめると、お義兄様は頷いてしゅんと学院へ転移したーーー
◇
目を開くと、そこには大くて豪華な建物があった。
中央には噴水があって、その左右は美しい芝とトピアリーで装飾された庭が広がっている。
まだ時間がはやいのか、生徒の姿は見当たらない。
「来たのは二度目だけど、やっぱり素敵な建物ね…。お義兄様の教室はどのあたりなの?」
「私は東校舎の三階だよ。あのあたり。エリファも東校舎だけど、一階だね」
なるほど。学年によって階が違うのね。
新入生は事前に受ける簡単なテストでクラスが決まる。見られるのは基礎学力と魔力量。
わたくしはどちらも評価が良かったようで、無事一番上のSクラスに所属することになっていた。
勿論お義兄様もSクラス。お揃いで嬉しいわ。
校舎内をお義兄様がゆっくり案内してくれる。
入学初日ではあるが、特段セレモニーなどもないので時間になったら教室へ行けばいい、とお義兄様が事前に教えてくださった。
教員の準備室、実験棟、大ホール、訓練所…色々な部屋があって、とても興味深かった。
一通り見終わり、中庭のベンチで休憩していると、後ろの方から足音が聞こえてきた。
生徒が登校し始める時間になったのかしら、と思ってちらりと視線を向けた先にいたのは、わたくしが唯一知っている公爵家以外の殿方。
「よう、蝶々公爵家の仲良し兄妹。随分お早い登校だな」
「…ジーク。私は今エリファと中庭の景色を楽しんでいるんだから邪魔しないでくれないか?」
「お義兄様…。もう、殿下に失礼ですよ?」
「エリファは優しいなぁ。こんな心の狭い義兄じゃなくて俺のことを兄だと思ってくれていいんだぞ?昔は『ジーク兄様』って呼んでくれたろ?」
「あの頃はまだ幼かったですから…。それにわたくしの兄はノアお義兄様だけですわ」
「ちぇ、またフラれちゃったか。でもノアが嫌になったらいつでも言えよ?なんなら俺の妃にーー」
「ジーク。ふざけるのも大概にしてくれないかな?エリファは私だけのエリファだよ」
「おーこわ。はいはい、わかりましたよ」
そう言って殿下ーージークフリート王太子殿下は両手を挙げて笑った。
殿下はこうしてお義兄様を揶揄って遊ぶのが趣味らしい。悪趣味なことだわ。
わたくしがユリシス公爵家の養女になってしばらく経った頃、お義兄様の幼馴染みである殿下が公爵家に遊びに来た時に初めてお会いした事がきっかけで、今でもこうしてわたくしにもよく話しかけてくださる。とても気さくな方。
「そういえばエリファは今日から学院だろ?クラスは?」
「Sクラスですわ。わたくし、クラスでお友達できるかしら…」
残念なことにわたくしにはお友達がいない。
公爵家に来てから、お茶会などに出たこともなければ開催したこともないから。
一度家族の前でそう言った交流はしなくていいのか聞いてみたのだけれど、お義兄様が『エリファは今のままでいいんだよ』と笑って言ったので、そういうものなのねとあまり深く考えないことにした。
なのでお義兄様と殿下以外の同年代の方々に会うのは今日が初めて。不安にもなるわ。
そんな気持ちが表情に出ていたのか、お義兄様はわたくしの頭を引き寄せてこめかみにちゅっとキスをしてくれた。
いつもの行為。でも…
(あら…?今、また…?)
内心不思議に思っていたけれど、お義兄様は言葉を続ける。
「大丈夫だよエリファ。別に友達なんて作らなくていい。私以外は皆羽虫だからね。薔薇の側にいていいのは蝶々だけだよ」
「お義兄様…。でも、わたくしできれば女性のお友達がほしいわ?男性は…お義兄様がお嫌でしょう?」
お義兄様は何故かわたくしに男性が近寄ると不機嫌になる。
邸の使用人の男性に近づく度にそうなる。
殿下にも最初そうだった。今は許したようだけど、それでも先ほどのような態度になるくらいにはお嫌らしい。
「まぁね。…じゃあSクラスの人間だけなら交流してもいいよ。女性限定でね」
「本当?嬉しいわ!ありがとうお義兄様っ!」
お義兄様に抱きついて頬にキスをする。
お義兄様も同様にキスをしてくれた。
(唇の…横に…)
どき、どきと胸が鳴る。
その理由がわからない。いつもの、ことなのに。
「はぁー、溺愛っぷりが酷くなってないか?口から砂糖吐きそうだ」
「そう思うならさっさと教室に戻ればいいんじゃないかな?」
「そうさせてもらうわ。じゃあまたなエリファ。何かされたら俺も頼れよ?」
「ふふ、ありがとうございます殿下。でもお義兄様がいてくださるので大丈夫ですわ」
「ははっ、そうか。まぁノアが駆けつけられなかったらってことだ。そんなことは無さそうだけど、一応な」
殿下は優しい。養女のわたくしにもこうして優しく接してくださる。
この方が将来国王になるのが今から楽しみだわ。
そうして殿下はそのまま中庭を去って行き、わたくしもお義兄様に連れられて自分の教室へと向かう。
その途中、わたくしはふと今朝からの異変について考える。
(わたくし…今朝から何か変だわ…?)
わたくしからお義兄様にキスをするのもよくあること。なので先ほども頬にキスをした。
昨日まではなんともなかったはずなのに…。
不思議に思いながらも歩みを進め、1年生のSクラスに足を踏み入れるーーー
エリファ、変化の兆し。
お読みいただきありがとうございました!
また次話でお会いしましょう!




