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お義兄様とプロローグ

ムーン版を修正してR15版として投稿です!

よろしければお付き合いください!



わたくしが6歳のある日、お父様が亡くなった。

わたくしを攫おうとした暴漢に刺されて。


その1ヶ月後、後を追ってお母様も亡くなった。

『お前のせいだ』と言われ続けたけれど、それでも優しかった頃のことを思い出す。


もう、ひとりなのね…と理解したとき、わたくしは声を上げて泣いた。


だが涙が枯れるまで泣いても、心は曇り空のようにどんよりとしていた。


(わたくしはこれから一体どうなるのかしら…)


お母様のお葬式の後、邸の自室でぼんやりと考えていた時、扉がかちゃりと開いた。

入って来たのはとても大きな殿方。


(この方は誰かしら?何故こんな所に?)


戸惑っていたわたくしに気づいたその方は、ゆっくりとわたくと視線を合わせるように屈み、にこりと笑ってくれて、静かな声で私に話しかけてくれた。


『こんにちはエリファ。一度会っているのだけれど、覚えているかい?』

『………ごめんなさい』


わたくしが謝ると、その方はわたくしの頭をぽんと撫でた後、一匹の蝶々を出してくれた。

鮮やかなコバルトブルーの美しい蝶々。

ああ、たしかこの蝶々、以前どこかで…




『あっ…、蝶々のおじ様…?』







ーーー蝶々のおじ様に初めて会ったのは、わたくしがまだ4つの時。

お父様のお父様ーーわたくしにとってのお祖父様のお葬式に蝶々のおじ様はいらっしゃった。


あの日はお祖父様の死を悲しむかのような雨が降っていて…その雰囲気が怖くてわたくしは泣いてしまったのだ。

すると蝶々のおじ様がわたくしに近づいてきて、先ほどのように綺麗なコバルトブルーの蝶々を見せてくれた。


『ちょうちょ!きれー!おじさまありがとう!』


泣くのをやめて喜ぶわたくしを見た蝶々のおじ様は、にこりと笑って頭をぽんと撫でてくれた。


『またいつでも見せてあげるね』


そう言っていたけれど、それ以降お会いすることもなく、時が経つにつれ蝶々のおじ様のことは忘れていったーーーー



そんな方がわたくしの元へ来てくれたことを知って、ひどく安心したことを覚えている。




『思い出してくれて良かった。今日は、エリファを迎えに来たんだ。今日から君はうちの子だよ』

『蝶々のおじ様のおうち…?』

『そう。私はエリファのお父様の兄なんだ。だから元々家族のようなものなんだよ』

『……本当?わたくし、ひとりじゃない…?』

『ああ勿論。エリファは独りじゃないよ。どうかな?私の家族になってくれるかい?』



おじ様の、家族…。

わたくしに、新しい家族ができる…。


当時お父様とお母様を失ったばかりだったわたくしにはまだそれがどう言うことなのかきちんと理解できていなかった。

ただ、お父様とお母様が亡くなってひとりぼっちだと思っていたところに来てくれた、昔優しくしてくれた蝶々のおじ様なら、きっとわたくしをひとりにしないと、なんとなくそう思ったのを今でも鮮明に覚えている。


『……わたくし、おじ様と一緒に行くわ』

『よかった。では行こうか。エリファの新しい家に。馬車の中でもっと話をしよう』

『このお家はどうなるの…?』

『ここは元々君のお祖父様がマルクス…君のお父様にあげた我が家の別邸だった場所だからね。なくなることはないよ。来たくなったらいつでも来れるさ』


それを聞いて安心したわたくしをおじ様は、わたくしを抱き上げ部屋を出て、馬車へ乗り込んだ。

我が家ーーローズ家で使っていた物よりも豪華で、揺れも少ない。乗り心地の良い馬車だった。



おじ様は馬車の中でおじ様の家のことについてわたくしでもわかるように教えてくれた。


おじ様のお名前はヴィクター・ユリシス。ユリシス公爵家の当主。王宮で筆頭魔法師団長を務めている。

わたくしのお父様はその部下として一緒に働いていたと言う。

おじ様には2人家族がいる。

奥様のアリッサ様。そして息子のノア様。

ノア様はわたくしより2つ年上らしい。


ユリシス公爵家にはたくさんの蝶々がいて、それは全て魔法の蝶々なのだとか。それ故他の貴族の方々からは『蝶々公爵家』と呼ばれることもあるそうだ。

亡くなったお父様はその公爵家の次男で、独立する際お祖父様から『ローズ伯爵家』をまかされたらしい。


ユリシス(蝶々)とローズ(薔薇)。

素敵な組み合わせだわ、と思った。


『じゃあお父様もおじ様みたいに蝶々の魔法が使えたの?』


ふと気になったことを聞いてみたが、おじ様は静かに頭を振った。


『蝶々の魔法はユリシス公爵家の嫡男しか受け継ぐことができないんだ』


と。

わたくしはそれを聞いて少し残念に思ったことを覚えている。


『そっか…じゃあわたくしも使えないんだ…』

『そんなに気に入った?』

『はい…わたくしが使えるようになったら、お父様とお母様のお墓の前で見せてあげたかったの…』


しょんぼりするわたくしの頭をおじ様は優しくぽんと撫でる。

…おじ様はこの撫で方をよくする方なのね、と思った。


『では私が今度2人の墓に手向けの蝶々を贈ろう』


その優しさが、頭に置かれた手から滲んできて、わたくしの心を少しずつ癒してくれるように思えたーーー







おじ様とのお話に夢中になっていたわたくしは、どうやら疲れて眠ってしまったらしく気がつけばベッドの上にいた。


誰もいない部屋。外は既に薄暗くなってきていた。

それが少し怖くなって、わたくしは部屋を飛び出した。

またひとりになってしまったのかと思ったら、そうせずにはいられなかった。


夢中で走って着いた先は、邸からも出入りできる広い温室だった。

たくさんの薔薇が咲いていて、それに気を取られたわたくしは先ほどまで感じたいた恐怖心が少し和らいだように感じた。


それに、ここにはたくさんの蝶々がいた。それも相まっていたのだと思う。

でもこの蝶々たち、おじ様が見せてくれた蝶々とは少し違った。


おじ様の蝶々はコバルトブルー一色だったけど、ここの蝶々たちはコバルトブルーに真紅の模様が入っていた。

なんだか、とってもーーー




『………きれい』




『誰…?』



誰もいないと思っていたので、声をかけられたことにびっくりしてしまった。

恐る恐るその声の方を見てみると、そこには1人の男の子が立っていた。

その子の肩には、蝶々がとまっている。



『ご、ごめんなさいっ!わ、わたくし、気づいたらお部屋にひとりで…!こわくなって…!それで…!』


なんとか説明しようとしたが、なかなか上手く喋れない。

突然知らない人に出会ったのでどうすればいいかわからなくなってしまっていた。


『大丈夫だよ。怒ってるわけじゃない。ここはユリシスの血が流れている人しか入れない温室だから、知らない女の子が居てちょっとびっくりしたんだ』

『あ…そうなんだ……。わたくし、エリファ。ローズ伯爵家の娘だったの。…お父様たちが亡くなって、おじ様がここに連れてきてくれたの』

『ああ、君がエリファなんだね。初めまして。僕はノア。ノア・ユリシスだよ。君の義兄になるのかな?』

『ノア…お義兄様…?』


そういえばおじ様が息子がいると言っていたことを思い出す。


『うん。よろしくね、エリファ』


ノアお義兄様の肩にとまっていた蝶々が、わたくしに近づいてきてくれて。

『気に入られたのかな?』と嬉しくなって、指を差し出してみた。

蝶々がそれにとまった瞬間。


『触っちゃだめだっ!』


ノアお義兄様が叫んだ。

でも、蝶々は既にわたくしの指で羽を休めている。

それを見たお義兄様は大きく目を瞠いた。


『……嘘…。エリファ、大丈夫?気持ち悪くない…?』

『?大丈夫よ?こんなに綺麗なんですもの』

『……………君は、この蝶々が綺麗に見えるの?』

『もちろん!とっても綺麗だわ!…この青、お義兄様の瞳の色にそっくりだし、模様の赤はわたくしの瞳の色に似ていません?なんだかとても素敵だわ!』


わたくしは真紅の瞳が気に入っているから、似ているこの蝶々の赤もとても気に入った。


『…本当だね。確かに僕たちの瞳の色だ。…うん、僕も、初めてこの蝶々を好きになれたよ』

『今まで好きじゃなかったのね?もったいない!でも、好きになれたならよかったわ!』

『ありがとう。…そろそろ行こうか。父上たちも心配しているだろうし。案内するよ』

『ええ、ありがとう!』




これが、わたくしとお義兄様の出逢いだったーーー






お読みいただきありがとうございました!

また次話でお会いしましょう!

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